「WWDビューティ」8月29日号は、“百貨店で売れたもの”特集です。全国45社の百貨店へのアンケート調査&有力店、さらには好調メーカーへの直接取材によって、2019年上半期の売れたものを浮き上がらせました。詳細は本紙や定期購読特典(単独販売もしています)の「ビジネスリポート」に掲載していますが、ウェブでは担当記者による取材こぼれ話を座談会形式でお送りします。座談会最後を飾る第5回は、ビューティ編。これまで「ビジネス別冊」として発行していたアンケートを、「WWDジャパン」の「ビジネスリポート」に統合。好調ビューティは今季も順調だったのか。現状について語ってもらいました。
座談会参加者
中村慶二郎:「WWDビューティ」創刊時から編集部に所属するベテラン記者。「ビジネスリポート」(旧「ビジネス別冊」)では、主に百貨店バイヤーにインタビューを行ってきた。
中出若菜:国内メーカー担当記者。「ビジネスリポート」(旧「ビジネス別冊」) では、ビジネス担当として、百貨店バイヤーからメーカー担当者までを取材。
福崎明子:座談会取りまとめ担当デジタルデスク
福崎:3カ月に1度、購読者特典として発行してきた「ビジネス別冊」が、今回から、「WWDジャパン」の「ビジネスリポート」と統合し、半期に1度になりました。百貨店バイヤー、メーカーの反応はいかがでしたか?
中出:「ビジネス別冊」は、主要百貨店の商況に加え、好調メーカーの取材記事や商品も掲載していました。なので、「ちょっと残念」という声も聞きました。加えて、3カ月に1度から6カ月に1度になり、これまで「3カ月の季節ごとの施策をお伝えすれば良かったけど、半年となると、何をやったか思い出すのが大変」というコメントもあり、ちょっとネガティブなところもありました。
中村:でも、半年の方が話しやすいっていうバイヤーもいましたよ。ほぼ創刊当時から発行しているから、変更は戸惑うところもありますね。これまで3カ月に1度、取材に伺うと「この季節ですね〜」と言われていましたからねえ。
福崎:取材される側じゃなく、読者にとっては化粧品だけじゃなく、百貨店のファッションからジュエリー、時計まで、網羅されている情報はお得だと思います。本題に入りますが、商況について振り返っていかがでしたか?
中出:取材前に、中国の電子商取引法(EC法)の施行でインバウンド需要が減速しているという情報があったので、売り上げに影響しているんじゃないかと思ってアンケートを見てみると、意外にも全体の7割以上の百貨店が前年を越えて着地していました。
福崎:その理由はなんですか?
中出:いわゆる外国人のバイヤーが減ったことで、一般のお客にとっては訪日外国人ツーリスト、日本人共に回遊しやすく、買いやすい環境になって購入につながっているようです。外国人の方も美容感度の高い人が増えて、ゆっくりカウンセリングを受けて購入する、日本人と同じような買い方になってきているというのは、ここ1、2年言われていましたが、それがスキンケアだけでなく、ここへきてメイクアイテムでもそうなっているとか。
全体の売り上げだと、インバウンドに強い国産ブランドが相変わらず大きいですが、伸長率では外資系の方が断然伸びています。一方で、国産スキンケアが苦戦し始めているのが今季の特徴ですね。それはやっぱり、外国人バイヤーがこれまで国産スキンケアを大量に買い占めていたのがなくなったのが原因ですよね。
不動の「スキコン」が3位に陥落
福崎:これまで「ビジネス別冊」「ベストコスメ特集」でお伝えしてきた「百貨店での売り上げランキング」でも明らかに出ていますね。不動の1位だった、アルビオン(ALBION)の「薬用スキンコンディショナー エッセンシャル」が3位に落ちていたのは衝撃でした。
中出:インバウンドの影響ですね……。逆に1位になった資生堂(SHISEIDO)の「クレ・ド・ポー ボーテ(CLE DE PEAU BEAUTE)」の化粧下地もインバウンドの好調が影響しているんですが。先ほどお伝えした、スキンケアよりメイクを購入するという傾向を裏付けているかと。
中村:インバウンド効果は、地域別で見ると関東よりも関西の方があります。福岡や東北の方も好調で、地方はまだまだ勢いがある。これは個人のツーリストだし、外国人バイヤーが多かった関東が苦戦しているのも納得。EC法の影響ですよね。
福崎:全体の7割が前年を上回っているとのことですが、実際数字を見ると、ここ数年は前年を割る百貨店はほぼなかったですし、上回っていた数字が2ケタ以上はあたりまえだったかと。それでいえば、3割が減、プラスでも1ケタ台が多い印象です。伸ばした百貨店はどこですか?
