突如、「キンカン(第2類医薬品)」を販売する、創業93年を誇る老舗の金冠堂が“キンカン コレクション 2019(KINKAN SUMMER COLLECTION 2019)”を始動した。モデルがポージングするファッションブランドのようなポスターと動画を作成して渋谷の街に複数掲示した。これまで、ファッション業界とは無縁であった「キンカン」がなぜ?これはファッション業界に対する宣戦布告か?はたまた、ファッション業界の救世主となるのか?その謎に迫る。
WWD:ファッションブランドのようなポスターや動画を作ろうと思ったきっかけは?
横尾賢則・金冠堂広告宣伝課課長(以下、横尾):昨年から若者の認知度を上げる目的で東急エージェンシーに依頼して作成しました。昨年はウェブに動画をアップして好評をいただき、今年は昨年以上の成果を期待して今回の企画に至りました。
興津(おきつ)隼人・東急エージェンシー統合ソリューション局(以下、興津):昨年から良い意味で世の中の若者の期待を裏切る事に注力してきました。今年はメディアを通して、「キンカン」の従来のイメージと洗練されたファッションのアンマッチにより、どのような化学反応が起きるかをテーマとして進めてきました。イメージ戦略として次の100年を意識する中で、若者の反響を得るのに一番良い企画だと判断しました。
月足(つきあし)勇人・東急エージェンシー「座 -ZA-」(以下、月足):「キンカン」はブランドとしてコンサバなイメージを持たれていたが、黄色のボトルは色の配色が可愛いという見方もできます。そこで、可愛さを追い求めてハイブランドをイメージしてロゴを作り、Tシャツを作成してポスター貼りもしようというプランでした。そして、一番立体的に広がりそうだったのが今回の企画でした。
WWD:「キンカン」の認知度リサーチはしたか?
横尾:4月から8月までの期間、過去2年分の認知度データを取りました。データの傾向は、20代の認知度がとても低く、年齢層が上がると高くなりました。リサーチは、関東や関西で行いましたが、傾向的にエリアの差別はなかったです。若い子たちの所有率も非常に低く、コンビニやドラッグストアが近くにあるので必要な時に買いに行くという人が多かったです。
WWD:若者にもっと訴求していく狙いで渋谷にポスターを掲示した?
興津:元々は表参道に掲示する予定でした。ハイブランドの間に挟まれる形でポスターを掲示する予定でしたが、大人の事情で断念しました(笑)。夏休みが始まるタイミングで、多くの人に届ける狙いと、プロモーション動画のターゲットの年齢層がよく行く渋谷が良いのではと。渋谷で多面展開ができるプランを作成して、動画とポスターの両方にリンクする立体的な企画に仕上げました。
横尾:ポスターは7月26日まで掲示していました。たくさんの反響があり、テレビ局などにも取材されました。取材は、若者に渋谷で「キンカン」のポスターを見たときの反応、銀座では使用している年配の方にインタビューをしていただきました。東京以外の名古屋や大阪など地方のテレビ局にも取り上げられました。
WWD:今回作成したブランドロゴをパッケージに使用した商品は販売しない?
横尾:今回のキャンペーンのみになります。薬はメーカーの直販ではなく流通を経てドラッグストアで販売するため在庫の管理が難しいからです。
興津:ファッション業界に参入して潔く勝負をしたかったので、ロゴはこのキャンペーンだけに使用しました(笑)。
WWD:動画やポスターを作る上でハイブランド感を出すために意識したところは?
興津:起用するモデルのオーディションは、かなりの人数を見ました。実際にフォトグラファー、アートディレクターと一緒に選びました。モデルの経歴なども踏まえて3人のモデルをキャスティングし、統一感のあるブランドを表現するために顔のバランスを見たりもしました。そのほか、フォトグラファーとの相性を見るためにコミュニケーションを図り、外国人モデルは「キンカン」を見た事がないと思うので、呑み込みの早そうな感度の高いモデルを選びました。
WWD:モデルが着用しているウエアのブランドは?
興津:具体的なブランド名は言えないですが、国内ブランドとインポートブランドをミックスしてコーディネートしました。ウエアは実は蚊帳をイメージしたものやカラーはパッケージに合わせたイエローや、シューズは蚊の口をイメージしたデザインを採用したりしています。誰にも気づかれなくてもそこはこだわりたかったです(笑)。
WWD:オリジナルTシャツのデザインのこだわりは?
興津:ワンポイントのロゴを採用したウエアなど、全て蚊に通ずるアイテムを作成しました。Tシャツに付けるタグのデザインは、ブランドの象徴という事もあり特に時間をかけました。「キンカン」が誕生した年やアーカイブのパッケージのカラーリングを使用したんです。
WWD:キャンペーンの反響は?
横尾:現在、抽選で40人プレゼントに対して、応募総数が約4000人を超えています(笑)。キャンペーンを見た方が興味を示してウェブサイトまで訪れている事に対して手応えを感じています。
WWD:来年も継続して企画、仕掛けをする?
月足:若年層をターゲットに来年も挑戦したいと思っていますが、それがファッションかどうかは分かりません。毎年、トレンドが変わるので若者にどう訴求できるかを時代の傾向に合わせて試行錯誤していきたいと思っています。