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「ルイ・ヴィトン」が元オールブラックスのスター選手ダン・カーターと初のラグビーボールを製作 ボールに込めた思いを聞く

 「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」はこのほど、元オールブラックス(ラグビー・ニュージーランド代表の愛称)のダン・カーター(Dan Carter)とコラボレーションし、ブランド初となるラグビーボールを日本限定で発売した。“DC”ことダン・カーターは2003年に初めてオールブラックスに選出されると、15年までの12年間に司令塔として112試合に出場。チームのラグビーワールドカップ史上初の連覇(11、15年)に貢献し、個人としては3度の年間最優秀選手賞受賞に加えて世界歴代1位の1598得点の記録を持つなど、スター選手の1人として知られている。発売に合わせて、カーター本人にボールに込めた思いや、メンズ アーティスティック ディレクターのヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のクリエイションについて話を聞いた。

WWD:なぜこのカラーに?

カーター:何色にするか悩んだが、やはり私がオールブラックスの一員としてブラックを長年身にまとっていたのが大きい。加えて日本のマーケットではブラックが人気のカラーだと聞いた。モノグラム柄にしたのは、このボールで「ルイ・ヴィトン」の歴史に敬意を表したかったからだ。

WWD:現在のラグビーボールは縫い目がないタイプが主流ですが、今回のボールには縫い目がありますね。

カーター:昔のボールは全て手縫いで、私が初めてラグビーボールに触れた当時(5歳)もまだ縫い目があった。こうした過去の記憶とラグビーの歴史への敬意をボールに込めることはこのプロジェクトの当初から決めていて、デザイン的に現代的でありながらビンテージの風合いを漂わせるために昔ながらの革ひもの縫い目をあしらうことにした。

WWD:実際に持ってみると試合球よりも少し重く感じましたが。

カーター:できる限り本物に忠実に再現しようとしたが、キャンバスとレザーという素材の関係で少し重くなっているかもしれない。

WWD:他にこだわりは?

カーター:ラグビーボールとして一目で認識されるために、アメリカンフットボールのように細長すぎず、フットボールのように丸すぎないというシェイプに特にこだわっている。

WWD:112個の数量限定にした理由は?

カーター:オールブラックスとして出場した試合数が“112”で、この数字が私にとって非常に特別だからだ。ただ、友人や家族がほしいと言っていて、今はもう少し作ればよかったと後悔している(笑)。

WWD:実際にこのボールを屋外で使用しましたか?

カーター:まだ実際に使用していないが、ボールを手に持つとどうしてもキックしたいという衝動に駆られるから、1度くらい思い切りキックしてから家に飾ろうと思っている(笑)。ただ家にいる3人の子どもたちはこれで遊びたがるだろうし、飼っている犬がボールをダメにしてしまうかもしれないので保管には十分に気をつけるつもりだ。

「国の代表なのだから自らの外見にもっと関心を払うべきだ」

WWD:今回のメインカラーでもあるブラックはあなたにとって重要な色だと思いますが、どんな意味を持っていますか?

カーター:私が思うブラックは、「オールブラックスのジャージーの色がたまたまブラックだった」というだけでなく、先人たちが汗や血を流しながら引き継いできたレガシーが反映されていると思っている。心理学的にもブラックは強さを与えると聞いたことがあるし、特別なエネルギーを与えてくれる色に違いない。

WWD:オールブラックスといえば試合前に行われるハカ(マオリ族の民族舞踊)が有名ですね。

カーター:「祖先や霊を呼び起こしてこれから戦いに挑むーーその挑戦に対して力を貸してほしい」という意味があり、本当にエネルギッシュでエモーションにあふれた大切な儀式だ。ただ、力を入れすぎてゲームが始まったときに集中力やエネルギーが切れることがあったため、10年ほど前からハカをしたあとに少し時間をとるようになっている。

WWD:ユニホームと同じく「着る」という意味合いで、ファッションがお好きと伺いしました。

カーター:人口700人にも満たない小さな農村に生まれ、ご存知の通りラグビー選手というのはスポーツウエアばかり着ているから、ファッションにはずっと疎かった。ただ、20歳ごろからオールブラックスの一員としてパリやローマをはじめ世界中を回るようになり、行く先々でさまざまなファッションや人を目にする機会が増えてから好きになっていった。