中出:ダントツであべのハルカス近鉄本店で、前年同期比40%増です。ここは外国人観光客と若年層が増えているようです。
中村:関空から出るときに一番買いやすい百貨店だからですよね。
好調化粧品フロアの拡張が目立つ
福崎:あべのハルカス近鉄本店は9月4日に、化粧品フロアをこれまでの1.2倍に拡大リニューアルしますね。今、どの百貨店も化粧品の好調を受けて、売り場を拡大する傾向にあります。あべのハルカス以外でもたくさんありますね。
中出:伊勢丹新宿本店や、阪急うめだ本店、大丸心斎橋店、西武所沢店、ジェイアール京都伊勢丹、丸井今井本店、高島屋新宿店……。あ、改装ではありませんが、東急渋谷スクランブルスクエアの化粧品も充実しています。
中村:改装は昨年から続いていて、そごう横浜店は日本最大級になったんですが、こういった各社の改装は売り場の拡大で、それってどこかの売り場を縮小してだから、やっぱりファッションフロアに侵食していますよね。化粧品が売れているのはもちろんだけど、ファッションが売れてないのも拡大につながっているように思います。
京王百貨店新宿店は昨年、2階に訪日外国人向けコーナーを作って化粧品を2フロアで展開し、さらに7階に美容・理容室がありこの改装がうまくいっています。ビジネスリポートでの数字は、全体で昨年同期比21%増、免税売上高は同35%増。1〜2階になったことで混雑が解消され回遊につながっていると言われます。さらにここの特徴は、ターゲット層の50代をしっかり捉えているところでしょうね。
福崎:なるほどです。そういった外的要因も受け、ブランドではどこが好調ですか?びっくりしたのは「ヘレナ ルビンスタイン(HELENA RUBINSTEIN)」の伸びがすごい。
中出:40代後半〜50代をターゲットにして、しっかりアピールしたところかと。しかも、しっかりバブル世代を“スパークリング ブーマー”と名付けてて。このネーミング、バブル世代の人に響いたんじゃないですかねえ。
中村:今年2月に発売した、「プロディジー CELグロウ」がすごい好調のようですよ。まさにターゲット層に受けた。ターゲット層を絞って、はっきりした旗艦製品があるのが強み。これまで苦戦が続いていたから、この復活はすごいと思います。
福崎:相変わらず、メイクを強化するブランドも好調ですよね。
中村:「セルヴォーク(CELVOKE)」「ローラ メルシエ(LAURA MERCIER)」が若年層に支持されています。買える店が少ないというのもあるかも。どこでも買えるリップよりも、ちょっと希少性がある方がいいというか。インスタ効果もあると思います。インスタにアップしたら「それ何?」「どこで買えるの?」って。
あと、改めて感じたのが「体験型」にフォーカスして、それが奏功しているということですね。高島屋大阪店も「ティーズ ビューティベース」という、ブランドの枠を越えてデジタルコスメ体験ができるスペースを9月1日にオープンしました。
中出:それですごいのが「SK-Ⅱ」ですよ。AI技術取り入れたポップアップを百貨店で展開しています。それが、その場だけじゃなく、QRコードやチャットボットなどを通して、家でも体験の場を作る。ARを活用した肌測定、アイトラッキング、テスターバーとか。テクノロジーと人を組み合わせてスキンケア体験に注力していくようです。しかも、アイコン製品の「フェイシャルトリートメントエッセンス」の打ち出しで使っているんです。
福崎:これまで、化粧品とテクノロジーといえば、メイクが中心でした。バーチャルで、この色を使ったらどういった雰囲気になるか、という感じでしたが、そのテクノロジーが化粧水などスキンケアにも活用されているんですね。
中村:ブランドを横断して使えるというのも、これまではリップなどカラーアイテムを並べていたんだけど、今はヘアとかお手入れ系も多い印象。数年前まで百貨店に家電が入るというのはありえなかったですけど、「パナソニックビューティプレミアム(PANASONIC BEAUTY PREMIUN)」や「ダイソン(DYSON)」「リファ(REFA)」などが入り出してそのハードルが下がりましたね。最近では、サロンで大人気だった「リュミエリーナ(LUMIELINA)」も百貨店に進出していて。これらが体験に加っているのも面白いと思います。
福崎:ECの台頭がめざましくて、リアルの店舗ではファッションでも「体験」というのがキーワードですが、化粧品の方が一歩進んでますね。あと、SNSの活用も化粧品は上手だという印象です。
中出:SNSでいえば、「RMK」で面白い話を聞きました。ブランドで最近バズったアイテムがあり、なぜ人気になったのか追跡すると、有名インフルエンサーや芸能人からの発信ではなく、美容好きな普通の学生から拡散されていたみたいで。フォロワー数は3ケタの低い数字にも関わらず4万「いいね」くらいついたそうです。誰からどう発信されて広がるか分からないね、という話になりました。
福崎:これまでの“バブル”のような化粧品の売り上げが少し落ち着いてきて、インバウンドも今後は観光客がメインになります。今後はどうなると思いますか?
中村:海外でいえば、インバウンドの業者がいなくなってきて標準化してきています。これまでは、中国のインフルエンサーがアップしてくれて売れちゃったところがある。今後は、観光客がメインになるから戦略的にやらないとダメかもですね。高島屋もウェイボーだけじゃなく、ウィチャットペイにも広告出し始めましたし。当たり前だけど、戦略的な動きが大事だと思います。
中出:世界の政治的なことも関係してきますよね……。香港の暴動や、韓国との政治問題なども影響がないとは言い切れないです。ファッションでも問題になっていましたが、サイトの表記一つでも意識が必要になりますよね。