2017年に発表した楽曲「High Highs to Low Lows」で一躍有名となったシンガーソングライターのロロ・ズーアイ(Lolo Zouai)。現在23歳の彼女は、アルジェリア人の両親のもとにフランスで生まれ、その後サンフランシスコやロサンゼルスで育ち、現在はブルックリンを拠点に活動している。このようなバックグラウンドから多様な音楽やカルチャーに影響を受け、それらを折衷して自身の音楽として昇華し表現。フレンチミュージックとトラップの要素を混ぜ合わせたような物憂げでノスタルジックなサウンドに、ズーアイのミステリアスな声を乗せている。また英語やフランス語を織り交ぜたソングライティングのセンスも高く、女性R&Bシンガーのハー(H.E.R.)が今年のグラミー賞を獲得したアルバム「H.E.R.」には、ソングライターとして「Still Down」を提供している。
4月に楽曲「High Highs to Low Lows」と同名のデビューアルバムをリリースし、8月には「サマーソニック 2019(SUMMER SONIC 2019)」の出演に加え、ファッションアイコンとして「コーチ(COACH)」のグローバルキャンペーンに抜擢されるなど、勢いを見せるズーアイ。彼女がいったいどのように楽曲を制作しているのかルーツとともに迫ったほか、ファッション観や意外な交友関係についてまで話を聞いた。
WWD:活動のきっかけは?
ロロ・ズーアイ:小さい頃からシンガーになることが夢で、自分を信じて歌の練習をずっと続けて、いろんな音楽を聴いて、だんだんうまくなって、形になり始めたのが2014年ごろ。それで「サウンドクラウド(SoundCloud)」に自分の部屋で作ったビートやほかのアーティストのカバーをアップするようになったんだけど、アップしては非公開にしたりしてたの。それからニューヨークに移り住んだタイミングで「本気で音楽をやろう」と思って、まずはじっくりと時間をかけて“私の音作り”をしたのよ。50曲ぐらい録音したけどそれは練習のためだから発表しなくて、17年に「High Highs to Low Lows」ができたときにようやく「最初にアップしたい曲はこれだ」って思って発表したの。
WWD:カバーは誰の何を?
ズーアイ:高校生の頃にT-ペイン(T-Pain、米シンガーソングライターでラッパー)の「Up Down(Do This All Day)」をカバーしたのは覚えてるわ。5万回ぐらい再生されたの。数週間前に「アップルミュージック(Apple Music)」の番組で彼の曲を流したら本人がツイッターで反応してくれて、「人生は素晴らしい!」って思ったばっかり(笑)。
WWD:T-ペイン以外に好きなアーティストや影響を受けたアーティストは?
ズーアイ:好きなアーティストはたくさんいるし、誰か1人のアーティストを崇拝しているわけじゃないから答えるのが難しいわね。高校時代はトゥー・ショート(Too $hort、米西海岸出身のラッパー)がアイドルだったけどいまの私はラッパーじゃないし、T-ペインは影響は受けていないけど好きなアーティストの1人。子どもの頃から今にいたるまで、本当にいろんな人たちから影響を受けているだろうし……この質問は好きじゃないわ(笑)。
WWD:自分の部屋でビートを作っていたということは、家に宅録などの機材があったんですか?
ズーアイ:マックブック(MacBook)を買って、「ロジック(Logic)」(音楽制作ソフト)で作ってたの。マイクはシュアー(SHURE)の“SM7B”を使ってたんだけど、理由は「自宅での録音に最適なマイクは?」ってググったら出てきたから(笑)。マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)が「Thriller」の録音で使ったマイクって書いてあって、「あのアルバムは最高だから私もこのマイクを使えばいい音楽が作れるかも」ってね。あとはマイクをマックブックにつなぐインターフェースとMIDIキーボードかな。それだけあれば音楽を作るには十分だった。まぁマックブックがあれば何でもできちゃうからMIDIキーボードはいらなかったんだけど、コードを弾くにはキーボードの方が使いやすくて。でもマックブックを買う前からiPhoneの「ガレージバンド(GarageBand)」(音楽制作ソフト)でビートを作っていたし、今じゃもっと機材はいらないと思うわ。
WWD:いまの20代の音楽好きは、一度は「ガレージバンド」を使ってますよね。私も例に漏れず試してみたんですが、才能がなかったようでダメでした(笑)。
ズーアイ:誰でも向いているわけじゃないから落ち込まないで(笑)。
WWD:制作するジャンルは当時から変わっていませんか?
