木本茂・社長は、11年間トップを務めた鈴木弘治・前社長(現・代表取締役会長)から指名を受け、今年2月に社長に就任した。今後相次ぐ大型店の改装の舵をとり、国内百貨店事業の収益の改善を目指す。人柄は温厚。取材を受ける時は記者の名前を覚えて会話をつなげる細かな心配りが人心を掌握につながっているようだ。
「百貨店事業が厳しかったここ数年間は、東神開発などグループ会社がきっちり利益を計上して補完してきてくれた。今こそ百貨店。日本橋の再開発など起爆剤を多く持つ中、東西大型5店舗のフォーメーションで、百貨店全体の利益を現在の115億円から200億円まで引き上げる」。その戦略の中核が「街づくり」という考え方だ。「百貨店を軸としながら、“街”の構成要素の一つとして、その街に文化を発信する、“街づくり百貨店”へと飛躍させたい」。
高島屋の「街づくり」と聞けば、郊外型SCの先駆的存在である玉川高島屋S・Cが知られている。だが、これからの高島屋の「街づくり」が二子玉川と同様とは限らない。「二子玉川は時間をかけて民間の都市計画とともに発展しており、最大級のやり方。各店は、店の体力や市場の可能性を検証して街づくりをしていく」。
「街づくり」戦略のカギを握るのは、SC開発のノウハウを持つ東神開発の存在だ。創業50周年を迎える同社は、高島屋の100%出資の子会社で、これまで玉川高島屋S・Cや柏高島屋ステーションモール、シンガポール高島屋で実績をあげてきた。2013年度は売上高335億4900万円、営業利益68億8600万円を計上している。「高島屋グループのDNAを持つ東神開発は百貨店の重要性を理解している。彼らのプロデュース力を生かしたい」。そのために今春、高島屋から東神開発へ3人が出向し、東神開発内に“街づくりに関するプロジェクトチーム”を立ち上げた。親会社から子会社への出向という選択には、「デベロッパーである東神のものの見方をスポイルしないことが大切」という考えが反映されている。
東神開発との関係性が強まる高島屋は今後、デベロッパー化を進めるのか?木本社長はこの問いには、はっきりとノーと答えた。「高島屋の未来がデベロッパーか百貨店かの二者択一なら、百貨店のブラッシュアップ。文化発信機能の強化など、百貨店ならではの側面を磨きつつ、我々のアングルだけでは不足する部分を東神が担い、業態として進化させる」。
今後「街づくり」を進めるのは、新宿、立川、日本橋の3店だ。新宿は、高島屋新宿店が入るタイムズスクエアビルを1050億円で取得し、3月31日付で物件の受け取りを完了。新宿エリアは今、国土交通省が新南口の再開発を進めると同時に、16年にはJR新宿駅新南口駅舎跡地にルミネも入る大型複合ビルが完成し、さらに代々木側では三菱地所が再開発を進めるなどエリア整備が進んでいる。「劇的に環境が良くなり、マーケットとして良化する展望」の中、8月をメドにプロジェクト内容の具体化を進める。立川も物件の取得を完了しており、同じく進むエリア開発の動きを合わせて「街づくり」の具体的なアクションを始めた。
日本橋は、国の重要文化財である本館はそのままに、新たに商業施設とオフィスが入る2棟の高層ビルを建設する。全面開業予定は、19 年春だ。「20年のオリンピックに向けて東京都内の人口動態は大きく変わるだろう。中でも、中央通りは、東京駅、日本橋、銀座6丁目と再開発が続き、日本のシャンゼリゼ的存在となりつつある。高島屋の日本橋本館は建物としての価値があり、高島屋の資料館も併せ持つ。日本橋の開発の中でも180年の歴史と伝統を“アーカイブ”化し、経営資源としてゆきたい。これもまた街づくりの考え方だ」。