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「弱いままでも生きていける世界を」 “政治”や“フェミニズム”を題材にする映像作家・石原海のリアリティー

 これまで「UMMMI.」名義で多くの映像作品を手掛けてきた映像作家の石原海。彼女にとって初の長編映画となる「ガーデンアパート」が6月に全国で劇場公開され、「ロッテルダム国際映画祭2019」にも出品された。7月21日の参議院選挙の同日には、投票を宣言する若手クリエイターたちが多数登場した動画「I AM A VOTER」を公開。また、7月に公開された「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズ・サングラスの新作コレクション“LVレインボー”の映像も手掛けた。フェミニズムや政治などを題材にエクスペリメンタルな作品を発表し続ける26歳の若き映画監督に、作品やインスピレーション源、思想などについて話を聞いた。

WWD:海さんが創作活動を始めたきっかけは何ですか?

石原海(以下、石原):小さな頃から小説を書いたり写真を撮ったりしていたんですけど、10代半ばのときにゴダール(Jean-Luc Godard)の「愛の世紀」を見て、自分でも映画が作れるかもしれないと思ったのが映像を作り始めたきっかけです。それを見て作った作品は、自分でハンディカムを回したりボイスオーバーをしたりという、ビデオアートみたいなもの。「愛の世紀」によって映画の概念が完全に崩れました。

WWD:「愛の世紀」は映像の倒置など前衛性の強い作品ですよね。

石原:それまでは、映画やドラマには脚本があって、役者がいて、演出があることが当たり前だと思っていたけど、「愛の世紀」は純粋にカメラでなにかを撮影したら映画になるという、いままで見てきた映画体験とはまったく違うスタイルで、本当にびっくりしました。そのあと、映像機能付きの安いデジカメを使って中学の同級生に出演してもらって10分くらいの短編映画を16歳のときに撮ったら「イメージフォーラム・フェスティバル2011」のヤングパースペクティブ部門に入選しました。作品を作ったらどこかで上映できたり、人に見てもらえるのだとその時に気付きました。

WWD:10代で影響を受けた作品は何ですか?

石原:いろいろと影響を受けていると思うので毎回違った作品ばかり挙げてしまうのですが、10代の半ばから後半にかけては日活ロマンポルノにハマってました。あとはVシネとか、ATG(日本アート・シアター・ギルド)とか。特にATGの映画は片っ端から見ていきました。 “ザ・日本”みたいな1960年代の日本映画ですね。

WWD:初期のATGは実験的な作品が多かったですね。

石原:当時、付き合っていた人に教えてもらって「愛の世紀」をシネマヴェーラで見たんですけど、シネマヴェーラはATGとか日活ロマンポルノ特集をやっていたこともあり、それで通うようになりました。文学が原作のものが多かったのも、ATGに惹かれた理由かもしれません……小さい頃から小説を読むのが好きだったので。

WWD:どんな小説を読んでいたんですか?

石原:小学生のときから中学生にかけては、三島(由紀夫)とか、太宰(治)とか、あとはショーペンハウアー(Arthur Schopenhauer)やカント(Immanuel Kant)、ニーチェ(Friedrich Nietzsche)などにもハマって読んでいました。いま思い返すとすごい青臭いラインアップですが。高校生になってからいままで揺るぎなく好きな作家は、マルグリット・デュラス(Marguerite Duras)、ヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)、スーザン・ソンタグ(Susan Sontag)、あとはパヴェーゼ(Cesare Pavese)がとにかくすごく好き。

WWD:海さんの作品のすべてには文学が影響していると。

石原:自分のなかでは、言葉が一番大切だと思っています。言葉を書くために撮っているんじゃないかってたまに思ってしまうくらいです。ちなみに今年の夏は“詩人みたいに生きたい”と思っていて、無意味な時間の中でどれだけ自分が楽しめるか、あるいはぐちゃぐちゃになれるか……意識的に暇を持て余すように過ごしたいです。

WWD:現代美術は作品にどんな影響を与えていますか?

石原:現代美術は作家の生き方がストレートに作品に反映されるところがおもしろいなと思っています。自分の手の届く範囲で作品を作ることも不可能ではないし、ごくパーソナルな部分を保ったまま作品を作ることができる。その意味で現代美術は自分の中でずっと大切にしていきたい場所でもあります。

WWD:「ガーデンアパート」を制作したきっかけは何ですか?

