今シーズンは「発酵コスメ」がアツイ。ベストコスメの本命と思われる大型のエイジングケアを筆頭に、プチプラのスキンケア含め「あ、これも発酵由来の成分、こっちも発酵に注目している製品」と、目を引く新製品が続々登場している。
発酵とは、微生物がある物質からまったく別の「体に有用な物質(発酵代謝物)」を生成すること。その歴史は古く、世界最古の発酵食品が誕生したのは約8000年前。コーカサス地方(旧グルジア)のワインと言われている。以降世界各国には独自の発酵食品が存在し、現在では化粧品の成分としても広く用いられている。最も有名なのは、1980年に登場した「SK-Ⅱ フェイシャルトリートメントエッセンス」の「SK-Ⅱピテラ」だろう。
人工的に合成する成分とは違い、発酵には微生物……つまり「生き物」が介在するため、ある種自然の成り行きに任せざるを得ない面がある。1980年代頃までは、微生物と発酵条件の組み合わせを総当たり的に検証し、肌に有効な発酵代謝物を見出す(そして量産する)手法が中心だった。現在は、この発酵に関する技術が飛躍的に進化。微生物に関する遺伝子レベルの研究や、発酵条件に関する膨大なデータが蓄積され、これらを背景に登場したのが冒頭の発酵コスメたちだ。
たとえば、「ランコム(LANCOME)」の“ジェニフィック”シリーズには、効率良く発酵由来成分を抽出する独自のプロセスが採用されている。ビフィズス菌エキスを超音波によって粉砕し、イースト菌エキスを酵素によって加水分解して、熱を加えずに粒子を極小化。濾過したのち糖類を大きさ別に分類することで、速やかな浸透感や肌への働きの向上が期待できる。
この秋登場した「ジェニフィック アドバンスト N」はさらに一歩進んで、肌表面の常在菌(マイクロバイオーム)に注目。若い肌と加齢した肌の常在菌バランスを研究し、新たに2種類の発酵由来成分と、常在菌の栄養となる3種類のプレバイオティクスを配合。加齢によって偏りがちな肌の常在菌バランスを、健やかな状態へと導くことを目的とした、新発想の美容液だ。
自然の営みである発酵に対し「計画的な発酵」に挑んだのが、「アルビオン(ALBION)」の「フローラドリップ」である。注目したのは、バイオ×ITを融合した「スマートセルインダストリー」の考え方。これは「生物が何かを生み出す力」を高度にデザインする技術のことで、現在エネルギー、農業、医療等の分野において、産学協同で推進されている。
「アルビオン」が行ったのはまず、ゴールとなる「肌への効果」の設定だ。そのために必要な発酵代謝物を検証し、それらを生み出す微生物を選定。発酵条件をシミュレートした上で、実際の成分開発を行った。具体的には、白神山地の自社研究所で育った5種類のハーブを、純白麹を用いて高度な管理下で発酵。ハーブだけでも十分肌に有用な成分を含むが、この発酵から得られた成分には、キメ、ハリ、ツヤなど肌のあらゆる美しさに関与する働きが認められるという。開発においては、しばしば思い通りの結果を得られないこともあるが、ほぼ当初の狙い通りの成分が開発できたというのも驚きだ。植物の抽出や人工的に合成した既存の成分とは全く違う、次世代の画期的な開発手法といえる。
発酵が難しい素材に対して、果敢に挑戦したのは、はちみつのエキスパートである「ハッチ(HACCI)」。はちみつは糖度が高く水分をほぼ含有しないため、微生物が活動しにくい……。つまり発酵しにくい性質を持つ(それが腐りにくいという利点でもあるのだけれど)。そもそもはちみつ自体栄養価が高く、肌に有用な成分を豊富に含んでいる。
さらに「はちみつの新たな可能性を探りたい」という情熱のもと、「ハッチ」は京都の老舗発酵屋と協力。新鮮なフルーツを花酵母で発酵させ、そのままでは発酵が難しいはちみつの媒介役となる「発酵母液」を開発。この母液にベストなタイミングではちみつを加え、試行錯誤の結果はちみつ発酵液の開発に成功した。この発酵液にはヒアルロン酸の産生力やバリア機能を改善する働きが認められ、「ハッチ 発酵液シリーズ」の全製品に配合されている。
さらにプチプラのスキンケアでも、発酵由来成分を取り入れた注目のアイテムが登場する。マンダムの「バリアリペア メンテナンスマスク」は、「うるおうチカラ乳酸菌」という外箱のコピー通り、シートには牛乳タンパク質を乳酸桿菌で発酵させた乳発酵液を含ませている。この発酵液はアミノ酸などの天然保湿因子が豊富で、マスクのシールド感との相乗効果により、自ら潤う肌へと導く効果が期待できる。乾燥の気になる季節に、発酵コスメの恵みを試したい方に最適だ。
インナーケアで注目したいのは、たかくら新産業の「だいじょうぶなもの 植物発酵エキス」だ。発酵素材を用いた美容飲料がすでに沢山存在するなかで、有機JAS認証を得た初の発酵エキスだ。原料となる32種類の野菜や果物はすべて有機栽培、工場の環境やパッケージング方法に至るまで、有機JASの厳しい条件をすべてクリアしている。新鮮な原料を丸ごと1種類ずつじっくり抽出し、それぞれ自らが持つ酵母で発酵。最終的にそれらを1つの樽に入れ、ITOプロバイオ酵母によって追発酵&熟成させる。原料から製品として完成するまでに、実に1年以上を費やすという。この秋は携帯に便利な個包装タイプが登場し、職場や旅先でも気軽に手に取れるのが魅力だ。
たかくら新産業のように、伝統的な発酵技術を用い、オーガニックという付加価値を追求した製品が登場したこと。加えて個人的には、「アルビオン」や「ハッチ」など国内メーカーの開発に、日本の老舗企業が技術提携している点が興味深い。古くは酒や味噌造りに必要な微生物を提供し、現在はバイオ企業に転身した会社もある「麹屋(もしくは発酵屋)」の技術と、先端のテクノロジーの融合が、発酵由来成分の可能性を広げているように思う。
伝統の技と先端技術から誕生し、肌への効果まで検証した進化型の発酵コスメ。今回は今シーズン注目のエイジングケアから、プチプラのスキンケア、インナーケアまで、気になる製品をセレクトしてみた。エイジングサインが気になる方、肌本来の保湿力を内側から立て直したい方、ぜひ試してみては?
宇野ナミコ:美容ライター。1972年静岡生まれ。日本大学芸術学部卒業後、女性誌の美容班アシスタントを経て独立。雑誌、広告、ウェブなどで美容の記事を執筆。スキンケアを中心に、メイクアップ、ヘアケア、フレグランス、美容医療まで担当分野は幅広く、美容のトレンドを発信する一方で丹念な取材をもとにしたインタビュー記事も手掛ける