ズーアイ:ん〜どうだろう。自然に成長しているとは思うから、昔と変わっていないとは言えないかな。
WWD:アルジェリアにルーツを持ち、フランスで生まれ、アメリカで暮らして、と多様なバックグラウンドをお持ちですが、楽曲制作にはどのような影響を与えていますか?
ズーアイ:生まれ故郷がフランスだから歌詞にフランス語を使っているけど、育ったわけじゃないからポップカルチャーや新しい音楽は知らなくて、音楽で影響を受けたのはエディット・ピアフ(Edith Piaf、仏シャンソン歌手)やブリジット・バルドー(Brigitte Bardot、仏女優で歌手)、フランソワーズ・アルディ(Francoise Hardy、仏歌手)ら1960年代のクラシックなフレンチミュージックばかり。「High Highs to Low Lows」はアルジェリアの伝統音楽の影響を受けていて、子どもの頃に聴いていたハレド・ハジ・ブラヒム(Khaled Hadj Brahim、アルジェリアのライ歌手)のメロディーをそのままアドリブやコーラスで使っているの。そして、サンフランシスコで育ったからウエストコースト・ラップっぽさが節々に出ていると思うーー全部混ぜたものが私の曲を私らしくしているの。
WWD:フランス語で「私」を意味する楽曲「moi」は、そういったバックグラウンドや環境を題材にしているそうですね。
ズーアイ:フランスで6カ月くらい暮らしていた19歳の頃の歌なんだけど、「Je ne suis pas chez moi」という歌詞は「私は(自分の)家にいない」という意味で、常に移動していたり、たくさん旅をしていたり、異常なくらいあちこち飛び回っていたからホーム(家)だと感じられるところがないことを書いているの。そして、私は音楽活動に専念したいからひとところに縛り付けることはできないという内容でもあって、自由でいたいから今は恋愛関係にフォーカスしたくないしできない、って意味もあるわ。
「They think it's all gucci, but it's 99 cents(全部グッチだと思ってるけどこれは99セント)」という歌詞も印象的な「High Highs to Low Lows」
WWD:あなたを代表する「High Highs to Low Lows」で何かエピソードがあれば教えてください。
ズーアイ:「High Highs to Low Lows」は私とステリオス・フィリ(Stelios Phili、ニューヨークを拠点とするプロデューサー)が初めて一緒に完成させた曲で、私が音楽業界で活躍しようとしている頃の苦労を描いたものだからとっても重要な曲。「I can't wait to really get paid not just minimum wage(最低賃金で働くのはもう嫌)」って歌詞があるように、当時はレストランで働いていたの。そこでは4年くらい働いていたんだけど、レストランの仕事は私の思い描く道とは全くの別世界で本当に嫌だった。実際は最低賃金よりほんのちょっと高い時給だったから、歌詞はちょっと大げさなんだけどね(笑)。
それでも時々、ロサンゼルスやマイアミやアトランタにいるプロデューサーが呼んでくれて一生に曲を作っていたんだけど、彼らの家に行くと私とはぜんぜん違うセレブの贅沢な暮らし(ハイ)をしていて、私には慣れない環境が彼らにとっては普通。それから狭いアパート(ロウ)に帰ると……って気持ちのアップダウンの対比がすごかった。そうやっていろんな人と曲を作ることでまとまりがなくなって、“私のサウンド”を見失う時期があったの。そんな苦悩の中、ステリオスと出会って「この人なら私のストーリーを伝えて一緒に曲作りができる」って感じたのよ。「High Highs to Low Lows」ってフックはすでにあって、方向性を彼に伝えたら案の定完璧に作ってくれた。その週はずっと2人でヴァースを書いて、「ちょっとフランス語を入れてみようかな」って最初に出てきたのがイントロの「Des hauts et des bas(浮き沈み)」で、それをアラビア風のメロディーをつけて歌ってみた。だからさっきの話に少し戻るけど、最初の曲を作った時点で3つの文化が混じっていたのよね。この曲で私の進むべき方向が決定したし、手応えも感じたわ。
WWD:思い入れがある曲だからこそ、発表から2年が経ちますがアルバムのタイトルにしたんですね。
ズーアイ:その通り。私のキャリアの転機になった重要な曲だし、基盤となった曲だからアルバム全体を表すタイトルとしてこれしかないと思ったの。
「ファッションには設計図なんてない」
WWD:個人的にあなたのスタイルがとてもツボなんですが、あなたらしいファッションといえば何でしょうか?
