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映画「タロウのバカ」で話題のYOSHIが俳優になったワケ 大森立嗣監督と3人で座談会

 インフルエンサーのYOSHI(ヨシ)が、上映中の映画「タロウのバカ」の主演に抜てきされたのは、実は「WWDジャパン」の記事がきっかけだったというのは、ごく限られた関係者のみ知っている話だ。菅田将暉、仲野太賀ら人気俳優と共演し、今では「スッキリ」や「ニュース・エブリィ」が特集を組むなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのYOSHIだが、実は芸能事務所に所属したのは、つい最近のこと。窓口がなかったから、その記事を見てさまざまなメディアから何度も僕にYOSHIの取材依頼が来ていて、その都度YOSHIにつなぐというのがいつもの流れだった。YOSHIがメディアで紹介される際には、必ずといっていいほどヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の名前が挙がるが(「オフ-ホワイト」の南青山の旗艦店オープンの際にYOSHIがヴァージルと一緒に写真を撮って話題になったため)、「WWDジャパン」の名前が挙がったことはない。僕からは言っていないのだから当然のことなのだが、大森立嗣(たつし)監督がどうやらほかの取材でわれわれのことを話してくれているということを聞いた。だったら、そんな大森監督も交えて話が聞きたい。YOSHI×大森立嗣×僕(「WWDジャパン」記者)で座談会を開いた。

小池裕貴WWDジャパン記者(以下、小池):僕が以前書いたYOSHI君の記事を監督が見てくださったとか。それで監督のチームの方から僕に連絡が来たんですね。

YOSHI:ほんと随分前のだよ。トランプルーム(7月に閉店)の松村社長が俺の誕生日会をやってくれたんだけど、その時に小池君が来て。

小池:それより前に「ドロップトーキョー」のスナップ(ヴァージルより先!)でYOSHI君を見て、オシャレな中学生がいるなとインスタグラムでフォローしていたんですよ。そしたらYOSHI君の手書きで「誕生日会をやるからみんな来てね」って写真が突然フィードに流れてきて。それで「行っていいですか?」みたいなメッセージを送ったんです。

YOSHI:覚えてる!どうぞどうぞ、みたいな。15人ぐらいしか来なかったんだけどね(笑)。

小池:監督が読んでくださったのはそのときのインタビューなんですが、まず、あの記事を見てどう思ったのか気になりまして。

大森立嗣監督(以下、大森):普段、俺が会っている子役はどこかこう、ちゃんとしているというか、大人になっちゃっているというか……。とにかくYOSHIは、写真とか言っていることとか、誰にも操られていない感じがしたんですよね。好き勝手に服を着ているところとかも。それで、映画の主人公として興味を持ったのが最初です。(プロスノーボーダーの)平野歩君の生意気な面構えみたいなのが、役にぴったりだなと思っていたんですけど、彼が演技できるわけではないし、なかなかそういう子がいなかったんですよ。自分の存在を示そうとしている感じがいいなと思い、とにかく会いたいと。

小池:写真も僕がiPhoneで撮ったものですね。当時は(YOSHI君が使っていた)スマホもお母さんのだったので、何か依頼があったらお母さんを経由して連絡を取っていました。で、この映画の話をした時も演技のことで心配をされていて。とりあえず、監督が会いたいとおっしゃっているんで、会ってみたらどうですか?と。オーディションってどうだったんですか?

大森:いや、オーディションっていうか、最初は会って会話しただけなんですよ。

YOSHI:そう。ほんと「What's up?」みたいな。俺は監督が誰かすら分からなかったし(笑)。

大森:挨拶して、おしゃべりしただけなんです。実はタロウの役の公募を大きくかけていたので、それがまだ残っていたりして、自分の中ではほぼYOSHIに決まっていると思っていても、決めるに決められない状況がありました。

YOSHI:2回呼ばれて、そこから2週間ぐらいで決まったんだよ。で、俺は遅刻癖がひどすぎて怒られて怒られて……(汗)。

小池:ロケ中は下宿していましたよね?

大森:そうですね。ロケ中はYOSHIにスタッフと一緒に劇中のタロウの家に住んでもらいました。そこでセリフを覚えたりもしてもらった。

小池:監督はいつも、普段の生活から役作りをさせるんですか?

