ロサンゼルス・メルローズ発のスペシャリティーストア、ロンハーマン(RON HERMAN)が日本に上陸して10年が経った。日本1号店の千駄ヶ谷店は8月29日、オープン10周年を記念したパーティーを開催。創業者であるロン・ハーマン氏も祝福に駆けつけた。米国事業をサザビーリーグに譲渡するという大きな決断を今年2月に下した同氏に、その経緯と今後の活動について聞いた。
WWD:今回の来日の目的は?
ロン・ハーマン(以下、ロン):2009年8月にオープンした日本1号店の10周年を祝いに来た。それからコウキ(三根弘毅サザビーリーグリトルリーグカンパニープレジデント)と彼のチームに会うためでもある。約2年ぶりの来日だ。
WWD:おめでとう。10周年を迎えた今年、サザビーリーグに商標と事業を売却したが、どのように決断したのか。
ロン:“売却”という言葉は使いたくないんだ。確かにテクニカルには商標と事業を売却したが、そうしたつもりはなくて、コウキは私たちにとって自然な後継者なんだ。1976年からずっと家族経営をしてきたが、この10年私と妻のキャロルはコウキと彼のチームを家族のように感じてきた。そして近年、日本の家族である彼らにビジネスを引き継ぎたいと考えるようになっていた。彼らは若く、そして経験も豊富だ。これは自然な流れだった。だから私とキャロルにとっては家族経営を続けている感覚だし、“拡大家族”という感じなんだ。
WWD:アメリカに後継者は現れなかった?
ロン:強調して言うが、他の会社に引き継ぐことはありえなかった。多くの企業を知っているが、ロンハーマンの原点とDNAを理解し継承できる会社は他にないし、今回の引き継ぎも対会社というよりは、本当にロンハーマンを愛してくれる人々の集まりに対して行なったという意識なんだ。
WWD:では、今後はどのようにロンハーマンに関わるのか。
ロン:“移行”に携わる。日本ではDNAを説明し、米国のショップ運営に携わる日本の人々に米国ならではの小売りについて指南している。カルチャーも顧客も顧客の期待も日本とはずいぶん異なる。スタッフも異なる。学ぶべきことたくさんがあり、学ぶには時間がかかる。そこで私にできることは何でもやるよ。43年の経験を伝授したいし、去るつもりはない。まだまだ“ロンハーマン”でいるよ(笑)。4人の娘のうち2人もショップで働いているが、ロンハーマンには強い愛着を持っている。コウキが継承してくれて本当にうれしいんだ。
WWD:娘たちは継承したがらなかった?
ロン:だいぶハードワークだからね(苦笑)。
スペシャリティーストアの可能性
WWD:バーニーズ ニューヨークが破綻したり、フレッド シーガルが過半数株式を売却したりと、EC全盛の今、米国のスペシャリティーストアが難しい局面にあるように感じるが、どのように見ている?
ロン:バーニーズはスペシャリティーストアとうたってはいるが、実際はデパートメントストアだ。実際、スペシャリティーストアは極めて好調だ。
WWD:例えば?
ロン:まずロンハーマンだ。
WWD:はい。
ロン:それからダラスのフォーティファイブ・テン(FORTY FIVE TEN)やオースティンのバイジョージ(BY GEORGE)、シアトルのマリオス(MARIOS)など、成功している店はたくさんある。ターゲット層が明確で、顧客とのつながりが非常に強いのが特徴だ。日本のロンハーマンも当てはまる。アマゾンやアリババがどれだけ多くの人にリーチしているかは知らないが、彼らは売り方が違う。ECは買い物のための情報源でしかない。消費者はひたすら比較して買う。われわれとは全く違うビジネスモデルだ。スペシャリティーストアは人々との関係によって成り立っている。顧客との関係、スタッフとの関係だ。だからこそ10周年のパーティーにはものすごく多くの人が祝いに来てくれる。顧客は私たちのテイストを愛し、信頼してくれる。こうした関係性を築けてこそスペシャリティーストアだし、他のビジネスが興ることで、われわれの個性はより際立つことになる。だから、今とても商機に富んでいると思っているよ。日本のビジネスに注力しながら、米国での商機をうかがっているところだ。
WWD:この先のロンハーマンについてのビジョンは?たとえば20年後は?
ロン:“時代に合う(relevant)”ことが大事だ。20年後であっても、ロンハーマンがそうあってほしい。これまでもスペシャリティーストアは常にたくさんオープンしている。「グッチ(GUCCI)」のニューヨークのショップもマックスフィールド(MAXFIELD)、シュプリーム(SUPREME)、キス(KITH)も素晴らしい店で、スペシャリティーストアと呼ぶにふさわしく成功している。「アップル(APPLE)」なんてまさにそうだ。だからスペシャリティーストアが不調だなんて思わないし、小売りにおいて明るい話は多数ある。もっとポジティブな局面に注目すべきだ。10周年に何千人もの人が祝いに来てくれる。10年前は数百人だった。20年後には数万人になって、スタジアムで盛り上がれるかもしれない。メディアにもぜひポジティブに伝えてもらいたい。生き残っていくためにはクリエイティブでスマート、思いやりがなければならない。コウキは全て兼ね備えている。
WWD:つまり三根氏と出会ったことが、日本で成功できた最大の要因ということか。
ロン:最初に会った時に分かった。頭で考え、腹で感じて、心で決めたんだ。心で決めることが大事だ。そして一度決めたらとことん信じること。全てを預けきることだ。海外企業が日本で成功できないのは条件で決めるからだ。ベストな取引でなく、ベストな人で決めるべきだ。
WWD:10年間、全く三根氏について疑うことがなかった?
ロン:なかった――というか43年間妻を疑ったこともなかったよ(笑)。私は決めたら疑わないんだ。ロンハーマンはトレンドではない。強いフィロソフィーと人との関係性がビジネスを支えているんだ。
三根氏のインタビューも含めた記事は「WWDジャパン」9月2日号に掲載。