ファッション

東京とアフリカの架け橋に! 学生と社会人で作るファッションショーの現在地

 アフリカの魅力を、日本の若い女性にもっともっと知ってもらいたい――。そのような思いを胸に学生と社会人有志が地道に続けてきたファッションショー「東京アフリカコレクション(TOKYO AFRICA COLLECTION)」が、今年も東京・有楽町の有楽町朝日ホールで9月1日に開催される。

 2016年にスタートした同イベントは、ありのままのアフリカの衣装や音楽を見せるのではなく、現地の絶景をデザインに落とし込んだ服やアフリカ音楽をミックスしたBGMなど、全てオリジナルコンテンツで構成。人気読者モデルにランウエイを歩かせるなどキャッチーに訴求してきた。

 実行組織は社会人・学生約100人。これまでの3回のショーで計1000人以上を動員し、ファンも着実についてきた。今年は女優の秋元才加をショーディレクターに迎え、ルワンダのファッションショー「キガリ ファッション ウィーク(KIGALI FASHION WEEK)」と連携してアフリカ各国の有力デザイナーも招聘するなど、さらに内容に磨きを掛けた。「キャッチーなコンテンツだけでなく、本物のアフリカンファッションも見せる。今回は本格的なファッションショーとして大きくスケールアップする」と菅生零王東京アフリカコレクション代表は自信をのぞかせる。

 アフリカといえば飢餓や紛争といったイメージが先行するものの、近年は人口増や所得の向上を背景に経済成長を続け、ファッションビジネスにとって可能性に満ちた市場でもある。「このショーを東京、ゆくゆくはアジアとアフリカのファッションビジネスをつなぐプラットフォームにしたい」という実行委の幹部3人に、将来の展望を聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):まず、東京アフリカコレクションの組織構成から教えて下さい。

菅生零王東京アフリカコレクション代表(以下、菅生):現在、実行委は社会人が10人程度、残りのほとんどを学生が占めています。代表の僕も、普段は外資系の消費財メーカーでシンガポール勤務の会社員として働いています。合間をぬってアフリカに赴き、現地のファッションの情報を得たりショーのスポンターを取り付けたりと、忙しく動き回っています。限られた時間の中でショーの会議に顔を出し、現地で見聞きした情報を日本の仲間にフィードバックしています。最近は、休みのほとんどをショーのために費していますね。

三瓶聖奈東京アフリカコレクション広報アドバイザー(以下、三瓶):同じく、私も社会人との二足のわらじを履いています。普段は人材系会社に勤務していて、こちらでは主にPRを担当しています。

立澤直也東京アフリカコレクション企画演出統括(以下、立澤):渉外は社会人の皆さんにお願いして、僕たち学生は等身大の若い女の子たちに訴求すべく、コンテンツ作りに専念しています。あれこれとアイデアを出し合い、社会人の知見も借りながら、きちんと訴求できるようショーとしてパッケージ化していきます。当日の運営も、僕たちが主体となって回しています。

WWD:「東京アフリカコレクション」がどのような経緯で生まれたのか教えて下さい。

菅生:政治や飢餓の問題などアカデミックなテーマを入り口に、アフリカ支援に興味を持った数人の大学生メンバーが集まったのが始まりです。研究を進めていくうち、大量生産・大量消費とは縁のないアフリカの国々には、面白い服飾文化も根付いていることが分かりました。たとえばルワンダという国には、着る服をテーラーで仕立ててもらうという習慣があります。最初はルワンダのテーラーと日本の若い女性をつなげて現地発のブランドを作ってみようというところから、「アフリカのファッションを日本に伝える場を設けられたらどうか」と話が広がり、「東京アフリカコレクション」の構想が立ち上がりました。

WWD:アフリカの服の魅力とは、どういったところでしょうか?

菅生:目につきやすいのは、やはりヨーロッパやアジアの服にはない独特な素材や色使いですよね。しかし、同じくらい注目してほしいと思うのは、服の背景にある深いストーリーです。アフリカでは、本当にさまざまなバックグラウンドを持っている方々に出会います。例えば内戦で片足を失ったデザイナーは、自身のブランドのモチーフを“盾”にして、「暴力に負けない」という強い意思を表現しています。ファーストルックには顔に大きなやけどを負ったファッションモデルを起用していて、モデル本人も決してそれを隠そうとはせず堂々としています。欧米のファッションシーンにおいても、多様な背景を持つモデルを起用するなどダイバーシティーが主流になってきています。ですが、アフリカで服作りをする人々にとっては自分ごとなのです。それが他にないバックボーンの強さを生み出しています。

WWD:アフリカの服にはそういった魅力があるにも関わらず、なぜ、自分たちで一から服を作っているのですか?

