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連載 小島健輔リポート

「フォーエバー21」敗北要因は情報の閉鎖性だった【小島健輔リポート】

 ファッションビジネスのコンサルタントとして業界をリードする小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する不定期連載をスタート。2回目は、今週の大きな話題になった「フォーエバー21」の日本撤退についてどこよりも詳細に報告する。

 3月末に台湾市場、4月末に中国市場から撤退して「次は日本か」と出店している商業施設を身構えさせた「フォーエバー21(FOREVER21)」。8月に入って米国で経営破綻の観測が広がり、連邦破産法申請(チャプター11)のXデーはいつかと疑心暗鬼になる中、9月25日朝に突然フォーエバー21ジャパンの公式サイトに10月末をもって日本国内全14店舗とオンラインサイトを閉鎖するという「日本事業撤退のお知らせ」が掲示された。

 ファストファッションがブームとなった頃は人気が沸騰して行列ができるほどだったのに、「フォーエバー21」はなぜ行き詰まったのだろうか。

日本事業撤退の経緯

 2009年4月末に上陸した当時は行列ができた「フォーエバー21」も多店舗化とともに人気が拡散。売り上げのピークは13〜14年頃で、以降は頭打ちになり、15年以降は店舗を増やしても売り上げが伸びず、16年以降は不振店の撤退と売り上げ減少の縮小スパイラルに陥っていた。

 16年初めには24店を数えたが、同年8月には仙台泉プレミアム・アウトレット(PO)店とあみPO店を閉店。17年に入って1月にららぽーとTOKYO-BAY店とダイバーシティ東京プラザ店、5月にイオンモール和歌山店と同各務原店、10月には日本1号店の原宿旗艦店も閉めている。

 18年3月には土岐PO店、19年に入っては4月にイオンモール名古屋茶屋店、7月6日には名古屋栄ゼロゲート店も閉店。撤退発表時には路面5店(札幌大通り、新宿、渋谷、福岡天神、大阪道頓堀)、イオンモール3店(京都、広島府中、沖縄ライカム)、仙台フォーラス、三ノ宮オーパ、ららぽーと2店(横浜、新三郷)、コクーンシティ、ルクアイーレの14店まで減っていた。

 「フォーエバー21」は非上場で日本国内売り上げも公表しておらず、H&Mジャパンの販売効率から無理やり類推すれば、売り上げのピークは14年1月期の220億円強で、19年1月期は140億円程度まで減少したと見る。販売効率の低下と閉店損失で大幅赤字に陥っていたはずで、損失を最少に抑えられる撤退タイミングを探っているうちに本社の資金繰りが苦しくなり、恐らくは融資するファンドの意向もあって日本事業の撤退を決断したと思われる。

米国本社の業績も悪化していた

 米フォーエバー21は非上場で決算はおろか売り上げも公表していないが、米国の調査会社が推計した数字によれば、02年(03年1月期、以下同)の3.15億ドルから急成長して06年には10.66億ドルと10億ドルの大台に乗せ、14年には40億ドルまで拡大して米国アパレルチェーン売り上げ4位まで上り詰めている。15年には44億ドルまで伸ばしたものの販売効率の低下で在庫回転が悪化して資金繰りが苦しくなり、18年以降はアジアだけでなく英国など世界各地で閉店に追い込まれて20〜25%も売り上げを落としたとされる。

 それでも米国アパレルチェーンでは首位のギャップ(GAP)、2位のLブランズ(L BRANDS)、3位のアセナリテールグループ(ASCENA RETAIL GROUP)、4位のアメリカンイーグル・アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)、5位のアーバン・アウトフィッターズ(URBAN OUTFITTERS)、6位のアバークロンビー&フィッチ(ABERCROMBIE & FITCH)に次ぐ7位に位置する。米国内売り上げはH&M(28.5億ドルで10位)には届かないにしてもインディテックス(9.8億ドルで15位)は凌駕するから、勢いが衰えたとは言え米国内ではH&Mとファストファッションの双璧をなしている。