NBAの選手はスタジアム入りするときにファッションで自己表現し、フランス代表のフットボール選手は写真を撮られることが当然だと思っているから着るものに気を使っている。同じように、オールブラックスも昔はスポーツウエアでスタジアムを出入りしていたが、ある時「国の代表として試合に挑むのだから、自らの外見にもっと関心を払うべきだ」という意見があがった。それから世間の目に触れるのがわずか数分でもスーツやきちんとした格好で移動するようになり、気を使い始めてからはチーム内の意識も自然と引き締まり、マインドが変わった。

WWD:プライベートで洋服を選ぶときの基準は?スポーツ選手は体格的に着ることができるものが限られるとよく耳にしますが……。

カーター:その通りで、美しいジャケットを見かけても、欲しいジーンズがあっても着ることができない。私だけでなく、多くのラグビー選手にとって自分のサイズに合ったものがないというのは大きな悩みの1つだ。私の場合は直してもらうこともあるが、オーダーメードが多い。日本のファッションブランドでもほしいものがたくさんあるのだが、日本人の男性は私よりも格段にスリムなため合うサイズがなく、残念な気持ちになる。

WWD:最近購入したお気に入りのアイテムは?

カーター:2004年の21歳のときに初めて「ルイ・ヴィトン」のパリの店舗に入ったら、まだ私が若かったのもあって入口に立っていた警備の人が中までついてきた。それが悔しくて、怪しい人物じゃないことを証明するためにジャケットを購入したものの、すぐにホテルに戻って「なんでこんな高いものを買ってしまったんだ、俺はバカだ!」と後悔した(笑)。しかしそのジャケットは今でもワードローブにあるし、着ることができる。先日、同じ店舗に行きテーラードのスーツを買った。それが最近のお気に入りだ。その時は警備の人はついてこなかったし、中のスタッフも友好的だったよ(笑)。

WWD:「ルイ・ヴィトン」のメンズを手掛けるヴァージル・アブローのクリエイションはどうでしょうか。

カーター:ブランドの歴史の中で彼らしいものを見つけて解釈し、それを展開することでブランドの新しい分野を切り開き、若い人たちに対しても魅力的なものを作っていると思う。シーズンごとのコレクションもそれぞれ違いながらどれも現代的で、今着るにふさわしいものだ。世界中を飛び回りながらのあのクリエイションを発揮しているというのは信じられない。

WWD:ヴァージルとは同世代ですが、その分野のトップとして見える景色が一緒だと思うことはありますか?

カーター:それぞれの分野でベストを尽くそうとしていることはもちろん、素晴らしい仕事をすることで他の人たちに対してインスピレーションを与えるという意味では似ていると思う。彼の仕事ぶりは、未来のデザイナーになりうる人たちにとって貴重なインスピレーション源であり、同じことがラグビーにも言えて、よりよいプレーをすることが未来のラグビープレーヤーのためになる。

WWD:ラグビーにおけるよりよいプレーとは?

カーター:きちんとした技術と能力を持って自己を表現するプレーだ。そして自分を律すること、自分を大切にすること、自分の気持ちをコントロールすること、非常に強いプレッシャーに対応できる精神的な強さを持つことが必要だ。メンタル面を自分で管理できる者こそが試合に勝利し、偉大な選手になると思っている。偉大な選手はプレッシャーが大好きで、どんなに大きなプレッシャーがのしかかったとしても何万人もの前で楽しみながらいいプレーができる。フィジカルの面だけでなく、メンタルも大切だということだ。

WWD:プレッシャーに弱い人へ何かアドバイスがあれば。

カーター:オールブラックスに選ばれるような選手でも、プレッシャーからダメになる選手もいる。一方で、プレッシャーを受けることでさらに強くなる選手もいる。これまでいろいろな人や選手を見てきたが、共通して言えるのはプレッシャーをエキサイティングなものだと捉えているということ。もちろんプレッシャーは苦しくてつらいものだが、それをうまく自分で飲み込んでコントロールし、結果やその結果から得られるものを想像することができるかどうかが鍵だ。

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