インド政府は8月28日、単一ブランドを取り扱う外資系の小売業などに対する直接投資(Foreign Direct Investment以下、FDI)規制を一部緩和すると発表した。
インドでは国内産業保護の観点から外国企業の進出が規制されていたが、2012年9月にこれを撤廃。しかし、店舗で販売する商品の30%をインド国内で調達しなければならず、インド国内に実店舗がない限りECは不可などの厳しい条件が付けられていた。景気減速に対するカンフル剤の一つとして発表された今回の緩和策では、生産品の20%をインド国外に輸出するという条件付きで現地調達規制を30%から10%に引き下げるほか、実店舗をオープンする前にECを展開することを可能にする。
ピユシュ・ゴヤル(Piyush Goyal)=インド鉄道相兼商工相は、「今回のFDIに関する規制緩和によってインドがさらに魅力的な投資先となり、雇用の拡大や経済成長が促進されるだろう。またECに関する緩和策は、物流や電子決済、カスタマーサービスなどの分野での雇用拡大につながる」と語った。
インドのコンサルタント会社ワジール・アドバイザーズ(WAZIR ADVISORS)のハーミンダー・サーニ(Harminder Sahni)創業者兼マネジング・ディレクターは、「外国企業のインド進出を促すと同時に、進出企業の売り上げ増加に伴ってインドからの輸出量も増えるので、素晴らしい緩和策だと思う。国内販売用だけではなく、輸出用の製品をインドで生産した場合も現地調達率にカウントできるようになるため、『イケア(IKEA)』や『H&M』など、輸出品の現地調達率がすでに30%を大幅に超えているような企業は規制に引っかかる心配がなくなる」と述べた。
なお、インド企業との合弁やフランチャイズ方式は直接投資ではないため、以前からFDI規制の対象外となっている。インドのコンサルタント会社テクノパック(TECHNOPAK)のアービンド・シンハル(Arvind Singhal)会長兼マネジング・ディレクターは、「緩和策はインディテックス(INDITEX)が擁する『ザラ(ZARA)』や『イケア』『H&M』『ユニクロ(UNIQLO)』など、単一ブランドを扱っている大手SPAにとっては朗報だ。しかし直接投資を好まない外資ブランドも多く、特にアパレルはその傾向が強い。『ギャップ(GAP)』『トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)』『リーバイス(LEVI'S)』などはインド企業と提携して進出しているので、今回の規制緩和の恩恵はない。また、ラグジュアリーブランドの多くはインドでほとんど調達していないので、規制緩和をもってしてもFDIの要件を満たすことは難しいだろう」と述べた。
「ザラ」はインドのコングロマリットであるタタ・グループ(TATA GROUP)と提携して10年に、H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ)が擁する「H&M」は15年にインド市場に進出した。「イケア」が14年に進出した際は、15億ドル(約1590億円)を投資して10年間で25店をオープンする計画だったため、現地調達規制に関する激しい議論が行われたという。
なお、今回の緩和策はスーパーやコンビニエンスストアなど複数ブランドを扱う小売りは対象外のため、現地企業との合弁でかつ外国企業の出資比率は51%までという規制が引き続き適用される。これは現政権の主な支持層が家族経営の零細商店などであるためで、米小売最大手のウォルマート(WALMART)は会員制の卸という業態で進出し、26店を運営している。