ファッション

日本直営1号店「バレンシアガ」青山への思い アレキサンダー・ワンとジョセフ・ディランのスペシャル対談

 今春、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の日本直営1号店が東京・南青山にオープンした。シンプルかつラグジュアリーな中に実験的な要素を含む店は、アレキサンダー・ワンによる「バレンシアガ」そのもの。来日したワンと、同店を手がけた建築家ジョセフ・ディランに新コンセプトを聞いた。

WWD:店の細部チェックしている表情がとても嬉しそう。出来栄えには満足している?

アレキサンダー・ワン(以下、ワン):もちろん。ジョセフ・ディランとの仕事は、2012年に北京にオープンした「アレキサンダー・ワン」の直営店が最初で、これが2回目のコラボレーション。互いに尊敬し信頼していたから、この重要なショップをお願いした。ここはまるで僕の東京の家みたいに落ち着くよ。

ジョセフ・ディラン(以下、ディラン):アレックス(アレキサンダー・ワンの呼称)が「バレンシアガ」のクリエイティブ・ディレクターに就任し、再び一緒に仕事ができてハッピーだ。北京の店も素晴らしかったが、「バレンシアガ」という新しい環境の中で、ここにしかない新しい表現ができたと思っている。

WWD:ディランに仕事を依頼した理由は?

ワン:これまでもいろいろな人とコラボレーションし、それぞれエキサイティングだったけど、ジョセフのこれまでの仕事や作品、コンセプトを見てインスピレーションをもらったので、「バレンシアガ」でもお願いした。この店は、日本で初めての旗艦店だから、僕にとってもメゾンにとっても非常に重要なプロジェクトだった。

ディラン:アレックスは“店”に対するヴィジョンが明確で、店の中でメゾンの世界観をどう表現するか、はっきりしたコンセプトを持っている。5分、10分言葉を交わすだけで、使いたい素材やシェイプが見えるからコンセプト作りはスムーズだったよ。

WWD:青山店のポイントは?

ワン:大切にしたのは、ピュアであること、グラフィカルであること。過剰なデザインは避けて、シンプルだけど魅力的でエキサイティングなものを、と考えた。それに東京というロケーションやショップの周囲の環境をどう解釈するかは重要。「バレンシアガ」が培ってきた伝統や歴史に加え、東京ならではの新しい表現、つまり日本における「バレンシアガ」のイメージを再現したかった。床に日本の庭園を模したようなブロッキングを用いたのもそのためだ。

ディラン:庭園をイメージした柄は、ベージュのライムストーンとテラゾで描いた。ショップのコンセプトは“シンプル&ラディカル”。そぎ落とした中に革新的な要素を入れている。僕らは2人とも“コントラスト”が好きなんだ。だからなめらかな大理石と、ラフな質感のテラゾを組み合わせている。スムースとラフという対照的な2つの要素を対比させることで強さが生まれる。

WWD:たくさん使った大理石は「バレンシアガ」のイメージから?

ワン:大理石に見る“古典的な緑”は、「バレンシアガ」の古い写真からヒントをもらったんだ。それは、白いサテンのドレスを着てベルベットのスカーフをまとった女性の写真で、彼女の背景に写っていた濃い緑の大理石が印象的だった。ちょうどその時、僕の頭に浮かんでいたグリーンと同じトーンだったので、ニューヨークのショップに続き、東京のショップにも取り入れた。

ディラン:緑の大理石は色が濃く、鮮やかな印象の柄が出ているところを選びとって効果的に配置している。テラゾの中に含まれている小石は、さまざまな石種を選定し、検討を繰り返すことで不純物が少ない白色の石を使った。

WWD:素材を大切にするのは、「バレンシアガ」の服作りに対する考えと同じだ。

ワン:そう。それに、ジョセフは素材使いのマジシャン(笑)。僕のために実験的な素材やオーダーメードの素材を探してくれた。普遍性や永続性を感じさせる一元的なコンセプトや、黒と白を基調としたモノベーシックなデザイン、そこに新しく実験的なものを加えていく考え方も服と同じだ。

WWD:この店で表現した“バレンシアガ”らしさと、“アレキサンダー・ワン”らしさとは?

ディラン:クリエイターであるアレックス自身の部分とメゾンとしての「バレンシアガ」の部分の両方を空間の中に取り入れることは重要だった。その作業はまるでリズムをとるような、料理をするような感覚。服をハンギングした時にどう見えるかなど、服と建築の関係の中でバランスをとっている。言葉にするなら、“ニュー・ミニマリズム”。ピュアでシャープで同時にラグジュアリーでセクシー。人々がブティックを訪れるのは、商品を買うためだけじゃない。商品と建築が織りなす物語を求めてやってくる訳だから、店に入って出るまでのすべてにクリエイティブな体験を提供したい。

WWD:2人にとって“東京らしさ”とは?

ディラン:この店は東京そのもの。東京の街には、伝統的なものとクリエイティブなもの、そして革新的なものが混在している。道を歩いていると、木造建築の隣にコンクリートのビルが並んでいて驚かされる。突然、窓がない建物が登場したりね。僕にはそれが“フリーマインド”と映る。建築に限らず、日本の食やそのほかのクリエイティビティも同じ。紙を使った造作物など繊細で壊れやすく儚げなものや“さわり心地のよさ”を重んじる感性にも驚かされる。

ワン:東京は自由で、礼儀正しくエネルギッシュな街。レストランでも地下鉄でもそれを痛感する。ニューヨークもエネルギッシュだけど、東京よりタフだよ。

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