 米国ではH&Mも16年の32億ドルをピークに売り上げを落としているから、わが国のみならず米国でもファストファッションは下火なのだろう。代わって08年以降、ファストファッションに圧されて業績が悪化していたローカルチェーンやローカルブランドが業績を復活させている。日本では不調で青山商事傘下のイーグルリテイリングが手を引いた「アメリカンイーグル・アウトフィッターズ」にしても、本国では増収増益を続けている。

ファストファッション凋落の要因

 ファストファッションに火がついたのは08年で、営業利益率や在庫回転など経営効率は10年をピークに低下に転じ、15年以降は販売効率も低下するチェーンが多くなった。

 ファストファッションとひとくくりに言っても、ベーシック商品を継続販売する「ユニクロ(UNIQLO)」は在庫回転も遅く(前期で2.17回転)“スローファッション”というべきだし、「ザラ(ZARA)」は在庫回転こそグローバルSPAとしては突出して速い(前期で4.20回転)が、商品開発の手法はアパレルメーカー並みで完成度が高く、旬のトレンドを追って手早く開発した商品を“使い捨て”感覚の低価格で量販するという“ファストファッション”のイメージとは距離がある。世間でいう “ファストファッション”を代表するのは「H&M」と「フォーエバー21」と見るべきだろう。

 “ファストファッション”には「使い捨て感覚の低価格トレンド衣料」という意味に加えて「グローバル展開のSPAチェーン」という捉え方があり、ファストファッション凋落の要因はこの両面から考察する必要がある。

 「使い捨て感覚の低価格トレンド衣料」という面では、消費者のおしゃれ疲れ・おしゃれ離れという現実が大きい。少子高齢化の社会負担増で生活と生計に追われ、衣生活が機能本位になっていく今日の消費者にとってトレンドを追うのは面倒で、消費支出に占める衣料履物の比率は携帯電話などの通信料や化粧品・美容サービスに支出が流れて3.64%まで落ちている(19年上半期、1990年は7.38%だった)。着たきりTPOレスなアスレジャーのまん延やリユース・リサイクルの拡大、リセールバリュー重視も、ファストファッションには逆風となったのではないか。

 「グローバル展開のSPAチェーン」という面ではブレグジット(英国のEU離脱問題)やトランプ大統領就任以来の分断とローカル回帰の社会潮流が逆風となった。もとより体形や生活慣習に左右されるアパレルはローカル特性が強く、グローバル化に流れた08〜15年のサイクルはともかく、ローカル回帰に転じた16年以降は米国でも日本でもグローバルブランドの人気が落ちてローカルブランドが復活している。米国ではアメカジSPAや「リーバイス(LIVE‘S)」が復活し、わが国でも109ブランドが復調しているではないか。

 グローバルSPAでも「H&M」はアングロサクソン、「ザラ」はラテン、「ユニクロ」はモンゴロイドに立脚しており、異民族市場ではフィットはもちろんテイストやシーズン展開まで組み替えないと定着が難しい。人種のるつぼと言われる米国市場で成長した「ギャップ」はエスニックマーケティングに長けており、日本市場でもローカルフィット商品を投入しているし、「ユニクロ」もイスラム圏では割り切ったローカル対応をしているが、欧州系SPAはローカル対応に消極的だ。

 ちなみに、欧米高級ブランドも日本市場で売り上げを伸ばすにはローカルフィット対応が必須だが、相応の売り上げ規模がないと生産ロットに見合わない。売り上げが伸び悩んで撤退したり、代理店がころころ変わったりするブランドは、その決断ができないのだろう。

「フォーエバー21」固有の内部要因

 ファストファッション全般の逆風もともかく、「フォーエバー21」には固有の難点が指摘される。それは(1)SPAとしての開発・調達体制と海外店舗の運営体制、(2)経営状態のディスクロージャーだ。