大森:いえ、初めてです。ただ、YOSHIが寝坊して来なかったら一日終わっちゃうなと思って。俺や(映画に出演した仲野)太賀もたまにそこに泊まったりしていました。

YOSHI:超楽しかったよ。たっちゃん(大森監督)は、いいイビキかいてたよね(笑)。

小池:映画も観せていただきましたが、演技もすごかったですね。叫んでて。演技指導とかは?

大森:クランクインするまでに5~6回練習したかな?会話しながらなんとなく映画の雰囲気をつかんでほしいなと。あとはアクションの動きとか。

小池:暴力シーンもありましたね。

YOSHI:俺これ本当に蹴るのかなって、最初ビビッてた。

大森:そういう、実際は当てないんだよ、ということとかは教えなきゃいけないので。そのためにカメラはココに置いて、ココから撮るよとかは細かく教えていました。そうしないと現場で時間が掛かってしまうので。

YOSHI:すごくテンポよかったよね。

小池:撮影中も何度か製作部の方に現場に来てみませんか?と声を掛けていただいたんですけど、テンポが早過ぎて全然時間が読めないと、結局行けなかったんですよね。

YOSHI:気が付いたら毎日終わっちゃってた。

大森:で、みんなで風呂入ってたもんな。

小池:初演技で緊張しなかった?

YOSHI:緊張はしなかったよ。でも一番「これはできないかな」と思ったのが、泣くシーン。プライベートの自分もそうなんだけど、泣くっていうのは自分にとってすごくカッコ悪いことだから、どうやって泣けばいいんだろうって前日からずっと考えてた。

小池:監督からはどんなアドバイスを?

大森:泣きたくなかったら泣かなくてもいいよって。タロウはYOSHIなんだから任せるよと。ト書きに泣くって書いてあっても、本人がそんな風にならないなら別にいいかなって思っちゃうんですよね。

小池:映画がこれだけ話題になってますけど、新人を使うリスクもあったのでは?

大森:心配性だけど、俳優に関しては決めた時点でなるようになるだろうと割り切ってました。まぁ本音では、そりゃあ最初は心配じゃないですか。ただ、現場に入ったら変わるだろうなと。やりながら変わっていくという感覚はあったんですね。

YOSHI:俺は初日の一発目で決まるなと思ってた。そこで現場の空気をつかめたらいける、つかめなかったらもうダメだと思っていたから。

小池:それで、初日はうまくいったんだ?

YOSHI:もう最高だったよ。「俳優できる!」って思った。バシッと演技して、カットがかかって、これキタ!って。

小池:ヴァージルとか(「アンブッシュ」の)YOONとか、ファッション業界でも早くから注目されていますけど、監督から見てYOSHI君の何が魅力だと思いますか?

大森:型に収まんないところじゃないですか?ファッションはものすごい勢いで流行が変化していくし、映画の方がゆったりしているなと思うんですけど、そういう中でも目に付くっていうのは、すごい飛び抜けた瞬発力を持っているんだと思います。

YOSHI:ファッションでいうと、俺はそろそろ70’sのファッションが来るんじゃないかと思ってるんだよね。今ずっとストリートで90’sでしょ。

小池:古着とかヒッピーとか?

YOSHI:うん。でもそろそろ新しい起点を作りたいんだよ。勢いがないじゃん。全て型にハマっちゃってるっていうか……。同年代の中にも生きる目的を見つけられてない人も多いから。だからそういう意味でも「タロウのバカ」を体感してほしい。ジェットコースターに乗ってるみたいに何も考えず、フィーリングで観てほしい映画だなと思う。

小池:まさに「タロウのバカ」だね。目的がなく空虚感に襲われちゃうみたいな。

YOSHI:日本もバブルのときはすごく勢いがあったっていう話を聞いて、それと比べると今の社会って行き場がなくなっちゃってるっていうか、目的を探しづらいというか……。俺にとっては目的って大事で、目的を持たない人生は終わりだと思っているから、自分が活動することで、そうじゃない世の中をつくりたい。

小池:こういった若者の言葉をどう思いますか?

