時には、寄り道先で思わぬ素敵な拾い物をすることがある。乗り間違えた電車で、美しい景色に出くわすこともある。無駄に見える人生の余白を持つことこそ、本質的に心を満たす一つの方法になる——「トーガ(TOGA)」2020年春夏コレクションのショーを見た筆者はそう思った。
同ブランドは今シーズンもロンドン・ファッション・ウイークに参加し、ショー会場には王立英国建築家協会を選んだ。コレクションノートには、“包む(wrapping)”“再開発(redevelopment)”“能率(efficiency)”の3語がテーマとして並んでいた。「生産性最優先の現代において、生産性を優先しないという空気感をどのように作れるのかを考えた」というデザイナーの古田泰子の言葉で、コレクションの背景についての説明が始まる。今季はメキシコシティーを拠点に活動するベルギー出身のアーティスト、フランシス・アリス(Francis Alys)の作品から着想を得たという。数ある彼の作品の中で例に挙げたのは、1997年に発表された「実践のパラドックス1(ときには何にもならないこともする)」だ。これは彼が朝から晩までメキシコシティー内で巨大な氷の塊を完全に溶け切るまで押し続けた様子を撮影した映像作品だ。
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「生産過程において“不必要”なことにもっと多くの時間を費やし、そこから何が生まれるのかを見たかった」と古田デザイナーは説明する。ドレスには伸縮性のあるスポーツティーな素材を付け加え、フロントが大きく切り開かれたテーラードジャケットやパンツにはスカーフを当て、ビーチサンダルにはPVC素材のエレメントが加えられた。体を覆ったり、バッグに使用されたパラコードメッシュは魚を釣る網のようだったり、ビニール素材の花のコサージュやねじ曲げられた金属のピンなどルックを彩った装飾品は、海洋ゴミからヒントを得たのではないかと想像させた。スーツや白シャツ、トレンチコートなどのクラシックな服は、古田デザイナーの“不必要”から発展させたアイデアによって自由を手に入れ、活気づいていた。まるで“無駄”の中に価値を見出す楽しみを訴えかけてくるようだった。
必ずしも理にかなっているわけではないし、着用することで生産性が上がるような機能的な衣服ではないかもしれないが、“不必要”を楽しむのがファッションの醍醐味でもある。「結局のところ、ファッションを作ること自体が不必要なこと。でも、それこそが大切な道楽」と古田デザイナーは締めくくった。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける