コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)傘下の「ボーム&メルシエ(BAUME & MERCIER)」は昨年、ブランド初の自社開発キャリバーを搭載した機械式自動巻き時計“ボーマティック(BAUMATIC)”を発売した。①日常生活に潜む磁気に対する耐性(耐磁性)②120時間のパワーリザーブ③一日±5秒以内の精度④耐久性を兼ね備えながら、⑤スイスメードの機械式時計で30万円台という良心的な価格の時計は、初年度からヒット。正直、他のブランドに比べると知名度は劣るが、全国の百貨店で売れ筋上位に食い込んでいる。
“ボーマティック”はなぜ生まれたのか?そして今後、どう広めるのか?同ブランドの最高執行責任者(COO)を務めるダニエル・ブレラード(DANIEL BRAILLARD)に聞いた。
WWD:改めてブランド初の自社開発キャリバーを搭載した“ボーマティック”は、どうして誕生したのか?
ダニエル・ブレラード「ボーム&メルシエ」最高執行責任者(以下、ダニエルCOO):私たちは、これまでも、これからも消費者にとっての“ファースト・ラグジュアリー・ウオッチ”ブランド。「ボーム&メルシエ」をきっかけに、素晴らしい時計の世界を楽しんでくれたらと思っている。時計をそれほど知らない消費者には、高級機械式時計の“当たり前”なんて通用しない。例えば携帯電話やバッグの留め金などの磁力が精度に影響を及ぼしたり、3年とか5年に1度はメンテナンスが必要で費用は決して安くないことを知ると、購入に二の足を踏んだり、時には「せっかく高い時計を買ったのに」と落胆することもあるだろう。5年前に“ボーマティック”の開発に着手したのは、そんな“がっかり”を減らしたかったから。初めての自社開発キャリバーでは、性能を追求したかった。「これだけの精度」「これだけのパワーリザーブ」と到達すべき目標を定め、「じゃあ、実現のためにキャリバーはどうする?」という話し合いをスタートした時、「パーツを自分たちで一つ一つ決めて、それを全て組み込むプロセスを経ないと達成できないね」という結論に達したんだ。
WWD:結果誕生した“ボーマティック”は業界の有識者からの評価が高く、店頭でも順調なスタートを切った印象だ。初年度の成果は?
ダニエルCOO:結果は「ベリー・ハッピー」。特に日本は、時計に対する要求が極めて高い国だがよく売れて、“ボーマティック”への自信を深めることができた。日本と香港、中国は、去年の4月に“ボーマティック”を最初に発売した国だ。買ってくれたのは、本当にさまざまなお客様だ。COSC(スイスの公式クロノメーターの検査機関)による認証を取得していることに価値を見出してくれた時計通の方から、美しい時計を探して“ボーマティック”にたどり着きCOSC認証は背中を押したくらいの方までバラバラだった。
直接見せず直感的に訴える 「ボーム&メルシエ」のショートムービー4連発
WWD:時計の発表に際して作ったショートムービーは、簡潔で、キュートで、時計通じゃなくても見てしまう内容だった。重厚な音楽にのせてムーブメントや文字盤、外装のアップを見せるありがち”な映像ではなく、数本のムービーを作った理由は?
ダニエルCOO:“ボーマティック”の利点を、テクニックやイノベーションを忘れ“ファニー”に伝えたかった。テクニックやプロセス、素材を語るのは、もはや“スペシャリスト”の視点。“ファースト・ラグジュアリー・ウオッチ”であるべき“ボーマティック”にふさわしいアプローチだと思えなかったんだ。「消費者にとっての“ボーマティック”って、何?」と考えると、その答えは「扱いやすいのに素敵な時計」。5日間のパワーリザーブやシリコン製のひげゼンマイなどを理解していただくことは、必ずしもマストではない。もちろん、興味があればしっかり説明するけどね(笑)。
WWD:今後の戦略は?
ダニエルCOO:“ボーマティック”は、私たちにとって大事な価値あるムーブメントだ。少しずつ搭載する商品を拡充したい。手始めにパーペチュアルカレンダー搭載モデルを発売したところ。他のファンクションを搭載したモデルにも、順次“ボーマティック”を使うつもりだ。