ファッション

マスの中の異端児としてクリエイションを創造する雑誌へ 児島幹規/「装苑」編集長

 これまで世界文化社の「ビギン」や「メンズ・イーエックス」編集長を歴任し、長年メンズ誌に携わってきた児島幹規・編集長が、「限られた人のための一冊からマスの中の異端児に」を掲げ、「装苑」の改革に着手してから約半年が経った。販売消化率が80%を超える号も出てきており好調だ。Charaの娘のSUMIREが専属モデルに決定して話題になったり、能町みね子の連載「雑誌の人格」がヒットしたり、話題作りにも事欠かない。その手腕に迫った。

WWDジャパン(以下、WWD):編集長に就任して以来、何に注力しているか?

児島幹規・編集長(以下、児島):2月号から誌面に携わっていますが、今、伝えるべきことは「クリエイションがアイデンティティになる時代が来る」ということです。5000円でも1万円でも10万円でも、価格が違うのに同じように見える服が今の世の中にはたくさんあります。でもそれで良いはずはないんです。国が豊かになり、中流意識が生まれ、流行ができて、その次に差別意識が強くなり、ブランド品志向になった。でも本当に良さを理解してブランドを買っていた人ばかりではなかったと思うんです。現在は、景気を理由にファストファッションでも十分という人も増えました。テレビでも検索キーワードで番組ができてしまう今だからこそ、頑張って平均を知ることへ疑念を抱く人たちはもっと増えると思います。だからこそ、クリエイションにアイデンティティを感じる人が増えるだろうし、増えてほしいと思います。

WWD:誌面でクリエイションをどう表現していく?

児島:ヴィジュアルはもちろん言葉でも。あと、人とは違うというだけではなく、ものの良さを伝えることは、必然的にクリエイションがアイデンティティになるということにもつながります。無名でもオリジナリティ溢れるクリエイションをもっと紹介していきたいです。それがなぜ良いのかを伝えていくのと同時に、若いクリエイターを発掘し、育てる役割もこれまで以上に果たしたいですね。

WWD:読者ターゲットは?

児島:「装苑」を好きな人が読者です。元々ターゲットを決めて雑誌を作ったことはありません。テーマを絞ることで新たに興味を持ってくれる人を探っています。2月のリニューアル号では、「音楽とファッションとエモーション」、3月号は「感じる小物」、4月号は「この春体験してほしいファッションをめぐる101のこと」、5月号は「渋谷VS 原宿」、そして最新号の6月号では「刺繍とレース」を特集しました。今、やっていることは、「装苑」の存在を改めて伝え、「装苑」を知らなかった人や、しばらく手にとっていなかった人に、手にとってもらうことです。そのために毎号表紙、タイトルも変えています。いろんな嗜好を持っている人に「装苑」に気づいてもらいたい。その人たちがクリエイションを好きなら、買い続けてくれる。それに応える媒体でありたいと考えています。目指しているのはもっと先ですから。

WWD:リニューアル後の部数は好調だと聞くが?

児島:6月号もこの調子だと消化率は80%を超えそうです。次は「1点モノを作る特集」や「ヴィンテージ特集」を予定しています。この半年で久しぶりに「装苑」を買ったという人と同時に、初めて買ったという人がとても増えています。先ほど話したことが連鎖となり、さらに読者が増えてくれればと。眠っていた読者を顕在化し、マスの中の異端児として勝負していきたいです。

WWD:誌面作りにおけるこだわりは?

児島:「カワイイ」ことが重要視される女性誌ですが、他誌とは違う部分でしっかり打ち出していきたいのは、無知でいることは、「カワイイ」のではないということです。

WWD:反響のあった企画は?

児島:売れたのは3月号と6月号、話題ではSUMIREを起用した4月号です。また3月号掲載のエシカルをテーマにした第2特集は、とても反響がありました。スラムの人たちに寄付ではなく、社会貢献でできることを知ってもらうために、ブランドが取り組んでいる事例を紹介しました。少々難しい話題でも知らなかったことを知る機会として、読者に提案できる一例だと思います。また、2月号の第2特集で紹介した、現在有名なデザイナーが若い頃にした苦労話などのエピソードも反響がありました。最初から成功したわけではなく、失敗や多くの経験を経て今があることを伝えています。ポール・スミスさんや「ミナ・ペルホネン」のデザイナー、皆川明さんの話も好評でした。本質を知ってもらうために、誰も書いていないようなことを今後は自分でも書く予定です。

WWD:「装苑」ならではの魅力とは?

児島:さまざまなクリエイターやブランドと組んでヴィジュアルを自由に作れることでしょう。そのためアートディレクターも専任を置かず、特集ごとに誌面をクリエイションしています。純粋にファッションが好きな人や、昔「装苑」が好きだった人に、「装苑」をクリエイションの場として活用してほしいですね。実は、誌面に掲載するブランドの広告ヴィジュアルを弊誌で制作することもあるのですが、そのヴィジュアルを2次使用することも視野に入れています。ブランドと一緒に本質を伝えることをもっとしていきたいです。

WWD:能町みね子さんのさまざまな雑誌の読者をプロファイリングした連載も好評だと聞くが?

児島:「雑誌の人格」はとても好評の連載で書籍化して重版しています。こういった連載も弊誌ならではのオリジナリティのある企画だと思います。

WWD:誌面以外での取り組みは?

児島:若いクリエイターを支援するために、新人デザイナーの登竜門として毎年ファッションコンテスト「装苑賞」を実施しています。さらに若手クリエイターを支援する展示会「SO-EN WHITE」や「アクセサリー蚤の市」もあります。今後、それをさらに発展させていきたいです。文化学園にある出版局なので、学生には良い経験として、メーカーの方には若い考えを参考としてもらえるような、学生を巻き込んだイベントをやりたいです。

WWD:今度取り組みたいことは?

児島:「装苑」のオンラインをタブレットやスマホを意識したレイアウトにリニューアルしている最中です。ニュースをアップしていくのと同時に、将来のeコマースを見据え、柔軟に対応できるようにしたいと考えています。

我が編集部の自慢は?
服の、もの作りの知識では負けません!

文化卒が多いこともあり、服を作れる部員を始め、素材、縫製、デザインに詳しい者が揃っています。7月号では製図を掲載したページもあるのですが、アクセサリーなども実際にできるか部内で作って試すほど、もの作りが好きで、こだわる編集部です!

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