経営難のJ.クルー グループ(J. CREW GROUP)が擁する「J.クルー」の姉妹ブランド「メイドウェル(MADEWELL)」は9月13日、米証券取引委員会に有価証券発行届出書を提出した。同ブランドは上場を含む新戦略を検討中と4月に報道されており、それが現実味を帯びてきた格好だ。しかし、その評価額があまりに割高なため、同社が「メイドウェル」の上場ではなく売却を狙っているのではないかとの憶測を呼んでいる。なお、公募・売り出し株数や価格は未定。
同社は「メイドウェル」の新規上場によって9億7000万ドル(約1047億円)の調達を目指しており、これは同ブランドの株主資本の40%程度に当たるという。つまり、その企業価値を24億5000万ドル(約2646億円)、もしくは同ブランドの2018年度のEBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)1億1100万ドル(約119億円)に対して20倍以上と見積もっていることになる。
同届出書によれば、J.クルー グループは「メイドウェル」の上場に関する目論見書を債権者などに提示したが、特に進展はなかったという。ある債権者は、同ブランドの企業価値は17億~19億ドル(約1836億~2052億円)程度であり、評価額が高すぎるとコメントした。事情を知る市場関係者も、「現在の小売り環境を考えると明らかに過大評価であり、EBITDAの10~15倍が適正だろう」とこれに同意した。
「J.クルー」はトレンドとの乖離や比較的高価格帯であることから、ここ数年は業績悪化に苦しんでおり、19年2月期決算の売上高は前期比3.7%減の17億7954万ドル(約1921億円)だった。一方、デニムを中心とした手頃な価格帯の「メイドウェル」は消費者の受けもよく、既存店ベースで約10年間にわたって売り上げを伸ばしており、19年2月期決算の売上高は同26.0%増の5億2914万ドル(約571億円)だった。このため、グループ全体の売上高は同4.6%増の24億8399万ドル(約2682億円)とやや増収になっている。なお、J.クルー グループはおよそ17億ドル(約1836億円)の債務を抱えており、上場で調達した資金をこの返済に充てたい考えだ。
「メイドウェル」は“小売りの神様”と呼ばれたミラード・“ミッキー”・ドレクスラー(Millard “Mickey” Drexler)J.クルー グループ元会長兼最高経営責任者(CEO)が設立。現在は同氏の薫陶を受けたリビー・ウェイドル(Libby Wadle)社長兼CEOが成功裏に率いており、分離上場した際にも続投すると見られている。その場合、「メイドウェル」は「J.クルー」に足を引っ張られることなく業績を伸ばしていけるという見方もあるが、グループ内の資産や規模のメリットを享受できなくなるというマイナス点もある。また、「J.クルー」と完全に競合するようになることも視野に入れておくべきだろう。