「エル・オンライン」は、1996年にスタートした老舗の女性誌オンラインマガジンだ。ファッションからビューティ、ウェルネス、グルメまで、ライフスタイル全般に及ぶ特集を幅広く発信している。厚みのある特集記事のほか、速報性のあるセレブゴシップなどにもアンテナを持つ。ウェブ媒体のみで単独編集部を持つ組織は、出版社の中でも珍しい。月間1700万PVという圧倒的な数字をもたらす、「エル・オンライン」の求心力とは何か?
WWDジャパン(以下、WWD):改めて「エル・オンライン(以下、EOL)」のコンセプトは?
富永亜紀・編集長代理(以下、富永):「今、欲しい!」という声に応える鮮度重視の情報と、今の時代やファッションの息づかいを感じさせるオンラインマガジンを目指しています。「EOL 」がスタートしたのは1996 年9 月で、ヤフーが誕生してまだ間もない頃。マガジン形式のウェブコンテンツはまだ馴染みの薄い時代でした。それ以来、取り巻く環境は大きく変わりましたが、18年前から、オリジナルコンテンツを充実させるという方針は変わらず、より速報性を追求するようになっています。現在10人いるエディターが、ファッションやビューティ、グルメまで、全カテゴリーを兼任しています。また、ブランド向けのコンテンツも充実させています。「ジンジャーエール」のようにブランドデビューからブランディングまでの長期的なサポートや、某ラグジュアリーブランドではSNS上のバズを含めた導線を用意して企画を盛り上げるキャンペーン作りなど、テクノロジーの進化に合わせて常にアップデートしています。
WWD:人気のコンテンツは?
富永:ファッションのチャンネルで人気なのはセレブ関連記事と特集記事です。月の中で何回かに分けてアップしたワークスタイル特集も好評でした。特集は、ビューティやカルチャーなど全チャンネルを連動させ、サイト内の回遊性を高めることも意識しています。読者はライフスタイル全般に興味の幅が広く、「EOL」でも
カルチャーのコンテンツが豊富です。雑誌だと、「エル・ジャポン」だけでなく「エル・デコ」「エル・ア・ターブル」も含めた3冊の雑誌を一手に担っているようなもの。間口が広い分、よりウェブで興味を引くための編集力が試されますね。さらにウェブでは見やすさも重要です。パソコンだけでなく、スマートフォンでの閲覧が増えていて、朝昼晩といつでもアクセスしてもらえることで、すき間の時間も楽しんでもらえるようになりました。スナップやゴシップの記事は特にその傾向が顕著で、ブランドからもスマートフォン最適化の要望が増えているだけに、マルチデバイスのサイトとして、文字のボリューム、写真の扱い方などにも気を配るようにしています。
WWD:ファッション以外でアクセスが伸びているジャンルはあるか?
富永:セレブ関連、特にゴシップ記事です。インターネットでセレブ名を検索すると、「EOL」の関連ページが検索トップに挙がる事も一役買っていますが、一番の強みは速報力だと自負しています。「エル」の本国サイトや海外ゴシップサイトを随時チェックし、とにかく速くアップすること。また、その際はセレブの着用ブランドやその人にまつわる情報をなるべくフォローするようにしています。記事の信頼性の高さと検索のしやすさも、アクセス数につながっています。
WWD:今年力を入れるコンテンツはあるか?
富永:イベント運営と動画コンテンツです。まずイベントに関しては、これまで以上に読者との接点を増やし
たいので、今後は、ロイヤルユーザーに響く立体型イベントを強化して読者との距離を縮めたいと考えています。本誌の25周年記念の一環として6月14日には、読者500人を六本木アカデミーヒルズに招き、働く女性に
向けたトークイベント「ウーマン・イン・ソサエティ」を本誌主導で開催します。「EOL」もブースを出展し、ワークショップを行ないます。また、3月に公開した2014年春夏のスタイルブックでは、初めて動画を使った表現とスマートフォンへの最適化を行なったところ、高い反響をいただきました。こうしたヴィジュアルクオリティと、「エル」ならではのインターナショナルな感覚と豊富なアーカイブがクライアントからの評価につながっているのだと思います。エルグループのサイトは全世界27ヵ国にわたって展開しており、「EOL 」内で各国のエルのリンクをまとめた「ワールド・エル」ページもあるんです。アメリカやイギリス、フランスなどと連携したプロジェクトもあります。世界で45エディションを刊行している本誌の「エル」のネットワーク力は頼もしい武器。もちろん、「エル・ジャポン」との連動も強化中です。これまでは誌面の二次使用などが多かったのですが、eコマースサイト「エル・ショップ」も含めたトリプルコラボレーション企画も予定しています。販売チャネルを持つ弊社の強みを生かした三位一体の内容になりそうなので、ご注目を。
WWD:今後、取り組みたい新企画などはある?
富永:漠然としていますが、読んだ人の感性を刺激できるような企画を作りたいと常々思っています。ウェブは実用的な情報に溢れ、キュレーションサイトも増えています。実用的な情報は有益ですが、情報疲れを感じる時もありますよね“。読む”のではなく何かを“感じる”ことができる、インスピレーションのきっかけになるようなヴィジュアルストーリーだけのページがあったら面白いなと。あえての情報断食です(笑)。最近、香りを送受信できるデバイスを作ることが可能になったというニュースを見て、すごく興味を惹かれました。眺めたり聴いて心地よくなったり、ウェブマガジンにも五感を刺激できたりするコンテンツがあっても面白いと思うのです。また、20代の若い世代の読者育成、若い人材を発掘する企画も今後のことを考えると作りたいです。「エル」は1945年のパリで、「もっと女性の好奇心をかきたてよう!」と立ち上がった雑誌。女性が生き生きと輝くことを応援するマインドは、ずっと変わりません。「EOL」は年齢や世代で区切らず、本来の自分の「好き! 」を突き詰められるサイトにしたいです。ファッション誌発のオンラインマガジンのコンテンツが似通いつつある中で、ニュースソースだけではなく、「EOL」でしか読めないものは何かを掘り下げて、立ち位置をさらに明確にしていきたいと思います。
我が編集部の自慢は?
興味の幅が広く、知識の“引き出し”が豊富!
編集部員たちは、専門分野以外の知識も豊富。「ビューティに携わりながら、ソムリエ級にワインが詳しかったり、セレブ通でいて心理学にも長けていたり、お笑いやラジオ通がいたり。いい意味でミーハーで一芸を持っています(笑)」と富永編集長代理。