大手通信会社に入社後、国内外でITソリューションを提供するビジネスマンが、今週のファッション週刊紙「WWDジャパン」で気になったニュースを要約してお届け。最先端のテクノロジーから企業と、その利用者が必要とするものについて考え続けたITのプロ、CKRが未来的視点からニュースにつぶやきを添えます。
今日のニュース:P.5「アパレルD2C(Direct to Consumer)はITを超える鉱脈になる」
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読み解きポイント:4980円のフルオーダーシャツ。「失敗しないシャツ」を仕組み化し、メンズの未開拓市場に切り込む。
ニュースのポイント
翻訳マシーン「ポケトーク」でお馴染みのソースネクスト社が、2018年3月にSolve(ソルブ)株式会社を設立し、オーダーメイドドレスシャツ市場に参入。現在はソースネクスト社の共同創業者が株式の大半を買い取り、事業を運営。ECシステムも内製化し、中国の縫製工場とも直接連携。8年後の上場を目指す。
CKRはこう読む!
「4999円以下が80.3%」。20~59歳の男性を対象に「仕事で着るワイシャツは、いくらのものを買いますか」と質問調査したときの結果です(インテージ社調べ)。5000円を切るか、切らないかが、市場のボリュームゾーンを獲得する上で、重要なことがわかります。今回は「4980円フルオーダーシャツという商材で、未開拓のボリュームゾーン(=アパレルに無頓着なオジサン市場)」に参入する、IT企業の秀逸なマーケティング戦略について考察したいと思います。
D2Cブランド「ソルブ」の特長は①4980円でフルオーダーメイド(財布に安心、購入に躊躇しない)、②30日間、いかなる理由でもお直し無料(試着時、気に入らなければ必ず作り直せるので安心)、③シワにならない、折りジワもすぐ消える(毎日アイロンいらずで、手間なく安心)の3つで、全ての体験プロセスの中で「失敗、失望させない仕組み」を実現しています。人はうまくいかなかった事柄の方をよく覚えているという「ツァイガルニク効果」による顧客離れを防ごうとしているのかもしれません。
実際シャツを着てもらい、シルエットと素材感でうっとりさせることができれば、顧客一人一人が「徹底的に大事にされたという感動体験」を享受し、「次回も頼んでみよう!」「友達に薦めてみよう!」となる可能性が高いです。自分自身のベストサイズを登録しておけば、次回からの注文はさらに楽になります。ここまでくると店舗よりオンラインの方が便利です。生地は形態安定加工なしも含めると95種類あり、襟、カフス、ポケット、前立て、後身頃も複数のバリエーションから選ぶことができ、品ぞろえも豊富です。あとは迅速なデリバリーを強化することで、IT事業者らしいサービスプラットフォームになることが予想されます。
ソースネクスト社は、Windows95が発売されたとき、パソコンの処理の遅さに不満を抱えるユーザー向けに、処理時間を短縮化する安価なパソコンソフト「超速」「驚速」の販売で大きく成長しました。当時、パソコンの処理能力を上げるため、ハードウェアメモリを増設する費用は安くありませんでした。
オーダーシャツは、フルオーダーすると7000円以上するのが現状です(「ユニクロ(UNIQLO)」は、セミオーダーで2990円)。現在のフルオーダー市場は当時、高価なパソコンメモリの増設にためらい、不満を抱えるユーザーが多かった状況と酷似しているのかもしれません。5000円未満でフルオーダー、品揃えも豊富、ビジネスシーンで好印象を与え、取り扱いが楽なシャツと打ち出すことで、メンズの大きな潜在需要を開拓できるか?今後のソルブの動向が楽しみです。
CKR Kondo : 大手通信会社に入社後、暗号技術/ICカードを活用した認証決済システムの開発に従事。その後、欧州/中東外資系企業向けITソリューションの提供、シンガポール外資系企業での事業開発を経験。企業とその先の利用者が必要とするもの、快適になるものを見極める経験を積み、ウェアラブルデバイスやFree WiFiを活用したサービスインキュベーションを推進。現在は、米国、欧州、アジア太平洋地域にまたがる、新たなサイバーセキュリティサービスの開発を推進中