ズーアイ:私は他の人が何をしているのかあんまり気にしないから自分が好きなようにやってるんだけど、スタイルという意味では高校生の頃からあまり変わってないの(笑)。古着屋やリサイクルショップは、努力をしないと好きなもの、例えば好みの色合いのビンテージウエアとかが見つからないからよく行ってるわ。その分愛着も湧くしね。つい手に取っちゃうのはカラフルでビッグサイズのジャケットとか、ルーズなシルエットの服。足元は最近「ナイキ(NIKE)」がイケてるって聞くから「じゃあ履こうかな」って履き始めたくらいで、もともとは「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」が好きだから人生で一番よく履いていると思うわ。
ハーレーダビッドソン(Harley-Davidson)やナスカー(NASCAR、米最大のモータースポーツ統括団体。「moi」のリリックにも登場する)も好き。簡単に言うと車好きで、バイカーの服が好き(笑)。モータースポーツは運転したことがなくて車も持ってないし、洋服は誰がデザインしているのか知らないけれど、本当にかっこいいと思うの。こういうレース用のキャンディーみたいな色のジャケットは特に大好きで、男性的な洋服にどこかフェミニンなタッチを加えるのが得意ね。
WWD:なぜ男性っぽいものに惹かれるのでしょうか?
ズーアイ:最近はだいぶフェミニンになってきたけど、昔からおてんばでボーイッシュなタイプだったの。ママがボーイッシュなタイプだから子どもの頃はそういう服を着せられてたんだけど、当時の写真を見ると今の私とほとんど同じ格好だったりするから母の影響が大きいわね。タイトな洋服は着にくくてあんまり好きじゃない。男性っぽい服は着ていて楽でもあるの。
WWD:話を聞く限りいないと思うのですが、スタイルアイコンはいますか?
ズーアイ:私のことよく分かっているじゃない、答えはノーよ(笑)。ときどき「わお、なんてクールでスタイリッシュなんだろう!」と思うような、説明できない“何かを持った女の子”に会うんだけど、「このアイテムがかっこよかったな」「あの着こなしが素敵だったな」って街ゆく女の子たちを参考にしたり、ただ自分が好きなものを着たりしている感じかな。私はサンフランシスコってスタイリッシュな街で育ったから、特にそうかもしれない。
あ、“何かを持った女の子”はみんな街で見かける普通の女の子たちの話ね、私はセレブに憧れたことがないから。自分じゃない誰かになろうとするのは健康的じゃないと思うし、ファッションは設計図なんてなくて思いつきでランダムにやるからこそ楽しいの。一夜にして誰かがトレンドをつくり出すかもしれないしね。
WWD:「コーチ」や「トミー ジーンズ(TOMMY JEANS)」などのビジュアルに起用されていますが、それについてどう思いますか?
ズーアイ:「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」は昔から大好きで、古着屋でビンテージを探したりするぐらいだからとてもうれしかったわ。「コーチ」はユルゲン・テラー(Juergen Teller)が撮ってくれるというし、コンセプトの“ニューヨークで夢を実現する”に共感したからいい機会だと思って引き受けたの。もともと好きだったり、そうでなかったりしても、ブランドと仕事をすることは好きよ。もっと私を広く知ってもらえる機会だし、音楽業界とは違ったアプローチでオーディエンスを増やせる方法だからね。
WWD:ではコラボしたいブランドは?
ズーアイ:いつか「ドクターマーチン」とコラボしてみたいかな。「トミー ジーンズ」との提携はこれからも続けたいし、いつかデザイン面でもコラボしてコレクションを発表してみたいわ。
WWD:あなたのSNSを見ているとポケモンなど日本アニメに関するものをよく見かけるのですが、日本のサブカルチャーが好きなんでしょうか?
ズーアイ:ポケモンが好きで、特にプリンが大好きなの。プリンはかわいくて歌うから私の分身って言っているぐらいにね(笑)。あとはサンリオのキャラクターが大好きで、子どもの頃はショッピングセンターに行くとまずサンリオのショップに行っていたわ。日本のアニメって本当にかわいいから、私が意識していなくても受けた影響はスタイルに表れているはずよ。
WWD:最後に、「サマソニ」のライブはどうでしたか?友達のケミオくんも観に来ていましたね。
ズーアイ:初めての日本でのライブだったけど最高だった!本当に楽しかった!ケミオとはネットを通じて5年くらい前から友だちで、私がアーティストとして活動する前から知ってくれていた1人のフォロワーだったの。今年初めてニューヨークで会って、その後もロサンゼルスで遊んだし、今夜もこれから一緒に遊びに行く予定!