三瓶:アフリカへの知識があまりないまま実行委に入った私の目線だと、いくら思いが込もった服でも、第一印象で「かわいい」と思わなければ女の子は興味を持ってくれないと思ったんです。

菅生:そこで僕たちは、必ずしも初めからアフリカで作られた服を見せる必要はないと考えました。むしろ最初は、“最もアフリカらしくないアフリカ”を服で表現していこうと決めたのです。

“最もアフリカらしくないアフリカ”が出発点

WWD:“アフリカらしくない”というと?

立澤:記者さんはアフリカと言われて、まずどんな風景を思い浮かべますか?飢餓や貧困、内戦、混乱…。そういったネガティブなイメージではないでしょうか。この写真を見てください。

WWD:すごくキレイな景色ですね。まるでヨーロッパの町並みみたいです。

立澤:これは南アフリカの風景です。ボカーブという街では、かつて奴隷として連れてこられたマレー系の人々が、今は自分たちの自由の象徴として色鮮やかな街並みを作りだしています。ちなみに南アフリカはビーチもとてもきれいで、ヨーロッパの人々にはバカンスの滞在先としても親しまれているんですよ。

菅生:多面的に見れば、アフリカは他にもさまざまな魅力がある場所です。メディアを通じて多くの情報が手に入るようになった一方、相変わらずアフリカは限られた側面ばかりが切り取られ、日本人の間ではネガティブなイメージがますます強くなっています。そういった意味での“アフリカらしさ”をきれいさっぱり捨て、アフリカの美しい景色や絶景といったポジティブで「意外」な要素を服に落とし込むことで、興味を持ってもらえないかと考えました。

秋元才加がショーディレクション アフリカのデザイナーも招聘

WWD:2回目以降は、ショーをどのようにアップデートしたのですか?

菅生:次のステップは、日本の若い女の子に「着たい」と思ってもらうことでした。日本の美術学生や若いデザイナーに依頼して、日本の女の子の春服や女子高生の制服をアフリカのテキスタイルで作ったところ、新鮮なルックスがとても評判でした。合間には「アフリカ音楽×バブリーダンス」のような時流を捉えたコンテンツも取り入れ、ショーとして幅が出せてきました。

WWD:今年はどうする?

菅生:今までのようなキャッチーさに加えて、コンテンツに厚みを出し、観衆のアフリカへの興味を深堀りしていきます。目玉として、女優の秋元才加さんがディレクションするスペシャルショーがあります。秋元さんには実際にアフリカに足を運んでもらい、そこで五感で感じたものを着想源にショーのコンセプトを考えていただきました。

三瓶:ルワンダの首都キガリで開かれるファッションショー「キガリ ファッション ウィーク」との連携を取り付けることもできました。今回は現地のモデルが、現地のデザイナーの手掛けた服をまとって登場します。

WWD:今後の展望は?

三瓶:ショーのスケールアップに伴い、バックアップも必要になってきました。今年の始めには本気度を示すために実行委を法人化しました。年1回のショーだけでなく、アフリカの音楽を使った盆踊り大会のようなユニークな企画を仕掛け、タッチポイントを増やしてきました。今回のショーでは国際協力機構(JICA)、アフリカ各国の大使館に加えてエチオピア空港の後援もいただくことができました。

菅生:将来的には、アジアとアフリカをつなぐプラットフォームになりたいと思っています。僕らのショーを媒介に、双方のデザイナーや企業に新しいビジネスチャンスが芽生えればいい。足元では、僕らのショーで高評価を受けたデザイナーが、アフリカ最大のファッションショー「サウスアフリカン ファッション ウィーク(SOUTH AFRICAN FASHON WEEK)」へ出展できるパイプが構築されつつあります。ケニアの首都ナイロビで、僕たちのショーをやらないかという話も舞い込みました。さらに東南アジアの企業と組んで、東京とアフリカの魅力を掛け合わせた新事業を立ち上げるというプロジェクトも進行中です。そんな新しいシナジーをこれからも地道に作っていきたいと考えています。

立澤:とにかくまずは、9月1日のショーに来てほしい。僕たちがやっていることが学生感覚の延長ではない、本気のショーであることをその目で確かめていただきたいです。

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