スニーカーブームや古着特集など、1990年代のストリートファッションブームをけん引した伝説の雑誌「ブーン(Boon)」(祥伝社)が復刊し、10月9日から発売している。この秋と来春に出す特別号の売れ行き次第で、月刊化も検討する。2008年に休刊したものの、ピーク時の90年代後半には実売65万部を販売していた伝説の雑誌復活の背景を、山口一郎・新編集長に聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD): 復刊の背景とは?
僕は、2008年5月号の「ブーン」休刊時は副編集長。ずっと忸怩(じくじ)たる思いがあった。祥伝社としても「ジッパー(Zipper)」をはじめ、雑誌から書籍、文庫、マンガまでを手がける出版社なのに、男性誌だけがないという状態はバランスが良くないと思っていた。2012年ごろから一部の30〜40代向けの男性誌が盛り返しはじめる中で、20代がターゲットだった「ブーン」も1990年代半ば〜2000年代はじめのころの読者がいま40代前後。かつての読者層で、雑誌カルチャーへの愛着も強い40代前後をターゲットにするなら勝算があるし、勝負するなら今しかないと考えた。
WWD:復刊についてクライアントや周囲のスタイリストなどの反応は?
こちらが思っていた以上に良くて、びっくりしたというのが正直なところ。復刊の話は4月頃から水面下で動きはじめ、パイロット版も何も準備出来ないまま、媒体資料だけを持って回ったので、「今さら何で復刊するの?」といったクールなリアクションも当然予想していた。ところが、実際に行ってみると「ぜひやって欲しい」や「当時の熱っぽい、熱気あふれるテンションのままでやってほしい」という期待の声ばかり。嬉しかった 。実際に「リー(LEE)」「エドウイン(EDWIN)」「ニューバランス(NEW BALANCE)」「リーボック(REEBOK)」といったかつても出稿実績のあるクライアントにご協力いただている。
WWD:復刊号のテーマは“90年代”。その理由は?
スタッフと会議を繰り返した結果、「エアマックス」が復刻したり、ヴィンテージの人気が高まっていたり、スタッフみんなでテーマを持ち寄ってみたら、結果的にそれって原点は90年代だよね、それにいま90年代も面白いよね、と。もちろん「ブーン」自体が90年代にピークを迎えたということもあるので、ヨシそれで行こうということになった。
WWD:イチオシのコンテンツは?
もちろん全て(笑)。とはいえスニーカーとヴィンテージは、「ブーン」らしいと思うし、表紙を開いてすぐの位置に、 かつての読者には馴染みの深い連載スナップ企画「スタイルサンプル」を持ってきたところもポイント。実はそのページに出ている人たちも同じで、「ブーン」の愛読者なら見たことある人も多いのでは。
WWD:復刊に際して、気をつけたことは?
「ブーン」が一番売れていた90年代半ばの鉄板コンテンツは、スニーカーとヴィンテージ。その後90年代後半から2000年代前半には裏原宿やセレクトショップに、休刊の直前はモード系やハイブランドも扱うようになっていた。僕らが一番気をつけたのは、読者には何を一番期待されているかということ 。何度もミーティングを重ねた結果 、98年ごろの「ブーン」を共通認識として想定するのが、一番バランスがよいのではないかと。一番売れていた時期よりはやや後だったが、「エイプ(APE)」「アンダーカバー(UNDERCOVER)」「ネイバーフッド(NEIGHBORHOOD)」などストリートブランドを取り上げる一方で、セレクトショップも取り上げていた。ただしなるべく客観的に、かつシビアに物事を考えようと心がけた。
WWD:かつての「ブーン」で個人的に一番印象に残っていることは?
僕が入社したのは95年。当時は編集長と副編集長以外はみんな20代で、現場の編集部員はみんな若かった。僕らはいつも泊まり込んで、誌面を作っていた。長い場合は一週間なんていうことも。いまでも覚えているのは、プレミアなどつけないで、適正価格でスニーカーを扱っているショップを探すため、ファクスを全国のショップ400件に送って、一番安いショップを、編集部員、ライター、スタイリストまで一緒になってみんなでファクスをチェックして、探し当てたこと。いまならネットで調べれば一発だけど、当時は手をかけたら、手をかけた分だけ、雑誌のクオリティや、もっと言えば売り上げに直結する時代だった。