先日、最終審査会が行われた若手デザイナーの登竜門、第6回「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」。「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦はグランプリこそ逃したものの、ファイナリストとして最終審査会で“光合成”と題した“自然と共生する服”を披露した。2020年春夏のパリ・ファッション・ウイークでも当然それを見せるのかと思いきや、「あれはまた別の機会に見せるんですよ」と、ショー前のバックステージで森永はニヤリ。では一体、今季のパリでは何を見せたのかというと、“アングル”と題したブランドの原点ともいえるクリエイションだ。
15年春夏に発表の場をパリに移して以来、「アンリアレイジ」が追求してきたのは、フラッシュ撮影すると柄が変わるといった、テクノロジーを全面に打ち出したコレクション。しかし、19-20年秋冬は一転し、ブランド立ち上げ間もないころに追求していた、服の形そのものへのアプローチに立ち返った。「昔と同じことをやっている」といった意地の悪い意見もあったが、海外を中心に特にバイヤーからは分かりやすいと高評価。さらに、「LVMH プライズ」ファイナリスト選出効果もあって、「今季のショーや展示会への問い合わせは非常に増えた」と森永は話す。
そんな状況の中で見せる今季のコレクションは、いわばようやくブランドを知るようになった各国のバイヤーやプレスへの名刺代わり。満を持して森永が披露したのは、前シーズンの続編のような原点回帰のコレクションだ。写真に撮られた服(2次元)を、実際に生身の人間が着る(3次元)とどうなるかという試みで、「洋服は画像に変換されて伝えられることが当たり前になった。画像になった洋服には、必ずカメラアングルが付随する。画像化されたデジタルな洋服イメージを、アングルと共にそのまま現実に引っ張りだす」とリリースには説明がある。
カメラアングルが上からなのか、斜めからなのか、下からなのかによって、同じ服でも写真の中では形が異なる。紺のブレザーやオックスフォードシャツ、ジーンズにTシャツといった普遍的なアイテムを3つのアングルから捉え直し、それを人が着ることで、思わぬフォームが生まれる。前シーズンに続き、ショー前にインスタグラムに商品画像を掲載し、2次元から3次元へというコンセプトをより明確化した。
素材によって、きれいにシルエットが出るものとそうではないものがある。例えば、ローアングルから捉えたデニムジャケットは、テントラインを描く背中のラインがチャーミング。一方で、ハイアングルから捉えたセーターなどはずるりと垂れ下がって、コンセプト優先で服としての魅力がおざなりな印象だ。ただ、そんな批判は森永は今まで何百回と聞き続けてきた。それでも、既存の考え方に対し、別の視点からロジカルにアプローチしていくというのがこのブランドのやり方だ。
パリに進出して丸5年が経った。「あくまで、この規模でショーをしているからだけど」と前置きしつつも、「ショーをして、ビジネスを回していくという循環ができている」と森永。「『アンリアレイジ』で自分たちのやりたいことをしっかり見せて、アシックスなどの外部企業やブランドとの協業によって、より幅広い層にリーチしていく形が取れている」とも。そうした協業依頼は「LVMH プライズ」をきっかけにさらに増えているといい、聞けば、次シーズンに向けて大きな協業企画も進行中だ。この波に乗って、ビジネスをどこまで安定拡大できるかに、今後の自由なクリエイションがかかっている。