タキヒヨーが創業260周年を迎えた2011年、10代目社長に就任した滝一夫が中長期的な全社方針として掲げたスローガンが「グローバルチャレンジ~変革と前進」だ。その言葉通り、13年春夏から「アントニオ・ベラルディ(ANTONIO BERARDI)」のセカンドライン「ベラルディ(BERARDI)」の全世界での製造・販売権を獲得し、昨年7月は東南アジア市場拡大を見据えてベトナム・ホーチミンに駐在員事務所を開設した。そして、来年、オリジナルショップを立ち上げ、ニューヨーク進出に挑む。
WWDジャパン(以下、WWD):2013年2月期決算(単体)は売上高727億2600万円(前年比106.3%)、営業利益17億2200万円(同73.8 %) の増収減益だった。その評価は?
滝一夫・社長(以下、滝):商品の大半の製造を海外に委託している当社にとって、為替要因、原料高、中国における人件費の高騰など原価上昇の影響で厳しい1年だった。当初から円安傾向は予測していたが、コスト削減には限界がある。原価上昇を補完するため売り上げ向上に努め、増収となったものの、利益率の低下をカバーするまでにはいたらなかった。
WWD:売り上げ増は、大手専門店、通販との取引拡大が貢献している。最大の取引先であるしまむらとの取引額は210億9500万円(同116.5%)、同3位のベルーナとの取引額は35億400万円(同126.7%)と続伸した。その要因は?
滝:トレンドとなったグラフィック柄のボトムスを中心にカットソー、ニットなど主力のウィメンズアパレル(売り上げ構成比率57.1%)の商品がよく売れたこと。当社企画の商品は年々品質を高め、バラエティ豊か。数多くの商品の中で、ヒットアイテムが増えたことにつきる。
WWD:新ブランド「ベラルディ」導入によるリテール事業強化の成果は?
滝:「ベラルディ」は導入して1年が経過し、「アンクライン・ニューヨーク(AKNY)」からのコンバージョン(ブランド転換)はうまく推移した。「ベラルディ」の強みであるドレス、ワンピース類が売れ、客単価、セット買い上げ率はアップしている。しかし、「AKNY」のビジネスと比較すると、売り上げ、体制ともに十分ではない。現段階のマイナス幅は想定内だが、今の売り場のロケーションは以前の「AKNY」のままなので、顧客層が異なる「ベラルディ」にとって適切な売り場へ移動し、売り上げを改善する必要がある。店舗数は、現在の30店舗からそれほど増やす予定はない。今年2月、ファーストラインの「アントニオ・ベラルディ」も導入し、ブランド認知度の向上に努めている。ビジネスを軌道に乗せるための売り場の整備、新規顧客の開拓にはまだ時間がかかる。今後、アイコン的アイテムであるドレスとジャケットなど重衣料を中心に他ブランドにない特徴をアピールし、どれだけのファンを獲得できるかが勝負になる。
滝:現在、生産は90%以上が中国だが、ベトナムを起点に東南アジア全域をリサーチし、新しい生産拠点を拡大したい。他人任せではなく、自社の足で開拓する現場主義がタキヒヨー流だ。そして、5年後に全生産量の30%を東南アジア、70%を中国にするのが理想だ。また、今年3月、国際営業部を立ち上げ、これまで主力としてきたテキスタイルだけでなく、アパレル商品、服飾雑貨も拡大し、欧米との輸出入業務を強化して良い結果を上げている。
WWD:次に目指す「グローバルチャレンジ」は?
滝:3月、私の直轄で新規事業開発室を開設した。海外発の小売りをスタートするのが目的だ。オリジナルブランドを立ち上げ、直営路面店オープンを目指す。場所はニューヨーク。かつてニューヨークでは、現地法人タキヒヨーインクで、アンクライン社の買収(1975年)、ダナキャラン・ニューヨークの設立に出資(85年)するなど、ビジネスの経験、人脈は豊富にある。まず競争が激しいニューヨークで勝ち残ることができれば、世界で通用できると思う。現在、全体のコンテンツは検討中だが、コンセプトのイメージはカジュアルアップ。早ければ来年オープンを実現したい。その後、グローバルに広げ、将来的に日本にも導入したい。これまでに経験したことがない新しい挑戦だ。当社の将来の成長にもつながる重要な事業になる。
WWD:地元では、数ヵ所に分散していた工場を愛知県一宮市の新工場に集約、増強して生産力を強化。賃貸事業では、栄3丁目に所有する約3135平方メートルの敷地をパルコに賃貸することが決定し、今秋、商業施設「名古屋ZERO GATE(ゼロゲート)」(3フロア)がオープンする予定だ。テキスタイル、アパレル、ライフスタイル全般にわたる幅広い分野での積極的な事業展開、組織強化が売り上げに大きく寄与しそうだ。
滝:15年2月期決算(単体)の業績予想の売上高750億円は、間違いなく達成できるだろう。そして、売上高1000億円、そのうち海外市場で300億円という将来的目標に一歩ずつまい進していきたい。