昨年6月から福井由美子・編集長が舵取りする「シュプール」は、9月号で創刊25周年を迎える。福井編集長は、入社から2011年に「シュプール」に異動するまで、「ノンノ」や「メンズノンノ」などファッション誌でファッションページを担当。大学で学んだポルトガル語、社会人になってから旅行用に学んだ中国語、英語を操り、「シュプール」の人気企画、ひとりで旅する“ひとりっぷ®”を考案して、世界中を旅するなどそのバイタリティが魅力だ。
WWDジャパン(以下、WWD):今年25周年を迎える「シュプール」の現在のステージは?また、7代目の編集長として福井色をどのように出していくのか?
福井由美子・編集長(以下、福井):25年も続いているドメスティックのモード誌はほかにはなく、海外デザイナーの方々にも知って頂けているのは25年積み上げてきた成果だと思っています。正直「こう変えよう」というのはありません。私自身、創刊から25年間「シュプール」の読者で面白いと思って読んでいたし、実際に作ってみても面白い。異動してきて2年半ですが、改めて感じたのは「シュプール」には、「うちの読者向きではない」「テイストが合わない」など、“これは無理”というテーマやジャンルがないということ。いわば“なんでもアリ”(笑)。インテリア、カルチャー、アート、トラベル、フードなど全方位的に1冊で構成して、読んでくれた人に「楽しすぎる!」と思ってもらえるような誌面を、提供したいと考えています。
WWD:改めてモード誌である「シュプール」をどう分析する?
福井:モード誌とは、エンターテインメント誌。“ 特集はパビリオン”と考えています。パビリオンやアトラクションにいかに入ってきてもらうか、入ってきてくれた読者に「面白い」と満足して帰ってもらえるか、そのためにどうエンターテインメント性を出していくか、それをスタッフ全員で常に意識して作るようにしています。また、他誌でできることをしても仕方ないので「シュプール」独自のスコープをかけることも意識しています。「シュプール」のDNAを、写真、構成、文章で表現することが大切。写真は、ちょっとしたかわいらしさをベースに“わかりやすいモード写真”で“、地に足が着いた”スタイルであることが重要。「そんな格好で街歩かないでしょ?」というコーディネートは“なし”です。例えば、トランスペアレントな服は、そのまま胸がまる見えな状態で誌面に載せることはしません。中に何か着せるかレタッチするか。また、インターネットの時代ですが、雑誌ならではのことは何か、を考えた時に“ことば”だと思いました。この時代に雑誌をわざわざ買ってくれている読者は、見出しやタイトル、服の説明といった細かい部分を読んでくれていて、そこに反応してくれているんです。だから、編集部員には「一言一句おろそかに書くな、読者に伝えたいメッセージを込めるように」と伝えています。どう簡潔に言い切るか、を大切にしています。
WWD:言葉の使い方については、ツイッターで反響もあったとか?
福井:「『シュプール』は限られたページの枠内で考えて書かれている」という読者のつぶやきがありました。嬉しかったですね。
WWD:読者ターゲットをどう捉えている?
福井:モード誌は年齢や環境でカテゴライズできません。大きくは、「モードが好きな人」とくくれます。共通点は、常に360度アンテナを張っていて、そこに響いたものをキャッチする志向を持っている方。ランウェイをいち早くチェックしてハイファッションの動向を押さえつつ、自分がいいと思えば自由にブランドをミックスして着こなす。若冲も好きだけど、「ベルばら」も大好き。NYでアートを巡るひとりっぷ®に出かけたと思えば、次はモロッコ雑貨買い付けの旅へ。ランウェイ情報をウェブでいち早くチェックして、入荷予定をブティックに問い合わせる。女性ならではの柔軟な感性と軽やかさと、振り幅の広さが「シュプール」読者の特徴です。共通項はアクティブでポジティブな方ですね。
WWD:6月号の付録は「エムエスジーエム」のランチミニトートだったが、起用するブランドやモデルなど選定のポイントは?
福井:アップカミングなブランドであることはポイントにしています。また、ハイファッション=アンリアルではなく、リアル=安いでもない。安い高いは別として、良いブランドには、ブランドならではのDNAがちゃんとある。ファッションの素晴らしさや楽しさを読者に伝えていきたいです。
WWD:ファッションページ同様に、日本発信のモード誌として日本人女性の志向にあわせた“リアリティのあるモードファッション”を大きな軸に据え、“ ランウェイ・トゥ・リアリティ”をテーマにビューティページも充実しているが?
福井:2013年4月号から「SPUR BEAUTY MANIACS」と銘打ち、毎号、中扉を作りモード誌中最大規模のページを割いて大特集しています。どういう特集が読みたいか?と読者にアンケートしたところ、ビューティページのリクエストが多かった。「ビューティは美容誌で」と思いがちですが、モード好きの方には美容誌が提案するメイクはコンサバに映るようです。「シュプール」では“コンサバじゃない人に向けたメイク”や“この服にはこのメイク”を提案しています。編集部のビューティ担当は4人いますが、全員ファッションと兼任。洋服と連動したメイクを提案できるのも強みです。おかげさまで広告も好調です。またフレグランスについても毎号4ページ必ず作っています。
WWD:これから力を入れていきたいことは?
福井:雑誌の枠を超えていきたいですね。これまであまりしてこなかった読者イベントを積極的に行なっていきたいです。今年からインターセクト バイ レクサスでのシュプールカフェなど、頻繁に実施しています。書店ともイベントなど何かしら取り組んでいきたいですね。出版社は本を売る時は書店にお任せするしかない。だからこそ一緒に何かをやっていくことが大切だと思うんです。この時代は読者にたえず伝えていかないとだめですから。あと、私の妄想なんですが、旅行会社とタッグを組んでひとりっぷ®ツアーをしたい。参加条件は「ひとりで参加すること」です(笑)。
我が編集部の自慢は?
趣味を生かした部活が盛りだくさん
登山部、釣り部、少女漫画部など編集部内に部活がたくさんあります。例えば、登山部は「エベレスト街道にいく」企画を実現。少女漫画特集の際には少女漫画部が活躍するといった具合です。