ゴールドウインとスパイバーは8月29日、人工タンパク質を原料にした高機能ウエアとしては世界初となる“ムーン・パーカ(MOON PARKA)”を発表した。抽選で50着限定販売になるが、2015年10月の共同記者会見から約4年を経てようやく本販売にこぎつけた。アウター部分にスパイバーが独自に開発した人工タンパク質素材“ブリュード・プロテイン(Brewed Protein)”を100%使用しており、これまでの石油を原料にした化学繊維、コットンやウールなどの天然繊維、そのいずれとも異なる画期的な新素材を使用した歴史的なウエアになる。
スパイバーの関山和秀取締役兼代表執行役は「この人工構造タンパク質の研究を始めたころから、世界平和のためだと思ってずっと研究を続けてきた。“ムーン・パーカ”は、その非常に重要なステップ。ここから新たな素材革命をスタートしたい」と語った。渡辺貴生ゴールドウイン副社長は「(スパイバーの量産プラント稼働後の)21年以降は、上質なコットンやウールとほぼ同等の原料価格になると考えており、25年ごろまでにはほとんど全てのアイテムに使用できるようにはなるはずだ」と語った。
29日18時から予約受け付けを開始し、抽選で50着限定販売。販売は11月22日に開業する渋谷パルコの新店舗「ザ・ノース・フェイス ラボ(THE NORTH FACE LAB)」で12月12日以降を予定している。価格は15万円(税別)。
“ムーン・パーカ”に使用する “ブリュード・プロテイン(発酵タンパク質)”素材は、遺伝子工学などを駆使して合成したタンパク質を発酵して製造したもので、これまでの原料だった石油を、人工合成のタンパク質に置き換えている。限られた資源である石油などの化石資源とは異なり、地球上に豊富に存在するタンパク質を使っているため、循環型の究極のサステイナブル素材でもある。スパイバーは高機能ウエアに関してはゴールドウインと共同するほか、その他では自動車用のドアパネルやシートのクッション材なども開発中だ。
現在、人工タンパク質素材の開発を進めているスタートアップ企業は、日本のスパイバーのほかに米国サンフランシスコ発のボルトスレッズ(BOLT THREADS)、人工タンパク質素材を使った人工レザーを展開するモダンメドウ(MODERN MEADOW)などがある。いずれも商業生産の開始を前に数百億円を調達しており、新興バイオテック企業として投資家の間でも注目を集めている。その中でもスパイバーは、「出願中のものも含め、220の特許を取得しており、技術的にもだいぶリードしている」(関山代表執行役)。