OEM(相手先ブランド生産)で1年間に取り扱う衣料はなんと1億枚と、数量では業界ナンバーワンを走ってきた豊島だが、いま取り組んでいるのが、オーガニックコットンや美術館のアーカイブスを活用したデザインテキスタイルなど、同社にしかできない価値を加えた新たな服作りの仕組みだ。膨大な量を扱う一方で機動力が持ち味だった同社は、付加価値面でもさまざまな取り組みを行っている。
WWDジャパン(以下、WWD):2014年6月期の業績見通しは?
豊島半七・社長(以下、豊島):売上高と営業利益はともに増収増益の見通し。為替が落ち着いたことで売り上げも利益も回復傾向にある。
WWD:13年はチャイナプラスワンや円安など、主力のOEM事業にとって変化の大きい1年だったと思われるが、その影響は?
豊島:メディアからは繊維商社にとってOEM事業は過渡期で“脱OEM”なんて言葉も聞くが、“脱OEM”という言葉には、かなり違和感がある。そんなこと言っているのはメディアだけではないでしょうか?確かに円安や海外での生産コストの上昇などビジネスを取り巻く環境は厳しくなっているが、商売のやり方が少しずつ変わっているだけ。我々にとって重要なのは、当社の思想や姿勢をどれだけ取引先に理解していただけるかどうかだ。
WWD:姿勢というと?
豊島:例えば、当社のオーガニックコットンブランド「オーガビッツ」。原料である綿花自体は、通常の綿花の約3倍と価格は高いが、同じような有機栽培の食品とは違い、体に直接のメリットがない。そのため我々は価格を低く抑え、商品化のチャンスを拡げることで、オーガニックコットンを認知し、共感していただけるお客さまを少しずつ開拓する方法を選んだ。並行して、内外のNGOと連携して農家や海外の生産者を支援する30〜40のプロジェクトを実施するなど、地道な活動も同時に行ってきた。地球全体の農薬の使用量を減らすことで地球と生産者の負担を軽減するというオーガニックコットンの本質的な価値にご共感いただけないと、なかなかブランド側との取り組みにつながらないからだ。
豊島:もともと当社は日本最大の綿花トレーダーとして、オーガニックコットンでは重視されるトレーサビリティに絶対の自信があった。ボリュームを扱うからこそ、現場に非常に強い責任感と志があった。現在はアパレル製品だけでなく、“オーガニック”という切り口でグッズやアクセサリー、さらには食品とのコラボレーションにまで拡げている。こうした活動に共感いただけるブランドを探しながら、一緒にモノ作り、店作りをお手伝いしている。とはいえ、そろそろビジネス的にもステップアップする段階。オーガニックコットンの性質を考えれば、「オーガビッツ」にとってもっとも重要なのは継続すること。そのためにはビジネス的にも採算を追求することは必要だ。
WWD:他に付加価値を高める取り組みには、どんなものがある?
豊島:LA発の人気カットソーブランド「チェイサー」など、米国法人を軸としたLAカジュアルアイテムの強化がある。「オーガビッツ」とは全く違った見え方だが、綿花の買い付けのため米国に現地法人があったことがきっかけになっている。繊維の専門商社で西海岸に駐在員事務所現地法人を持っているのは我々くらいだろう。数年前からLAを中心にOEMを行っていたが、西海岸トレンドもあり、好調に推移している。また、昨年からはフランスのミュルーズ染織美術館のアーカイブスを活用した、テキスタイルコレクションもスタートしている。ミュルーズ染織美術館は世界中の大変貴重な600万点のコレクションを有しており、デザインソースとして海外ブランドも多く活用している。
WWD:昨年7月には、新たに営業企画室を設立したが、その狙いとは?
豊島:これまで生産面では課や部を超えて海外の工場の集約や共有は進んでいたが、今後は企画面でも会社のリソースを全社で活用する必要があった。本来であれば「オーガビッツ」も「チェイサー」も、全社でまだまだ活用できる。営業企画室は当社のさまざまなリソースを活用し、OEM事業の付加価値を高めるためのものだ。
WWD:その背景とは?
豊島:大きなショッピングモールが全国で次々と立ち上がり、売り場面積が拡大する中で、坪効率は落ちるし、ブランド自体がより明確な差別化を必要としている。大きく変わったのは価格だけが付加価値ではなくなったこと。一言で付加価値といっても、トレンドやブランドのテイストもあれば、「オーガビッツ」のように仕組みのようなものもある。そのため、私もこれからは曖昧ではなく、明確で具体的な指示をきちんと出していかねばならないと感じている。
WWD:この1・2年の大きな変化とは?
豊島:すべての取引先が、お客さまであり、コンペティターになった。時代の変化に伴い、テキスタイルメーカーからアパレル、SPA・専門店チェーンへと取引先が変わってきたが、今は小売業も自社で製品を調達する時代。だからこそ、我々も常に進化する必要があると感じている。