ファッション

読者からの深い信頼をベースにブランディング 嶋野智紀/小学館 女性インサイト研究所 所長

 「キャンキャン」「姉キャン」などさまざまな女性誌を通し、女性の消費やライフスタイルを提案してきた小学館は昨年5月、小学館 女性インサイト研究所を設立し、これまでのノウハウを生かした新しいビジネスモデルの構築に着手した。研究所が起点になることで、それぞれの媒体の垣根を超え、編集者やスタイリストがライフスタイルのプロデューサーとして、クライアントの商品開発やブランディングに直接関わり始めている。

WWDジャパン(以下、WWD):小学館 女性インサイト研究所とは?

嶋野智紀・小学館 女性インサイト研究所長(以下、嶋野):所長の私のほかに、「キャンキャン」「姉キャン」など小学館の雑誌9誌の編集長が主任研究員になり、それぞれの編集部の編集者などが所属しています。

WWD:出版社を取り巻く環境が厳しさを増す中、研究所の役割とは?

嶋野:出版社としては紙の雑誌の部数を伸ばし、広告を増やすことに全力を傾けることが大前提です。ただ、私たち編集者が“紙”という器の中で作ってきた“中身”を、どう世の中に届けるのかを考えるのも重要だと思います。女性ファッション誌は、魅力的なモデルの写真や素敵なファッションなど、女性が幸せになるための何かを作ってきました。雑誌の部数が落ちているからといって、それさえも必要とされていないわけじゃない。研究所の役割の一つは、新たな器、新たなチャネル作りをやっていくことです。

WWD:雑誌を取り巻く環境をどう見る?

嶋野:一般論を言えば、正直厳しいですよ。日用品などに比べると、ファッション分野の広告は堅調ですが、日本の8~9割の女の子が何らかの雑誌を購読しているという時代ではなくなってきました。しかし逆を言えば、今も雑誌を買ってくれる人は本当に熱心なファン。雑誌との結びつきは深くなっています。

WWD:昨年9月から9誌で一斉にスタートした電子版への反応は?

嶋野:販売数は当初の目標を大きく超える一方、紙版への影響もありません。2年目以降は各誌なりの最適化を考え、あえてバラつきの出る進化のさせ方を考えていきたいですね。具体的な方向性は、これから各権利者と相談しながら決めていきます。

WWD:改めて雑誌の強みとは?

嶋野:編集部と読者の関係は、精神医学用語で言うところの“ラポール(信頼)が築けている”状態。精神科医は患者から話を聞き出すために、信頼関係を築くことが非常に大事ですが、雑誌と読者の場合は、その関係がすでにできあがっているようなもの。これは雑誌の大きな強みの一つだと思います。

WWD:その強みを生かした、新ビジネスモデルとは?

嶋野:研究所で取り組んでいるのは、商品開発と販売促進、そしてこの2つを融合したブランディングという3つ。この3つをごちゃまぜにしながら、企業と取り組んでいます。

WWD:“ごちゃまぜ”というと?

嶋野:以前の雑誌のビジネスモデルは、ある商品を売るために純広告を掲載したり、タイアップで誌面を作ったり、というのが主流でしたが、今は「誌面を作らなくてもいいから、会社のイメージを上げてほしい」みたいな要望も多い。

WWD:具体的には?

嶋野:あるクライアントからは、「40代には圧倒的なブランド力があるけど、30代に弱い。だから30代に対するブランド認知度を上げてほしい」というリクエストがあった。リサーチやイベントの企画・立案など、誌面タイアップなしでも女性誌のノウハウを生かした新たな取り組みを多面的に提案・実施できるところが研究所の革新的な点です。リサーチに関しても、ラポールを使って本音に迫る方法があり、深く女性のインサイトを聞き出すことによって、調査機関が実施する10万人の調査よりも特定のニーズや商品開発について、貴重なアイデアやヒントを聞き出せる可能性があります。

WWD:楽天と「楽天グッドアイテムアワード」をスタートした。

嶋野:きっかけは2年前、私が「キャンキャン」編集長時代に、楽天の三木谷浩史・社長と食事をした際に「キャンキャン」と楽天である取り組みを提案したところ、ぜひやろうという話になりました。結果的にその仕組みは実現しませんでしたが、その当時から、お互いにウィン・ウィンの関係を築けると思っていましたので、女性インサイト研究所が中心になることで、よりスケールアップした形で実行できると思っていました。必要なものが何でも揃う「ニーズ」の王様・楽天と、今はこれを買うべき!と「ウォンツ」を訴求できるファッション誌、この2者がコラボレートすることで、新たな価値が創造できます。

WWD:手応えは?

嶋野:膨大なアイテムの中から、私たちが選ぶということで商品に新たな価値を付与できたと感じています。店舗からの審査基準についての問い合わせが審査の前にも後にも多く、私たちが思っていた以上にエントリーしてきたショップのモチベーションが高かった。今後私たちの課題であるECにつながる流れもできました。

WWD:今後の研究所の役割とは?

嶋野:研究所の大きな役割の一つが、雑誌の読者でない層にどうリーチするか。そのために、9誌のニュースと独自記事を織り交ぜたウェブ 媒体「ウーマンインサイト」を昨年9月に立ちあげました。主にネットから情報を得ている層を取り込むことに成功し、 アクセスはハイペースで拡大しています。“消費しない”といわれる若い層の掘り起こしにつなげたいです。

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