「ペン」は、独自の観点を持つ特集主義で、特にアートやデザインをテーマにした企画に強みを持つ。これまでも「キリスト教」や「ルパン三世」など他媒体にはないユニークな特集で読者を惹き付けてきた。一方、昨年リニューアルした「ペンオンライン」はウェブの優位性を生かしたコンテンツ作りで、本誌とは違った魅力を表現している。「ウェブが雑誌を補足する」というありがちな媒体のパワーバランスを排した「ペン」の方向性とは?
WWDジャパン(以下、WWD):毎号ジャンルレスの特集が組まれるが、どのようなコンセプトで誌面作りを行なっているのか?
安藤貴之・編集長(以下、安藤):「新しいことに対してのチャレンジ」が「ペン」の基本理念にあります。だから今までと同内容の特集を積み重ねるよりも、違うものを作っていこうという気概が編集部内にはあります。それは「ペン」表紙のタグラインとして表記されている「With New Attitude」にも表現されていると思います。
WWD: 編集部内の体制は?
安藤: 編集長の下に、副編集長が3人います。副編集長は本誌に加え「ペンオンライン」のデスク兼務や、タイアップ関連を取り仕切るクリエイティブディレクターなど、各々立ち位置が違います。編集部員は全16人で、「ペンオンライン」に関しては本誌の編集者全員が携わっています。
WWD:ターゲットは?
安藤:38歳が読者の平均年齢。男女の割合は7:3程度ですが、特集内容で変動することも多い。ただ最近、美術大学の先生と話す機会があったのですが、美大生がよく読む雑誌として「ペン」を挙げることが多いそう。アートやデザインといったジャンルは「ペン」が得意とするところなので、“クリエイターの卵”として勉強する方にも受け入れられているのかもしれません。
WWD:最近反響の大きかった特集は?
安藤:アートに関連する特集は毎回反響がありますが、昨年度で一番売れたのはサンダーバード特集。「みんな知らないんじゃないか?」と不安もありましたが、制作を進行していくうちに好きな人が多いということがわかり、数多くのファンに刺さったようです。
WWD:今後誌面で新しい動きはあるのか?
安藤:6月16日発売号から新連載が3本始まります。1つは、「ヴェルサーチ」などでPRを務めた後、現在はファッション&ライフスタイル・プロデューサーとして活躍するAtsushi(大上敦史)さんの「35歳からの錆びないカラダ」。2つ目は放送作家の小山薫堂さんによる車の連載。3つ目は「アイデアの扉」で、デザイナーから映像作家まで、さまざまなジャンルの若手クリエイターを取り上げていきます。
WWD:「ペンオンライン」については?
安藤:従来は本誌のPR的な要素が強かったが、2013年9月に行なったリニューアルから本格的に始動しました。基本的に雑誌とオンラインは別物で、各々を1つの独立した媒体として考えるようにしています。従来よくあるような、雑誌のフォロー記事をオンラインに掲載するということはほとんどありません。単なる速報ニュースですと他媒体でも行なっているうえ、読者にとってはあまり読み応えを感じられないので、「ペン」の目線で読み解き、編集した記事をアップするように心掛けています。イメージとしては、雑誌とウェブマガジンの間。デザインも、「ペン」の美意識をしっかりと踏襲しています。
WWD:本誌とオンラインの棲み分けはどのように行なっているのか?
石川康太・副編集長(以下、石川):タイムレスな情報に関しては、本誌の特集で深く掘り下げ、オンラインではより即時性の高い情報を取り扱うようにしています。また、本誌はライフスタイルやカルチャー全般に強みがありますが、オンラインはファッションとアートに関するコンテンツに反響があります。
WWD:オンラインではどのような記事が人気か?
石川:ファッション記事が人気です。コレクションページでは、ルックを掲載するだけでなく、シーズンのトレンドをまとめたページもアップしています。ファッションに関するブログも人気。例えば、ファッションライターの高橋一史さん。内容はファッションに特化していて、海外のデザイナーやコレクション情報のほか、日本のデザイナーから、身の周りのことまで幅広く紹介しており、アクセス数を伸ばしています。現在、ブロガーは「ペン」の読者層と同世代のクリエイターを中心に27人。パリのドキュメンタリー写真家の岡原功祐さんや、以前編集部に在籍し、神主兼神社ライターとして活躍する石﨑貴比古さんなど、バラエティ豊かな人選も特徴です。
WWD:アクセスについては?
石川: 2014年3月は月間で約50万PV。ただ、4月から体制を強化し、現状アクセス数の推移も好調なので今後もオンラインには期待しています。また、SNSはツイッターのフォロワー数は約4万8000、フェイスブックのいいね!数は約1万3000。最新号の告知などはSNSでも同時展開しているので、「ペン」を知らない人にも認知していただく手段として一役買っています。
WWD: 1つのコンテンツを使い、雑誌とウェブで相乗効果を狙うことはあるか?
安藤:本誌は特集主義ですので、1つの特集で80ページ程度を制作します。ただ、面白いネタでも、紙ではどうしても掲載できないこともあるので、そこはオンラインと連動することもあります。例えば昨年10月に刊行した、デザインオフィス「ネンド」の特集。ここでは、ネンドに日清食品と一緒にカップヌードルのエクスクルーシブ広告を作ってもらいました。特集内で制作過程をドキュメントし、誌面ではアートイメージを掲載、そしてオンラインではCM動画をアップしました。これは、同じコンテンツでありながら違った見せ方をできる、という点で非常に面白い取り組みだったと考えています。また、ファッション特集の際に、スタイリストの愛用品をウェブで掲載するなど、プチ連動という形で、同特集内とオンラインでそれぞれ違った打ち出し方をすることもあります。
我が編集部の自慢は?
年末の温泉旅行が毎回盛り上がる仲の良さ
毎年12月中旬に、編集部全員で1泊2日の温泉旅行に行きます。多忙な年末に実施しますが、9割が参加。ただ、あまりにも飲んで騒ぐため、宿泊した宿からはほぼ出禁?というウワサも(笑)