8月1日に渋谷区神宮前のWeWork アイスバーグで開催された、廃棄在庫問題=衣服ロス問題について考え課題解決に取り組むプロジェクト「FOR FASHION FUTURE Project」の第1回イベントに参加してきました。アダストリアが音頭をとり、ファッション業界みんなで上記の課題に取り組むべきだということで集まった方たちが登壇し、この問題についてそれぞれのテーマで語り合っていました。
第1部は「売るだけじゃない、エシカルなビジネスの可能性」、第2部は「利益追求型ビジネスの先へ。循環型ファッションの可能性」を巡るテーマで、今ファッション業界が考えなければならないトピックスです。スポーツメーカーやアパレル企業、メディアといったさまざまな分野の人たちが熱心に話を聞き、質問をしていました。アダストリアの高橋朗イノベーションラボ部長がイベントで話していたように1社ごとの取り組みだけではなく、横のつながりで皆が共に取り組み、業界全体で考えることが必要な時代に差し掛かっているのかもしれません。
今回のイベント中でもローランド・ベルガー パートナーの福田稔氏と松島倫明「WIRED」日本版(コンデナスト・ジャパン)編集長による第3部の対談「10年後のファッションの満足はこう変わる。テクノロジーがファッション業界にもたらすもの」を特に楽しみにしていました。というのも、ドイツを本拠とする経営戦略コンサルティングのローランド・ベルガー日本法人 パートナーの福田稔氏による今話題の著書「2030年アパレルの未来 日本企業が半分になる日」(東洋経済新報社)を読んでいる最中だったからです。同書にはアパレルの現状、課題、未来像が明快に整理されています。
福田氏は対談の中で、トレーサビリティー、いわゆる透明性においては、2009年にスタートしたロサンゼルス発「リフォーメーション(REFORMATION)」を一例に話をしていました。同書にも書かれていますが、同ブランドは“サステイナビリティー”をブランドコンセプトにし、商品にはデッドストックや環境に配慮した天然素材を使用し、ECサイトの各商品ページでは、水の使用量やCO2の排出量、原材料の破棄量など、商品ごとにどの程度環境に優しいのかを示した数字を見ることができるということです。商社やOEMメーカーなどの中間業者を介さず、企画、製造、販売、発送までを自社で行うSPA企業で、原材料調達から生産・販売まで一貫したトレーサビリティーを実現しているからこそ可能だとのこと。
私もブランドができた当初、ニューヨークのショップを見に行ったことがあります。かわいい柄のドレスやシャツが並んでいたのですが、デットストックを使用していることもあり、当時は古着店のような雰囲気だなという印象でした。それからますます進化し、試着したい商品をタッチスクリーンから選択することで、店員と話さずとも気に入った商品を何度も試着できる環境を整えています。「“エシカル”と“テック”を掛け合わせている点が同社の独自性」であると福田氏。気持ちよくショッピングができる環境や商品をスマートに実現している印象です。
リフォーメーションは7月には英投資ファンドのペルミラ(PERMIRA)に株式の過半数を売却しています。「今回の提携によって国内外の事業をいっそう拡大し、新たなカテゴリーを手掛けることが可能になる」と同社のアフラロ創業者兼CEOは語っています(「WWDJAPAN.com」7月12日の記事から抜粋)。リフォーメーションのような企業はますます注目され、今回のような提携や資金調達などによってさらに成長していくのでしょう。一方で取り残されていく企業も現実としては増えていくのだと思います。
同書によると、高齢化や人口減少に加え、アパレル支出・単価を抑制するさまざまな要因が存在し、現在9.2兆円の市場は10年間で約1兆円減少し、2030年には8.2兆円というゆるやかな減少となり、人口減だけではなくアパレル支出額が毎年1%減少となる場合には約7.1兆円となり、毎年2%下落した場合は約6.2兆円まで縮小するとのこと。バブル期のピーク時に約15兆円あった国内市場は今9兆円を割り込もうとしているといいます。そうなれば、「日本企業が半分になる日」が来ないと言える理由はないということになります。
福田氏は同書の中で企業やブランド側が独自性を確立し、さらに多様化する消費者の価値観をとらえ、「価値軸」を持つことの重要性を説いています。国内アパレル産業は今後どう変化し、何をすべきなのか、そして生き残るためのヒントや世界の最先端では何が起こっているのかといった内容まで幅広く触れられており、ここでは書ききれないので、ぜひ手に取ってほしい一冊です。同書や先のイベントを通してあらためて思うのは、環境問題やテクノロジー、AIの進化といった大きな波が国内アパレル企業や産業にもいよいよ押し寄せ、生き残りをかけた待ったなしの状況がやってくる、やってきているということです。
例えば、マスカスタマイゼーションが進んだら在庫を減らせるかもしれないですが、これまで一定数の生産量を請け負ってきた川上の国内工場はどうなるだろうかなど、さまざまな問題や課題が出てきそうです。そのような業界全体の問題を話し合っていくことの必要性を感じ、またそれらの声を出し合うきっかけをメディアでも作っていかなくてはいけないと実感しました。