「プレシャス(Precious)」は今年3月で創刊10周年を迎えた。写真への徹底的なこだわりとラグジュアリー・ブランドをリアルに着こなす提案は、掲載商品が高額であるにもかかわらず売れるという現象を引き起こし、ブランド側からも高い評価を得ている。同様に5年目を迎える「メンズプレシャス(MEN'S Precious)」もダイナミックな撮影による商品の圧倒的な存在感で、購買につながる雑誌として人気だ。両誌の舵取りを行なう鈴木深・編集長に誌面作りのノウハウを尋ねた。
WWDジャパン(以下、WWD):改めて「プレシャス」の強みとは?
鈴木深・編集長(以下、鈴木):一言でいうなら、“ラグジュアリーで、かつリアルクローズを提案している”ことです。掲載した商品は、どんなに高額でも売れます。某宝飾時計ブランドの店舗では、「プレシャス」で見た商品をお求めに来られたお客さまのご希望の商品が店頭になかったため、同号に掲載されていた2700万円の他の時計をお勧めしたところ、あっさりと売れたことがありました。こうした実績があるため、ブランドからは「プレシャス」は高額商品が売れるという評価をいただいています。
WWD:その秘訣とは?
鈴木:今年で創刊10 周年を迎えましたが、“ラグジュアリーなものをリアルに上質に提案する”というコンセプトは一貫して変えていませんし、表紙の小雪さんを筆頭にスタイリストやフォトグラファーまで、誌面に関わるスタッフやクリエイターもほとんど変えていません。創刊以来クオリティを高めるために、スタッフを広げず、コンセプトも変えないというやり方を続けてきました。ただ、僕が編集長になってから、少しだけ写真の表現を柔らかくして、大人のハッピー感も意識しています。
WWD:ターゲットになる読者層は?
鈴木:年齢だと30代から60代まで幅広く、平均年齢は44.8歳。年代より、“ハイブランドが似合う”というコンセプトを重視した結果です。ただ本当は、早いうちからいいものに触れて欲しいので、30代にもっと読んでほしいですね。部数をたくさん売る雑誌ではないですが、もう少し読者層の幅を拡げたい。
WWD:誌面ではハイブランドのミックスコーディネートもあるが?
鈴木:創刊号から、ハイブランドの方々にご協力いただきながらミックスコーディネートもやってきました。リアルなスタイリングにこだわれば、どうしてもワンブランドで全身のコーディネートをつくることが難しいときもあるからです。その結果、ミックスコーディネートの反響があることもわかり、今では多くの方にご理解をいただけるようになってきました。
WWD:一方「メンズプレシャス」の状況は?
鈴木:好調です。「メンプレ」では写真の美しさだけでなく、切り口の面白さにこだわっています。イタリア製品の「曲線の美しさ=エロティックさ」にフォーカスした春号(4月発売)では、読み物企画でも「イタリア問題児列伝」というテーマを組み、ローマ皇帝のヘリオガバルスや、映画監督のパオロ・パゾリーニを取り上げました。夏号(6月発売)の「旅ファッション」では、裏テーマで「放浪者たちの夢」という部分にこだわり、ヘミングウェイやストーンズ、森山大道を取り上げます。企画は常に“知的不良”な匂いを大切にしたいと思っています。ハイブロウですが(笑)。
WWD:読者層は?
鈴木:「プレシャス」同様、平均年収もそれなりに高いのですが、それ以上に測り知れない所得を持っている読者が多いです。名前は出せませんが、某有名俳優やカリスマ・ロックシンガーが「メンプレ」を持って店舗に買い物に来ることがあると聞いています。平均年齢は43歳で、「プレシャス」と「メンプレ」の読者がカップルであることも多く、共通の別冊付録のタイアップが入ることもあります。
WWD:両誌で特に重視していることは?
鈴木:女性は、歳を重ねて素敵になっていくことが大事だと思っています。単に「若く見えることが良い」というのはナンセンスで、表情や仕草、着こなしや会話のセンスを磨いてほしい。以前に“かわいいシワをつくりましょう”という30ページの特集を組み、タテのシワはダメだけど横のシワはいい!と提案しました。あと「プレシャス」も「メンズプレシャス」も、誌面作りで共通するキーワードは“名品”。長く使い続けられる、タイムレスな価値観を重視しています。究極的に目指しているのは長く保存される雑誌。良い紙を使って、良い印刷で、長く保存されるものを作る。だからこそ関わるスタッフのモノ作りの意識も高くなり、クオリティの高い誌面ができる。それが雑誌の生き残る道だと思っています。
WWD:10周年の記念企画が話題になっているが?
鈴木:「プレシャス」らしく、200万円相当の「プレシャス」別注アイテムが当たるという、ありえないくらいゴージャスなプレゼント企画が大好評です。おかげさまで10ブランドから協力を得られました。また5月には「グッチ(GUCCI)」の全面協力を得て、前代未聞の空中ファッションショーを銀座で実施しました。“大人のオシャレにこそ、驚きとトキメキが必要!”という「プレシャス」からのメッセージを形にしたかったんです。
WWD:今後の目標は?
鈴木:世界で唯一無二の存在でありたいですね。ラグジュアリー・ブランドをリアルに提案する誌面の完成度の高さには自信がありますし、クライアントからの評価も高い。次なる目標としては、海外展開を考えています。
WWD:具体的には?
鈴木:オンラインで英訳版を配信したいと思っています。超えるべきハードルは幾つもありますが、すでに一部英訳している「メンプレ」は思っていた以上に順調で、手応えを感じています。また、女性誌の多くはファッションとビューティの特集が分かれていますが、オシャレには服の着こなしだけではなくて、それに似合うヘアと肌とネイルも必要。ファッションとビューティの立体的な特集をもっと組みたいと思っています。例えば、トレンチコートを素敵に着こなすための“トレンチ・ヘア&メーク”みたいなことをやってみたいですね。
我が編集部の自慢は?
編集部が少数精鋭(自画自賛)!
「プレシャス」編集部が、私を含め6人、「メンズプレシャス」が同2人(!)と少数精鋭(自称)の「プレシャス」「メンズプレシャス」編集部。誰か一人でも風邪を引いたら死活問題(笑)なので、気をつけています。