近年、ファッション業界外の人物たちによるアパレル参入が加速している。キュレーションメディア「メリー(MERY)」運営会社のペロリ創業者で個人投資家の中川綾太郎もその一人だ。中川氏は2017年に自身の会社newn(ニューン)を設立。身長155cm以下の女性がターゲットの「コヒナ(COHINA)」や、リングブランドの「エラー(ERR.404.OR)」など、複数のD2C(Direct to Consumer)ブランドを運営している。なぜ、中川代表はnewnを創業し、D2Cビジネスに参入したのか?その理由に迫る。
WWD:newn創業の経緯は?
中川綾太郎newn代表(以下、中川):ペロリ売却後は個人投資家として活動していましたが、もともとウェブサービスを含め、モノやプロダクトを作るのが個人的に好きだったことと、未経験の分野を手掛けてみたいと思っていたことから起業しました。創業当時、僕の周囲のいわゆる天才的な人たちはAIやブロックチェーン、フィンテックなどに興味を向けていましたが、個人的にはあまり興味がなくて。テクノロジーがレバレッジポイントにはなるけど、本質は違うことに挑戦したいなと考えていました。
WWD:newnの現在の事業内容は?
中川: D2C事業のほか、チャット小説の「チャットノベル(CHAT NOVEL)」や音声プラットフォームの「スタンド.FM(STAND.FM)」といったアプリ事業ですね。音声は僕がある程度関わっていますが、社長・CEO=プロダクト開発者という一般的なスタートアップ企業のイメージとは異なり、僕はどちらかというと裏方的な存在です。僕ができることはマーケティングの仕組みづくりと経営管理全般、そして採用で、商品企画やデザイン、ブランディングなどは個々の担当者たちが手掛けています。newnは株式を保有し、さまざまなブランドや事業のバリューアップを行っていく、スタートアップスタジオのようなものです。
WWD:なぜ、D2C事業に参入したのか?
中川:インスタグラムやユーチューブの登場で、マーケティングチャネルが大きく変わる中で、“モノを作って売る”こと全体がネットネイティブになるという個人的な考えが背景にあります。従来のアパレルやメーカーはリアルな販路を前提としたビジネスモデルで、例えば在庫に関しては、店舗に並べるためにある程度積まなければならなかった。一方で、いわゆるD2Cと呼ばれるネット前提のブランドであれば、ウェブ上で販売予測をしたうえでの在庫管理ができる。さらには、「来店客はどのような人で、なぜこの商品を買ったのか」といったデータの取得や分析もしやすい。販路や売り上げる数量の部分を自社でコントロールできる新しいビジネスモデルに変わりつつある。なので自分もやってみたいな、と。
D2Cブランドは「マーケットのポジショニングが重要」
WWD:ネット前提のビジネスモデルを採っても、なかなかうまくいかないブランドもある。その理由をどのように捉えている?
中川:投資家として数多くのブランドの立ち上げと成長を見てきましたが、「顧客の課題をどう解決するのか」というマーケットのポジショニングと、ユーザーのインサイトの半歩先を捉えることがD2Cでは重要だと考えています。例えば18年に設立した「コヒナ」は、“身長155cm以下の小柄な女性の服”という明確な課題解決のための商品を作り、適切に提案することで現在は月商約5000万円にまで成長しています。逆に考えると、課題と解決法をしっかりと見出せれば、アパレル業界外の人間でも成功するチャンスがあるとも言えます。モノづくりのマーケットが非常に大きいのに対し、デザイン軸以外でアプローチするブランドがあまりなかったので。
WWD:運営ブランド数を増やす予定はあるか?
中川:もう少し増やしたいですね。最近では、雑誌「JJ」(光文社)の表紙にも登場している女優・山賀琴子さんのジュエリーブランド「エネルシア(ENELSIA)」も始めました。今後はnewnの傘下に収めるか、協業的な形か、もしくは完全内製の3つの方法のいずれかで新たに1、2ブランドをスタートできればと思っています。個人で始めたブランドで、モノ自体はすごく良いのに管理コストなどの問題から大きくならないところもある。それをnewnグループ内で一定の品質を保ち、マーケティングのノウハウを各ブランドでレバレッジさせられればいいなと思っています。
WWD:今後新たにスタートしたいブランドはどのような分野?
中川:大まかにはコスメや家具などのライフスタイル分野ですね。アパレルにこだわっているわけではなく、あくまで新しいことに挑戦してみたいという気持ちが強いです。
WWD:newnグループのブランドで、今後どの程度の流通額を目指している?
中川:5年後には100億円くらいになればいいなと思っています。先ほども言ったようにモノづくりのマーケットは非常に大きい。持続的なブランド運営やM&Aといった選択肢もあるため、無限の可能性があるはずです。