ヘアサロン「レコ(LECO)」の内田聡一郎代表がカルチャー系ウェブサイト「BUNCA(ブンカ)」で書いたコラム「美容師はブラック労働か」が、賛否両論を呼んで話題となっている。「美容師の仕事は“超絶ブラック”」「嫌々美容師するならすぐ辞めた方がいい」と語る内田代表に、美容師という職業についての思いを聞いた。
WWD:コラム「美容師はブラック労働か」を書こうと思ったきっかけは?
内田聡一郎(以下、内田):ウェブサイトBUNCAの人から何かコラムを書いてほしいという依頼があって、タイミング的には新卒採用の時期で、美容師として何を大事にするべきか、一度自分の頭を整理する意味でもこのテーマで書いてみようと思ったのがきっかけです。
WWD:あらためて聞くが、美容師はブラックな職業か?
内田:コラムにも書きましたが、“超絶ブラック”だと思います。特にアシスタント時代はいそがしいわりに給料が安い。朝から夜まで営業して、その前後の時間でウイッグやモデルを使って練習します。サロンによっては休日にセミナー、ヘアショー、撮影などもあります。ヘアサロン業界でも働き方改革が言われるようになって、そうした長時間労働も見直されてきていますが、まだまだ他の業界から見たらブラックな職業だと思います。だから離職率も高いわけで。これから美容師になりたいと思っている人には、大変な職業だよっていうのは伝えたいし、覚悟が必要だと思います。
例えば、「レコ」で働くアシスタントはサロンワーク以外にも撮影やセミナーなどやることがたくさんあって大変ですが、他のサロンでは経験できないことも多く経験できています。「レコ」で働くことで注目される部分もありますし。そこに価値を見出せるかどうかだと思います。自分でお店を経営するようになって、スタッフのモチベーション、熱量がすごく大事だなと実感しています。まだ1店舖なのでそこで効率や働き方を整えるというよりは、スタッフ全員がいいヘアスタイルを作ること、いい美容師になることに熱量を注ぐ方が重要だなと思っています。正直、外から見れば“ブラック”と思われるでしょうね。
WWD:コラムの中で“ライフワーク”と“ライスワーク”という言葉が興味深かった。美容師の仕事は“ライフワーク”であるべきだと考える理由は?
内田:いわゆる食べていくためにする仕事が“ライスワーク”だとすると、美容師は稼ぐためにはかなり努力が必要で、本当に美容師の仕事が好きじゃないと続けていけない。だから“ライフワーク”であるべきなんです。個人的には美容師も美容室も多すぎると思うし、もっと少なくてもいいと思っていて、極論を言うと楽しくなくて文句を言いながら嫌々美容師やっている人は今すぐにでも辞めた方がいい。そこで一度離れてみて、やっぱり美容師やりたくなったら戻ってくるのもありだと思います。実際、僕も一度美容師を辞めて復帰した人間なので、辞めることが必ずしもマイナスとは限らない。
WWD:美容師という職業は技術職でありながら接客業でもある。ある意味で求められるスキルが多い。
内田:そうですね。しかも技術がうまい=売り上げが伸びるというわけではないですし、10~20年やっても稼げない人もいます。だから厳しい業界といえば厳しいですよね。ある種、実力主義の世界ともいえる。ただ、美容師は仕事を通して自分のやりたいことを実現できるのも魅力の一つだと思います。自分の好きなヘアデザインを発信して認めてもらうといったクリエイターな一面もある。それは業界誌やSNSで作品を発表するだけではなく、サロンワークでも同じ。自分が作ったヘアがお客さまに喜んでもらえるとうれしいし、美容師をやっていると毎日それを実感できるんです。
WWD:でも売り上げも伸ばさないといけない。
内田:もちろん。ある意味、美容師はがんばればすごく稼げる可能性がある職業。もちろんそのためにはやるべくこともたくさんあって、自分自身の価値を高めていかないといけない。本当に好きじゃないとやっていけないですよね。でも売れている美容師ってやっぱりみんな努力していますよ。僕はクリエイティブ寄りの美容師ですが、集客もすごく考えています。クリエイティブでも集客できる――そこを目指しています。でも、集客って戦略っぽく語られることが多いですが、目の前のお客さまに満足してもらってファンを増やしていくことが一番大切だと思いますね。