大森:たぶん、今の話を聞いて、やっぱりマーケティングで作られているモノが多いのかなって気がします。それよりも誰かの強い思いでできているものとか、俺自身、そういうモノに感動したりするんですけど。ビジネスになりすぎているものじゃなくて、誰かのアツい熱のもとにあるモノの方が感動できる。

小池:YOSHI君のインスタグラムを見ていても思うけど、リアルのダダ漏れみたいなのがいいんでしょうね。

YOSH:型にハマりたくないし、常に尖っていたい。ありのままの自分っていうのを今後どれだけ出していけるのかっていうのが大事だと思ってる。表面的じゃなくて、もっと内面的な社会になればいいなと思うんだよね。例えば敬語も使えるけど、タメ語の方が感情が伝わるじゃん。日本語のそういうところが、内面的にリスペクトできないようになっている理由なんじゃないかなって思う。

小池:撮影中を振り返るとどうですか?

大森:もう無茶苦茶。すぐ全裸になるし(笑)。

YOSH:(私有地で)撮影で使ったバイクでツッコんで、危うく人をひくところだった(笑)。

小池:監督は長く芸能界を見てきて、こんなコいました?

大森:あんまりいないかも知れないですね。例えば松田優作さんがすごく破天荒だったとか、そういう伝説はいっぱい聞きますけど。内田裕也さんとか、新幹線に乗るときに(改札で)「内田裕也!」って言って、勝手に入っちゃったりするところとかを見たこともあるんです。俺は、そういう破天荒と言われていた人たちの最後の世代を見てきただけなんですけど、今は映画界というか芸能の世界自体が小粒になってる感じはしています。YOSHIを見ているともっと面白くできるかなと思いますね。うちの親父(俳優の麿赤兒)にもYOSHIに会ってもらったんだけど……。

YOSH:マロちゃんね!

大森:ははは(笑)。まぁそういう親父世代の役者たちがどんどん亡くなって、だんだん小粒になっていったときに、モノ作り(作品)自体がどんどん小粒になっていっていると感じていたんです。それはなぜかというとたぶん、受け入れる側が、例えばYOSHIみたいな人を見つけても、事務所に入っていないからダメだとか、寝坊するし危ないからやめようとか、コンプライアンスをとったらそれで終わっちゃうんですよ。それをむしろ俺たちが受け入れていくことで、俺たち自身が変化していくんだということを考えさせられたんです。

YOSHI:現場の空気感もすごくよかった。

大森:だから現場のスタッフもYOSHI を見て喜んじゃって。

YOSHI:単純に楽しかった。

大森:それが一番ですよね。(菅田)将暉や太賀もそういうところがあるんですよ。

小池:菅田将暉、仲野太賀という人気俳優を脇に添えるというのも監督として攻めた部分ではありませんか?

大森:彼らをYOSHIと会わせるためにみんなを誘って飯に連れて行ったんです。そしたらYOSHI を見た瞬間にみんな「何だコイツー!?」みたいに盛り上がってくれて。

小池:麿さんはなんて?

大森:「いきなりデカい孫ができたな」なんて言って喜んでいましたね。

小池:映画では、ダウン症の方とも一緒に演技するシーンがあったね。

YOSHI:最初はダウン症の人を監督が選ぶのはどういうことなんだろうと思ってたりしたけど、この映画は普段の俺たちが生活をしているだけでは分からないようなことを描いているから、振り返った時になるほどなって分かった。

大森:映画の世界ってすごく縦社会なんですけど、この現場だけすごくフラットだったんです。それはYOSHIもそうだし、将暉や太賀、ダウン症の彼らもそう。YOSHIの存在があるからみんなが並列になれた。俺と将暉、俺と太賀でも違う風になっちゃうんですよ、映画を知ってしまっているから。YOSHIが無茶苦茶だからいいんだよね。

小池:監督にとって、YOSHI君はどんな存在ですか?息子みたいな?

大森:友だちですかね。俺、そういう付き合いしかできないんですよ。(長野の)白馬に親父の公演を一緒に観に行ったんですけど、グッパーして部屋決めしたら俺とYOSHIが同じ部屋になっちゃって。友だちみたいに楽しかった(笑)。

YOSHI:俺はそういうフラットな世の中になればいいなと思うんだよね。

小池:今後はYOSHI君にどうなってほしいですか?

大森:友だちとしては、枠に収まらないでこのまま突き進んでほしいですね。映画監督としては、好きなことを楽しんでもらいたいけど、俳優をやってほしいとか言うとつまんなくなっちゃうかなという思いもあるんで。

YOSHI:もし次出る作品があったら、たっちゃんが全部チェックして(笑)。

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