ファッション

韓国生まれの「レジーナ ピョウ」は等身大の視点で女性の支持を集める リアルとアートを行き来する2020年春夏コレクション

 コンセプチュアルな作品を生み出すデザイナーが多いロンドンで、「レジーナ ピョウ(REJINA PYO)」は現代女性に寄り添ったリアルクローズを打ち出す女性デザイナーとして独自の立ち位置を築き始めている。デザイナーのレジーナ・ピョウ(Rejina Pyo)は、韓国・ソウル出身。セント・マーチン美術大学MA(CENTRAL SAINT MARTINS)の卒業作品が高評価を得て、「ロクサンダ(ROKSANDA)」のロクサンダ・イリンチック(Roksanda Ilincic)のアシスタントなどでキャリアを積んだ後、2014年に自身のブランドをスタートさせた。色気と力強さを併せ持つ着心地のよさを追求した衣服は、働く女性であり妻であり、母でもある彼女自身の生活から生まれたものだ。多様なライフスタイルを過ごす世界中の女性から支持を集め、現在は世界で約130アカウントと取引している。

94歳の芸術家の創作意欲に刺激受ける

 ピョウは、シーズンごとに異なる芸術家の作品から着想を得る。今季は画家兼詩人のエテル・アドナン(Etel Adnan)の絵画と詩がインスピレーション源となった。ショーの招待状にはアドナンの詩の一節である「死に際だと気づくとき、未来のすさまじさを実感する。決してたどることのない時間にほれてしまうのだ」と記されていた。アドナンは94歳になる今もなお現役で作品を作り続けており、その姿勢にピョウは自身を投影させて想像を膨らませたようだ。ショー後のバックステージで「“人生の終わり”を感じたとき、究極の自由を手にする。ほかのことは一切何も考えず、自分自身を表現する力を手に入れる。そんなアドナンの姿勢と作品に感銘を受け、“自分らしく人生を楽しむ大切さ”がコレクションの軸になった」と説明した。

 会場に選んだのはホルボーン図書館。ファーストルックを飾ったのはイギリス出身のモデルで2児の母でもある36歳のジャケッタ・ウィラー(Jacquetta Wheeler)で、スクエアネックのブラウスとショートパンツのリネン素材のセットアップで登場した。アドナンの風景画に見られるさまざまな色味のグリーンを軸に、ニュートラルカラーや鮮やかなチェック柄のスーツ、ハワイアンプリントのシャツなどがランウエイを彩った。オーガニックコットンのシャツドレスやリサイクルポリエステルの透け感のあるドレス、シルクのスリップドレスなど素材もアイテムもバリエーション豊かだ。陶芸家のルーシー・リー(Lucie Rie)の作品をイメージして、スリーブには特徴的な曲線を加えて膨らみを持たせた。初となるユニセックスコレクションは、サマーニット素材のポロシャツやウオッシュドデニムのジーンズ、セットアップなどが登場した。オリジナルで製作しているウッド調のボタンは不ぞろいのさまざまな形状で、スカートの裾やキャミソールトップスのストラップにあしらわれた。ツバが大きなハットなどのアクセサリーやビキニスタイルのルックなど、全体を通して南国の風をまとっていた。

新たな提案や驚きを与えるまでには至らず

 「私はファンタジーを与えるデザイナーではない。人々の日常にこそ関心があり、彼らの人生とワードローブに私のコレクションが加わることを望んでいる」と語るピョウ。その願い通り、フロントローに座るインフルエンサーが今すぐにでも着用できそうな、フェミニニティーがほどよく香り立つ日常着であることは間違いない。しかし今シーズンのコレクションは、彼女の素晴らしい想像力とテーマ性が十分に発揮されておらず、新たな提案や驚きを与えるまでには至らなかった。会場に選んだ図書館と南国風のムードもリンクしておらず、インタラクティブなショー演出には達していなかったため、次シーズン以降に期待したいというのが率直な感想である。たとえ今回のコレクションが“人生の終わり”を想像して取り組んだものだとしても、現実にはそうはならないだろうから。

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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