“ニセモノ”の是非を問われれば否定的な声が大半を占めるだろう。それでも模倣品の数は減らないし、模倣品訴訟の数も減らない。2018年3月に東京税関が発表した資料によると、ファッション関連以外も含まれるが、「デザインを模倣した意匠権侵害物品の差し止め点数は前年比25倍で5万点超え」だという。
これまでブランド側ばかりを取材対象としてきたが、消費者側はなぜ模倣品を購入するのかということに目を向けてみたい。“正規品”という触れ込みの商品を購入したら実はデッドコピー(注:許可なくそっくりそのままコピーした商品のこと)だったという場合もあるが、その一方で“〇〇風”といううたい文句で売られている商品が売れるということは、“正規品ではない”と理解した上で購入している消費者も存在するということだ。
世界のジェネレーションZの半数がコピー商品に「NO」
国際商標協会(INTERNATIONAL TRADEMARK ASSOCIATION)が1995~2010年に生まれたいわゆるジェネレーションZ(以下、Z世代)を対象に実施したデッドコピーに対する意識調査が非常に興味深い。日本、米国、中国、ロシア、イタリア、インド、インドネシア、アルゼンチン、ナイジェリア、メキシコの10カ国で、18~23歳の男女延べ4500人を調査している。
この報告書によると、全体の約半数(48%)がデッドコピーを購入することは「絶対によくないこと」または「たぶんよくないことだと思う」と回答している。「状況による」が39%、「全く問題ない」または「たぶん問題ない」と回答しているのは13%にとどまった。しかしその一方で、過去1年間にデッドコピーを購入したことがあると回答したのは全体の79%だった。つまり、「よくないことだとは理解しているが、購入している」若者が多いということだ。
さらに、Z世代が購入したことのある商品のジャンルは、アパレルが1位(37%)、シューズ&アクセサリーが2位(34%)。体内に取り込んだり皮膚に触れたりするため危険性が高いと認識し、購入をためらう食料品・飲料(18%)やパーソナルケア商品(16%)と比べると、購入に対するハードルが低いことが分かる。
ブランド名を重視するかという問いに対しては、全体の62%がブランド名は「とても重要」または「どちらかといえば重要」だと答えている。つまりZ世代にも、ブランド名は決定する上で重要なファクターであるということだ。特にインドは世界平均より+20%、中国は+11%、インドネシアは+10%高く、反対に米国は平均より-6%、日本は-10%、イタリアは-10%、ロシアは-14%と平均を下回った。しかしその一方で全体の81%が「ブランド名よりも自分が必要かどうかを重視する」と答えている。
では、Z世代は「正しくない」と理解しているデッドコピーになぜ手を出すのか。世界平均を出したときのトップ3は「正規品よりコピー商品の方が簡単に手に入るから」(58%)、「金銭的にコピー商品しか購入できないから」(57%)、「支払った金銭が模倣品を売ることで生計を立てている人の役に立ってほしいから」(57%)だった。
日本のZ世代が気にするのは
「他人からの評価」か
日本では男女各200人ずつを対象に調査を実施した。過去1年間でデッドコピーを購入したことがある日本のZ世代は46%と、国別に見ると格段に数値が低いことが特徴だ。日本だけを見たときにデッドコピーを購入する理由のトップは「金銭的にコピー商品しか購入できないから」(65%)。次いで「正規品よりコピー商品の方が簡単に手に入るから」(40%)、「使用していても誰も模倣品だと分からないから」(40%)と続き、金銭的な理由が高い比率を占めていることが分かる。
日本のZ世代の69%が年間所得300万円以下と答えていることからも、金銭的な理由がトップに挙がるのも当然の結果と言えるだろう。米国は年間所得2万5000ドル(約262万5000円)未満と答えた人が38%、2万5000ドル以上と答えた人が全体の52%、そのうち10万ドル(約1050万円)以上と答えたのは全体の5%だ。日本では900万円以上が0%だったことを見ても、18~23歳という若年層でもすでに国ごとの格差が大きいことが分かる。
もう一つ興味深い数字があった。Z世代の価値観を問う項目だ。彼らが最も大切だと考える価値観は“個性”だった。“個性”と答えたうちの92%が「自分の意思が大切」だと答え、75%が「他者と同調するより目立つことが重要」だという。これに対して日本のZ世代で「他者と同調するより目立つことが重要」と回答したのはたったの36%だった。日本人の同調志向が強いことは長く指摘されているが、Z世代でもその傾向は変わらないようだ。
こうした数字から、「周りもブランド品を持っていないから、コピー商品を購入してまで所有する必要がない」「コピー商品を購入してでも目立ちたいという気持ちがない」という思考が読み取れ、コピー商品を購入したことがあると答えたZ世代が日本は断然少ないのにもうなずける。
「内心ひいた。ニセモノを買う友達に。」 特許庁の撲滅キャンペーン
日本人特有の性質を利用したキャンペーンを打ち出しているといえるのが特許庁だ。同庁は18年、コピー商品撲滅キャンペーンのページを公式ウェブサイト内に開設している。そのページのキャッチコピーは「内心ひいた。ニセモノを買う友達に。」だ。さらに20代を対象に行った模倣品に対する意識調査の結果を公表しているが、質問は「友達がコピー商品を披露したら嫌な気がしますか?」「友達がニセモノを買っていたら注意しますか?」という内容で、焦点を当てているのは「他人からどう見られるか」という点だった。ちなみに回答は、「友達がコピー商品を披露したら嫌な気がしますか?」に対しては約8割が「YES」、「友達がニセモノを買っていたら注意しますか?」に対しては約7割が「NO」だった。「コピー商品を購入する=悪いこと→買わない」ではなく「コピー商品を購入する=友達に軽蔑される→買わない」という思考経路になっているのだ。
模倣品問題だけに目を向ければ、日本人特有の気質が模倣品購入率の低さにつながったと言えるが、日本の将来を背負う若い世代が“他人からどう見られるか”に重きを置いて行動したり、意思決定をしたりしているという事実はやや残念だ。
また、情熱とプライドを持って商品開発を行っているブランド側としても、そのヒストリーやこだわりを理解した上で「コピー商品を買わない」という選択をしてほしいと思っているに違いない。「エルメス(HERMES)」や「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」が合同でメディア向けの勉強会を開催してデザイン保護の重要性を訴えたり、「ナイキ(NIKE)」は8月からキッズ用シューズのサブスクリプションサービスを開始して、幼い頃からブランドに対するロイヤルティーを高めて将来の顧客層を獲得することを目指しているのも、全ては消費者に自社ブランドのことを理解してほしいからだ。
模倣品の問題は業界全体の問題だ。悪貨は良貨を駆逐すると言うように、模倣品が増えれば正規品が少なからず売れなくなり、各社の業績に影響を与えかねないため、業界を守ることは自社を守ることにもつながる。消費者だけでなく、業界で働く人間の模倣に対する知識や理解を高めるために業界全体で教育を行っていく必要があるのではないだろうか。
YU HIRAKAWA:幼少期を米国で過ごし、大学卒業後に日本の大手法律事務所に7年半勤務。2017年から「WWDジャパン」の編集記者としてパリ・ファッション・ウイークや国内外のCEO・デザイナーへの取材を担当。同紙におけるファッションローの分野を開拓し、法分野の執筆も行う。19年6月からはフリーランスとしてファッション関連記事の執筆と法律事務所のPRマネージャーを兼務する。「WWDジャパン」で連載「ファッションロー相談所」を担当中