1662年創業のモリリンは、「ダブルジェーケー(wjk)」「アンリアレイジ(ANREALAGE)」との提携や業界随一のSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)による工場から店頭までの直流システムの構築、セルロース原綿をベースにしたファッション素材の開発など、新しいビジネスモデルの構築に力を注いできた。進化する“老舗”が見据えるこれからのファッション産業とは?
WWDジャパン(以下、WWD):多岐にわたる事業のベースになっているのは?
森克彦・会長兼CEO(以下、森):繊維商社である当社の役割は、ファッション産業活性化のお手伝いをすること。当社のルーツは江戸時代に綿(ワタ)や綿糸を扱っていた糸商。その後でき上がった生地を買い取り、全国に販売する生地商になった。糸やワタの商売は利幅が非常に小さい一方で、撚糸など一手間かけることで付加価値を上げ、差別化できる。生産するアイテムがアパレルに拡大し、生産地も日本だけでなく中国やさらにはASEANへグローバルに広がったが、ルーツである細かい作業をいとわない社風は今でも生きている。
WWD:具体的にはどんなところに?
森:アパレル卸では、当社の中国の物流倉庫から卸先の店舗に直接配送する“直流”方式を確立しているが、コストを削減するためにはコンテナに空きスペースなく服を積み込まなければならない。服は単価が低いため、一つのミスが3回分のコンテナ輸送の利益を吹っ飛ばす。こうした緻密で手間のかかる作業は、総合商社には真似のできないことだろう。
森:当社は1996年にレンチング社との間で、「テンセル」原綿の独占輸入販売契約を締結したが、もともとセルロース系の素材は扱いが難しく、紡績から撚糸、編み・織り染色・加工まで技術者がフォローする必要があった。「テンセル」を使ったカットソー素材「セルノーブル」は、こうした技術者を活用し、糸の番手、撚り、織りの設計、染色まで当社独自のレシピにより開発。7年以上のロングセラーになった。
WWD:「wjk」「アンリアレイジ」などデザイナーブランドとの業務提携の狙いは?
森:ともに素材の調達窓口になり、仕入れに関わる財務支援を行なっている。ブランドに対する支援のスキームとしては珍しいやり方ではないが、規模の大小にこだわっていないから、珍しく見えるのだろう。ブランドとの提携の狙いは、デザイナーのクリエイションと日本の産地のもの作りを結びつけ、双方を活性化すること。今後グローバルに日本のファッションが発展するためには、この2つの進化は絶対に必要だと思っている。
WWD:今後のファッション業界の課題をどう見る?
森:ファッション業界全体が、ここ数年は特に、“ モノ”の価値の開発よりも仕組みやコストの競争に偏っていたと感じている。もちろん仕組みやコストは重要だ。その一方で当社はセルロース系素材を使った「セルノーブル」「リュクセル」など、ファッション素材開発にも力を入れてきたが、こちらへの顧客の関心は当初思ったほどの反応はなかなか得られなかった。ただ、この1、2年はようやく素材の重要性にも目が向きはじめたと感じている。