ファッションテックを利用したパーソナルスタイリングサービスの注目度が高まっている。スタイリストがコーディネートした服を借りられるファッションレンタルサービスの「エアークローゼット」は会員数が22万を突破した。大手ECサイトの「アマゾン(AMAZON)」もこのほど、新たな会員向けサービスとして「パーソナルショッパー バイ プライムワードローブ(Personal Shopper by Prime Wardrobe」を開始。一部のセレブたちが利用するものといったこれまでのパーソナルスタイリングのイメージは今、一般消費者が手の届くサービスとして変わり始めている。
ファッションパートナー代表の小野田史は7月、プロのスタイリストによるパーソナルスタイリングが体験できるマッチングプラットフォーム「スタイリスト(STYLISTE)」をスタートさせた。利用者の買い物をアテンドする“ショッピングアテンド”と、利用者の自宅のクローゼットをスタイリストが編集する“ワードローブエディット”の2つのサービスで、“一人に一人のスタイリスト”の実現を目指す。
小野田がスタイリストとしてのキャリアをスタートさせたのは今から約18年前。当時から、ファッション誌やテレビなどの“to B”だけを相手にするスタイリストの活動の幅の狭さに疑問を感じていた。「一般消費者にとってヘアスタイリストは身近なのにどうしてファッションスタイリストはそうじゃないのか、どうやったら一般消費者、“to C”に価値が出せるのかという疑問が新たな市場ニーズの開拓のヒントとして漠然とあったんです」。
さらに小野田は、一般消費者のクローゼットの稼働率の低さに注目した。「あるデータでは、北海道から沖縄までタンスに眠っている洋服が約7兆円分あるそうで、ワードローブで機能している割合は20%しかないそうなんです」。
2014年、「エアークローゼット」の誕生などD2Cビジネスが主流になるにつれ、多くの人が課題を抱えている手持ち服のコーディネートにスタイリストが直接アプローチする上記の2つのサービスのアイディアが固まった。
「ワードローブエディット」のサービスでは、ただやみくもに買い足しを進めるのでなく、今あるモノ、眠っているモノの活用や二次流通を利用した断捨離もサポートする。家庭でたまっている衣服をプロの知見に基づいて循環させることが、スタイリストのできる社会貢献の一つだと考えた。
サービスローンチの約3カ月前に始めたクラウドファンディングでは達成率215%と予想以上の反響があった。「クラウドファンデイングは莫大な費用を集めようというのではなく、賛同してくれる人がいるのかどうかを見極めたかったからで、僕は一人でもいればやろうと思っていました。でも思った以上に支援が集まったのは、リターンに価値があったからだと思う。一般的にリターンがモノではなくサービスである場合、支援が集まらない傾向にあると言われています。でもわれわれが設定した“ワードローブエディット”のサービスに大きなニーズがあったんです。自分に合うスタイリストを探していた人や、手持ち服のコーディネートに困っている人がたくさんいることに驚きました」。クラウドファンディング上で反応があったのは20〜30代半前半のITやシステムエンジニア、若い起業家など時代に敏感な男性たちだった。「ファッションに対して強いこだわりはないけれどダサいと思われたくないとか、仕事上で必要などなんらかの課題を持っている人にニーズがありました」。
スタイリストを目指す若者が育つ場を目指して
小野田はプラットフォームの安全性も重要視する。利用者は登録時に身分証の掲示が求められる。法律顧問には自身もスタイリストのキャリアを持つ海老澤美幸弁護士を迎えた。「スタイリストの多くはITや法務税務に関するリテラシーがそんなに強くないんです。サービス内で起こるトラブルはもちろん、個人事業主として困ったことがあれば海老澤先生を紹介できるシステムを作りました。おかげで、今まで個人でやっていたスタイリストさんたちがどんどん集まってきてくれています」。
スタートから1カ月経った現在の会員数は100人弱で、スタイリストは約40人とまだ緒に就いたばかりだ。今後は百貨店や他企業との協業を通した無料スタイリングサービスや、企業の福利厚生を通して同サービスを広めていくことを視野に入れる。現在はトランジットジェネラルオフィスが主催する婚活パーティー「Just You!」と提携したスタイリングサービスを行っている。さらにショップ店員などアパレル企業に勤める人たちに、スキルが生かせる副業の一つとして提案していく。
現在登録できるスタイリストはプロとしてのキャリアを持つ人に限定しているが、今後はスタイリストを目指す若い世代がスキルを磨く場として活用していきたいという。「私たちが若い人たちを育てる市場が“to B”しかないのがすごくさみしいと思ったんです。ヘアスタイリストさんは“to B”の仕事をしながらも自分のサロンでは“to C”にもサービスを提供している。私たちファッションスタイリストもこのサービス構造ができると思っています」。そして、“一人に一人のスタイリスト文化”が根付いた先には、「小さな子どもが、昔よくうちに来てくれたスタイリストさんのように私もなりたい、と夢を語ってくれる未来になっていけばいいなと思います」と語る。