大手通信会社に入社後、国内外でITソリューションを提供するビジネスマンが、今週のファッション週刊紙「WWDジャパン」で気になったニュースを要約してお届け。最先端のテクノロジーから企業と、その利用者が必要とするものについて考え続けたITのプロ、CKRが未来的視点からニュースにつぶやきを添えます。
今日のニュース:P.6「スパイバーはアパレル産業をどう変えるのか」
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読み解きポイント:「Brewed(ブリュード)」に込められた意味を考える。ビールの作り方を知れば、人工タンパク質素材のすごさが分かる!
ニュースのポイント
ゴールドウインとスパイバーが共同で、“ムーン・パーカ”を発表。天然素材、化学繊維でない、第3の繊維である人工タンパク質素材「ブリュード・プロテイン」を使用。全く新しい素材のため、加工、染色、縫製、全ての工程をゼロベースで設計しており、プロセスそのものも知的財産に値する。
CKRはこう読む!
「17%」。地球上の全ての生物の重量のうち、微生物が占める割合です。ちなみに植物が82.5%、動物は0.5%、人間は、たったの0.01%です。この割合だけでも、微生物の可能性を感じます。
人工タンパク質素材も、食卓で馴染みのあるビールも、地球上に多く存在する微生物の発酵という力を借りて、作られています。
「タンパク質素材は、石油のような枯渇資源依存ではなく、再資源化が可能。だからサステイナブル」というふんわりしたイメージから、もう一段踏み込み、発酵という循環型プロセスと科学的アプローチに成功したスパイバーのすごさについて、考察してみたいと思います。
「Brewed Protein(ブリュード プロテイン)」。直訳すると、醸造されたタンパク質です。醸造とは、発酵作用を利用して製造するという意味で、「Brewery(ブリュワリー)」は、ビール醸造所のことです。
ビールは、以下の工程で製造されます。
・麦芽、米などとお湯を混ぜ、麦汁を作る。
・麦汁をろ過し、ホップを加え煮沸。
・酵母(微生物)を加え、麦汁に含まれる糖分をアルコールと炭酸ガスに分解。
・貯蔵、熟成させ、ろ過すれば、ビールの出来上がり。
酵母は生きるために糖を食べて、アルコールと炭酸ガスに分解するという循環型プロセスを持っています。ビールの香りや味は、どんな麦芽、ホップ、水を使い、どの酵母を組み合わせるかで決まります。また自然生物を活用した製造のため、理想の香りや味を生み出すまでには、トライ&エラーを繰り返す必要があります。
人工タンパク質素材の“ムーン・パーカ”も、遺伝子データを解析し、微生物による糖の分解プロセスというトライ&エラーを繰り返し、最適な仕込み方、ノウハウを蓄積した上に誕生したものです。今回の発表は、科学的アプローチで一定の品質、ノウハウを確保できたということを意味します。
今までの服は、生地を選択し、色やサイズ、カッティングによって、デザイン、カスタマイズを行なってきました。これからは素材そのものも、同じ生態系に生きる微生物の力を借りてデザインする、という時代へ入ったことにワクワクしませんか?
科学的アプローチでレシピを増やし、繊維だけでなく、フィルムや樹脂など適用領域拡大に挑戦するスパイバーの活動をこれからも応援したいですね。
CKR Kondo : 大手通信会社に入社後、暗号技術/ICカードを活用した認証決済システムの開発に従事。その後、欧州/中東外資系企業向けITソリューションの提供、シンガポール外資系企業での事業開発を経験。企業とその先の利用者が必要とするもの、快適になるものを見極める経験を積み、ウェアラブルデバイスやFree WiFiを活用したサービスインキュベーションを推進。現在は、米国、欧州、アジア太平洋地域にまたがる、新たなサイバーセキュリティサービスの開発を推進中