最後のショーのフィナーレに登場したマーク・ジェイコブス
マーク・ジェイコブスが2013年10月2日、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」2014年春夏コレクションのショーを最後に16年間務めた同ブランドのアーティスティック・ディレクターを辞任した。今後、自身のブランドである「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」にフォーカスし、デザイン活動をスタートするマークにWWD-NYのブリジット・フォーレイ=エグゼクティブ・エディターがインタビューをした。
【ルイ・ヴィトン 2014年春夏パリ・コレクション 全ルック】
マークが手掛けた最後の「ルイ・ヴィトン」2014年春夏コレクションから
WWD-NY(以下、WWD):「ルイ・ヴィトン」のアーティスティック・ディレクターを退任して物足りなくないか?
マーク・ジェイコブス(以下、マーク):皆から「大丈夫?」って聞かれるけど、とても前向きだよ。僕はオープンな人間だから、そうじゃなかったら、僕の方から大丈夫じゃないってはっきり言うよ。
WWD:今後はどのような方向性で活動していく予定か?
マーク:シューズやバッグにも関わりたいし、「セフォラ」とコラボで始めたコスメラインが大成功したから、それにも、もっと時間をかけたい。これからも、年間数ヶ月はパリで仕事をすると思うよ。オフィスもあるし、その方がメリットがあるから。変化があるとしたら「ルイ・ヴィトン」のショーがなくなるってこと。
WWD:「マーク ジェイコブス」はブランドとして常に優先順位が高かったか?
マーク:LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトンのベルナール・アルノー社長兼最高責任者(CEO)は僕に「ルイ・ヴィトン」のデザインを任せたいがために、僕らのブランドが継続できるよう投資をしてくれたんだ。ロバート(・ダフィ=マーク ジェイコブス インターナショナル社長)がいつも「『ルイ・ヴィトン』に全力を注いでいるのはよくわかる。でも、『マーク ジェイコブス』こそ僕らが築いたブランドで、将来そのものだ」って言ってたのを思い出すね。
WWD:「マーク ジェイコブス」というブランドにとってLVMHの存在とは?
マーク:「ルイ・ヴィトン」のデザインを始める前は「アイスバーグ」のデザインや日本でコンサルティングなどいろいろなことをしてたよ。「マーク ジェイコブス」のコレクションを継続するためにね。だから、LVMHは「ルイ・ヴィトン」のデザイナーという素晴らしいチャンスを与えてくれただけでなく、僕らのブランドの支えになってくれたんだ。自身のブランドと「ルイ・ヴィトン」のデザイナーという素晴らしいチャンスを与えてくれただけでなく、僕らのブランドの支えになってくれたんだ。
WWD:自身のブランドと「ルイ・ヴィトン」への思い入れの差はあったか?
マーク:かなり。パリでは僕は外国人だからね。ニューヨークは生まれ育った所で、友人もたくさんいるし現実味がある。でも、パリでは政治も経済も他人事。僕が見たいものを見ればいいだけ。心情的にパリに愛着があるからこそ、パリの表面的な部分も本当に愛せるのだと思う。人は時どき、感情を正当化しようとするけど変だよね。愛とか幸福感とかって、感情以外の何ものでもない。理由が何であっても、自分の感情を認め大切にするべき。それは真実なのだから。
女性デザイナーの方が本能的にスタイルを理解している
マークが手掛けた最後の「ルイ・ヴィトン」2014年春夏コレクションから
WWD:デザイナーのインスピレーションとはどのようなもの?
マーク:皆、インスピレーションがどうだとか、何を考えているかとかいう話をするよね。でも、僕がデザイナーとして最も尊敬するのは、何かを持っているけれど、それについて話すこともしなければ意識もしていない人。だからこそ、怖いもの知らずで才能がありクリエイティブな人々と働けるんじゃないかな。クリエイティブで繊細な人にとって、直感とか本能はとても重要なもの。本能的なクリエイションは常に周囲の人を喜ばせるとは限らない。でも、僕をクリエイションに駆り立てるものは、察知することもできなければ計算することもできない。それは、本能そのものだから。
WWD:自分の本能的なクリエイティビティに疑問を抱いたことは?
マーク:常に疑問を持っているよ。それは僕にとって当然ともいえるクリエイションの過程。僕は、選択したことに対して自信があっても、それに対してある程度疑うことが必要なタイプなんだ。
WWD:最後の「ルイ・ヴィトン」のショーで時計を反対に回した理由は?
マーク:ヴィヴィアン・ウエストウッドとキングスロードにあった彼女のブティックであるワールズエンドのことを考えたんだ。その店の時計は反対に回ってたんだよ。これはファッション業界の人々が「これが新しい、あれが新鮮」とクリエイションに対して述べることに向けた皮肉みたいなもの。何が新しいかってことは自分で定義するべきものだ。いろいろな素材だってテクニックだって以前からあったはずで、デザイナーにとって新しいものって、一体何だかわからないよ。僕にとって新しいものは、新しく買ったものか作ったもの。過去を振り返り、何か新しいものを作りだすことをしたかった。それを「ルイ・ヴィトン」の最後のショーで発表したわけさ。
WWD:周囲の人々のショーに対する解釈についてどう思うか?
マーク:人々のショーに対する解釈を否定する気は全くないよ。もちろん、僕にとってのインスピレーションや考えはあるけど、それらを説明するつもりはない。例えば、映画を見たり音楽を聞いたりするのに特別な教育なんて必要ないよね。何の知識もいらない。文化的なエリートぶらなくっても、自分の感じたことに素直になればいいだけでしょ。人々が僕のショーをどう解釈しようと、僕には関係ないこと。
WWD:女性デザイナーが好きなようだが?
マーク:ファッションにおいて大きな変化や影響をもたらしたデザイナーはすべて女性でしょ。ミウォッチャ・プラダ、川久保玲、マドレーヌ・ヴィオネ、エルザ・スキャバレリ、マダム・グレといったようにね。彼女たちの作品には長く語り継がれるメッセージがある。いわゆるスタイルを作りだしているんだ。ファッションは一過性のトレンドでしかない。でも、スタイルは残っていくもので、服の着方や、それに対する見方だったりする。女性の方が本能的にスタイルというものを理解している気がするね。男性は女性の服を着ることもできないし、何を着たら気分がいいかもわからない。誰かに服を着せるって感覚だよね。
WWD:最近よくライフスタイルという言葉を聞くが?
マーク:ライフスタイルって一体何のこと?ジム通いをしてスポーツに打ち込んでいること?ボディガードを引き連れてプライベートジェットで世界を飛び回るってこと?ライフスタイルって言葉自体が使い古された言葉だよ。
WWD:「マーク ジェイコブス」は株式公開を目指しているが、そのためにクリエイティブ面で妥協するつもりはあるか?
マーク:クリエイティブな挑戦をすることには抵抗はないよ。それに妥協じゃないからね。次のステップに進むためには、常にオープンマインドでいるしかないよ。
WWD:ファッションがすべてだと言っていたことがあるが?
マーク:まったくその通り。ファッションを愛しているよ。それは、僕の自己表現だから。