石原:4年前に「山形国際ドキュメンタリー映画祭」に参加したときに、毎日4本くらい作品を見続けて、夜は飲んで映画について語り合うという毎日を1週間くらい繰り返したんですけど、その時に漠然と長編映画を撮りたいと思うようになりました。ビデオアートのような短編作品を撮り続けてもアタシが思い描いているところには近づけないんじゃないかと。でもドラマのような長編作品なら私のことを知らない人にも、分かりやすい“映画”っていうフォーマットを通じてつながれるかもしれないと思いました。一方で、 “長編映画を作らなければ自分の人生が進んでいかない”という強迫観念のような感情も同時に湧き上がってきて。3年前の夏は“大きくて長い何かを作る”っていうことがテーマだったのでどこか熱に浮かされて「ガーデンアパート」が出来上がったという感覚もあります。

WWD:「ガーデンアパート」の登場人物からは東京らしい乾いた感じや退廃的な雰囲気が伝わってきました。登場人物にはどんな思いを込めましたか?

石原:演者の実際の人生と登場人物のキャラクターが交差していくようにイメージしました。主人公のひかりが妊娠している設定も、実際にひかり役の篠宮由香里さんが妊娠していたのでそうしようとか。役者の人生をインタビューのように聞いて、物語とすり合わせながら作っていきました。パーソナルな空間で撮りたかったので、撮影場所も当時私が住んでいた家だったりして。当初はもっとドキュメンタリー要素が強いものを作りたいと思っていたと記憶しています。実際はまったく違ったものとなりましたが。

WWD:「ガーデンアパート」の制作から3年経って、いま思うことはありますか?

石原:とにかく早く次の作品を撮りたいです。コマーシャルの映像を作るときは大御所のクルーと仕事したり現場で学ぶことも多くて。この3年間で映画の撮り方とか技術的な面でも成長したように感じています。もちろん、自分の興味も3年間でぐるぐると変わっているし。「ガーデンアパート」は何もわからないまま手探りで撮ったので、キャストもクルーもほぼ友だち。そういう手作りの映画もいいけど、もっとやれることがあったなとも思っています。なので、これから作る新作で「ガーデンアパート」を見た人の気持ちを塗り替えたい。でも、それと同時に、現場の数を踏んで成長したからってきれいなものを撮ろうとか、分かりやすいものを撮ろうとするんじゃなくて、本当はもっと壊れたい、もっと変なものを撮りたいという気持ちもすごくあります。自分のことを分かってくれる人なんておそらくこの世に存在しないんだから、作品だってぐちゃぐちゃで意味不明のものでもいいだろうとか。ほんと、詩人のように軽やかに作品を作っていきたいです。

WWD:次回作の構想はあるんですか?

石原:あります。タイトルは「美しき自暴自棄」っていうんですけど、自暴自棄になるネガティブな人がたくさん出てきて、でもそれがすごく美しいという。もともと美しいものを見て美しいと感じるのではなく、美しくないものに美しさを見出す、そんな作品にしたいと思っています。

WWD:制作は進んでいますか?

石原:脚本は書き進めていて、イギリスと日本のプロダクションで制作する予定です。イギリスは決まったんですけど、日本はこれから。「ガーデンアパート」は、まったく予算がなかったので、次回作はある程度の予算をかけて制作したいです。そういえば、次作では亡くなってしまったショーケンに出てほしかったんですよ。「傷だらけの天使」が好きで、かっこいいなって思っていて。生き方が演技ににじみ出ていて、詩人らしいというか……まあ、本人を知らないので勝手な想像ですけど。

WWD:長編作品を撮影してから他のモノ作りへの影響はありましたか?

石原:友達のイギリス人の映画の現場にスタッフとして入ったとき、プロの役者を起用することに興味が湧きました。出演していた役者がラムダ(London Academy of Music & Dramatic Art)っていう世界有数の俳優養成所の生徒で、演技のメソッドとかをとうとうと話すんです。撮影後の食事で交わす演劇論を聞いて、こういうアプローチも楽しそうだなって。

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