【#モードって何?】きっかけは読者から編集部に届いた質問「つまるところ、モードって何ですか?」だった。この素朴な疑問に答えを出すべく、「WWD ジャパン」9月16日号では特集「モードって何?」を企画し、デザイナーやバイヤー、経営者、学者など約30人にこの質問を投げかけた。答えは予想以上に多岐にわたり、各人のファッションに対する姿勢や思い、さらには現代社会とファッションの関係をも浮き彫りにするものとなっている。本ウエブ連載ではその一部を紹介。今回は成実弘至・京都女子大学家政学部生活造形学科教授に聞く。
パリを中心とした生産と流通
WWD:“モード”とは何でしょうか?
成実弘至・京都女子大学教授(以下、成実):“モード”はフランス語なので、シンプルに「パリを中心としたファッションのグローバルな生産と流通」だと思っております。多くの事物はアメリカが中心になりますが、ファッションだけはフランスが中心です。以前に比べればパリコンプレックス、とにかくパリコレで認められなければ一人前じゃないみたいな風潮はないですが、パリを中心としたシステムが世界のファッションを動かしているということは疑うべくもないことだと思います。
WWD:デザインや表現の段階だけではなく、生産流通までを含むものであると。
成実:“モード”にはさまざまな捉え方があります。一つは“流行”。“流行”をつくるということをパリがやってきたという事実は歴史的に確かなことです。19世紀ごろのオートクチュールから世界のファッションのシステム、“流行”、あるいは服の進化などはパリが切り開いてきたと思うので、そういうふうに考えたいです。
WWD:現在の“モード”はなにを反映しているのですか?
成実:いまの“モード”が反映しているのは、グローバリゼーションだと思います。もともとオートクチュールなども西ヨーロッパ限定のシステムであり現象だったわけで、それが戦後アメリカを媒介として全世界に広まっていった。
1990年代前後から、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)などが産業の多国籍化、コングロマリット化を進め、現在もグローバルで成長している。対抗するかたちでファストファッションが出てきましたが、現在でもそのトレンドは続いています。
クリエイターはそこそこの力が
あれば誰でもいい
WWD:“モード”を体現しているクリエイターは?
成実:クリエイターとは言えませんが、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者(CEO)とアナ・ウィンター(Anna Wintour)=コンデナスト(CONDENAST)アーティスティック・ディレクター兼米「ヴォーグ(VOGUE)」編集長だと思います。
21世紀のファッション産業は、クリエイターがつくっていく時代ではなくなっていて、ある意味クリエイターはそこそこの力があれば誰でもいい。そこそこ力のある人を巨大資本が、言い方は悪いですけれども使っていくような状況になっています。クリエイターが時代を切り開くような表現をしていた80~90年代までの状況と現在は少し違います。ファッション業界をつくっているのは、その上に立っている人です。
WWD:クリエイティブ・ディレクターでもなく、彼らを採用する側であるビジネスマンが“モード”を作っていると。
成実:80年代だったら「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS以下、ギャルソン)」、90年代だったら「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA、現メゾン マルジェラ)」など、クリエイターが“モード”をつくっていく時代がありましたが、この20年ほどはそういう状況にない。自分で切り開いてやっていく人は極端に少なくなってしまっていて、いたとしても目立たない。どちらかというと既存の“モード”の中で活動していく人が多い。
べつにそれが悪いわけではないですし、それなりに面白いものは作られているとは思うのですが、かつて感じていた可能性、ワクワクするような感じはこの10年くらいないです。だから若い世代が何を面白いと思っているかということの方が僕は興味がある。
クリエイターが切り開いていく時代は決着した
WWD:アルノー、アナはお互い作用しあってビジネスをつくっていっているパートナーのような部分もあります。アルノー・アナ方式的なものは今後も続く?
成実:ファッションは変化していく世界ですからもうそろそろ……とは思うので、次のモデルが必要だと思います。大量生産はもうやめようよ、みたいな社会になっていますから。
WWD:次のファッションのシステムはどのようなものになるのでしょうか?
成実:むしろ私が知りたい(笑)。
WWD:著書の「20世紀ファッションの文化史 時代をつくった10人 」の続編を書くとしたら誰を書くのか?あるいは書けるのか?
成実:紹介する最後の1人がマルタン・マルジェラ(Martin Margiela)だったのですが、本当にそこで終わってしまっているなという気がします。クリエイターが切り開いて行く時代は最終的に決着した気がします。
ローカルなリアリティーから作られるもの
成実:僕が最近関心があるのは、グローバルを意識せずローカルで活動する人たちです。例えば、東京在住の長賢太郎「オサケンタロウ(OSAKENTARO)」デザイナーや京都で服を手作りしている居相大輝「イアイ(IAI)」デザイナー。2人はある意味アルノーたちと対極にあるような人たちです。
WWD:なぜその2人に興味を持った?
成実:“モード”ではない服作り、もう少しローカルなリアリティーから作られるものってなんだろうということを考えたかったからです。
WWD:彼らはグローバル企業とは逆で成長拡大願望はない?
成実:そういうことを考えていない人たちですね。彼らが既存のファッションシステムの代わりになるということはあり得ないかもしれませんが、一つの服の可能性として面白いなと。水野大二郎・京都工芸繊維大学特任教授はもっとラボを使ったデジタルな服作りなどを目指しているでしょうけれども、僕の場合は「服ってなんだろう?」みたいなことを人文的に考える方向です。
例えば、京都新聞の行司千絵さんは記者をやりながら服を作っている人で、自分の母親に服を作ったり、知り合いに頼まれて服を作ったりなどのアートっぽい活動をしている。人ありきなんですよね、この人にこういう服を着てほしいとかで、ビジネスではない。
WWD:どこか原点回帰に近い気がします。
成実:オートクチュールみたいなことがもう一回復活してもいいわけです。いまと違うものが面白い。もちろん「ギャルソン」とかも面白いんですけれどもね。
秋吉成紀(あきよしなるき):1994年生まれ。2018年1月から「WWDジャパン」でアルバイト中。