 SPAといっても、コレクションブランド並みに素材から社内開発してIoTな生産管理で工賃払い調達し、物流も全て自社でコントロールする「ザラ」(3つの手法を使い分けている)から、工場に匠を送り込んで生産管理しても物流は外部に委託して製品買い調達にとどまる「ユニクロ」、商品企画はディレクション止まりで納入業者企画の製品買い調達が実態という「フォーエバー21」まで、その開発・調達体制はさまざまだ。

 ファストな鮮度と消化回転を命とする“ファストファッション”は「フォーエバー21」のような手離れのよい“バイイングSPA”であるべきで、実際、「セシルマクビー(CECIL MCBEE)」やかつてのポイント(現アダストリア)もローカルチェーン規模だった頃は二桁回転の高消化率を謳歌していたが、規模の拡大ともに消化回転が低下して開発・調達体制の変革を余儀なくされた。

 「フォーエバー21」も規模の拡大に海外展開も加わって消化回転が劣化していったが、「ザラ」のように開発・生産プロセスに踏み込むことはなく、売り上げより在庫が積み上がって資金繰りが苦しくなり、経営が行き詰まったと見られる。ファストファッションといいながらロットが過大で調達リードタイムが長く、「ユニクロ」並みに消費地倉庫に在庫を積み上げる「ダム型サプライ」が災いした「H&M」は2.79回転まで落ちているから、「フォーエバー21」も下手に“バイイングSPA”から踏み出しても経営が好転したとは思えない。

 加えて、フィットもシーズン展開も雇用ルールも異なる“アウェイ”な海外市場に手を広げ、ローカル主導のディストリビューション体制(配分・補給・店間移動・売価変更)も組めず、消化回転が落ちて運営経費が肥大したことが致命傷となったのではないか。

 トレンド鮮度が命のファストファッションは「ローカル特化」「リードタイムの短い小ロット調達」「ローカル主導の素早い補給と売り切り消化」のどれが欠けても行き詰まるが、「フォーエバー21」はその全てを外してしまった。

隠す会社は信用不安に追い詰められる

 フォーエバー21は非上場のファミリーカンパニーで財務諸表はおろか売り上げや利益も一切公開しておらず、わが国でも官報への決算公告も行なっていない。そんな非公開体質は好調時には問題とならなくても、ひとたび経営不振に陥れば不安が不安を呼んで資金調達にも支障をきたす。

 米国の連邦破産法第11条はわが国の民事再生法にあたり、債務整理と事業再生を法的に執行するもので、再生計画が整っていればつなぎ融資も受けられるし、スポンサーが現れれば再生へ、ダメなら事業を清算することになる。フォーエバー21が十分なつなぎ融資を確保できないまま連邦破産法を申請する事態となれば、不採算の海外店舗は一番に切り捨てられるが、今回は採算が悪化している海外事業をまず撤収することで本体の資金繰りを改善し、つなぎ融資を引き出す作戦と見る。

 フォーエバー21が株式を公開して経営状態を誠実に開示していれば、経営が苦しくなっても相応の貸し手が現れ、厳しいリストラは要求されるにしても採算部門の営業は継続できるはずだが、長年の非公開体質が災いしてつなぎ融資の確保にも苦慮し、不採算の海外事業から切り捨てることになった。米国内でも不採算店舗を切り捨てて採算のよい店舗だけでオフバランスをとることになるが、非公開体質でなければより多くの店舗と雇用が残されるはずだ。

 経営状態に限らず、会社は誠実に情報を公開するほど世間の信頼を得られる。融資関係のみならず取引先や従業員、そして顧客や将来の従業員も目を開き、耳を澄ませている。SNS社会の今日、隠す会社は信頼を得られないばかりか、痛くもない腹まで探られて憶測を拡散されかねない。フォーエバー21の苦境から一番に学ぶべきは、「開かれた会社」であるべきだということだろう。

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)

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