エイチ・ツー・オー リテイリング傘下の阪急阪神百貨店は、2012年秋に建て替え開業した阪急うめだ本店に続き、21年秋の全面開業を目指して阪神梅田本店が建て替え工事に入る。東京・新宿を抜き、日本一の百貨店激戦区となった大阪・梅田で圧倒的なシェアを誇る同社。荒木直也・社長は2つの旗艦店でどのような百貨店を目指すのか。
阪急うめだ本店は2012年11月の建て替えグランドオープンから1年半。ルクアやグランフロント大阪など梅田エリアでの新規商業施設との競合激化もあり、掲げていた初年度2130億円の売上高目標は未達成に終わり、17年3月期に先送りされた。それでも荒木社長は手応えを強調する。「一周回って(1年が過ぎ)、認知が広がり売れ方が変化してきた。年末年始商戦、3月のモチベーション需要、ゴールデンウイークなど、高級ブランドの動きが格段に良くなっている。新規のお客さまが良い商品を求めて、本店に来て下さるケースが目
立って増えた。一番店らしい力強い売れ方になってきた」。目玉に据えたラグジュアリーブランドやインターナショナルブランドは、圧倒的な品揃えが消費者の支持を得ている。
ジェンヌとシスターズ3分の1を入れ替え
次の課題はボリュームゾーンである婦人服、とりわけ苦戦していたヤングゾーンの立て直しだ。コンセプトフロアの3階「うめはんシスターズ」、4階「うめはんジェンヌ」は、すでにブランドの3分の1を入れ替えるなど迅速に手を打った。「ヤングのウイングをあまり広範囲に広げるのではなく、昨年秋くらいからアンダー30のお客さまに絞り込んだ。百貨店予備軍の20代の新しいお客さまの囲い込みは最重要課題。“西日本一のファッションストア”の実現のためには、レディスファッションの再構築が避けて通れない」と話す。
来店客の買い回りの詳細な分析を通じて修正すべき点も見えてきた。商品の価格差を超えて買い回る消費者が予想以上に多い。例えば3階の高級なインターナショナルブランドの編集売り場「D. エディット」と、ファションビル系ブランドが集積された「うめはんジェンヌ」を買い回る女性が一定数以上いる。「お客さまはグレードごとに買い回ると思っていたが、いざふたを開けてみると、グレードを超えて買い回っている。成熟したお客さまは、百貨店側が考える区分けではなく、ご自分のセンスで自由に商品を選ぶ。エイジレス化も想定以上に進んでいた。簡単にいえば3つに分類できる。30歳以下、65歳以上、その間の30~65歳のエイジレスなお客さまだ。クラスター分類を再構築し、来年秋くらいのタイミングでテコ入れしたい」。買い回りの検証と修正で成果を挙げているのが11年10月に開業した阪急メンズ東京である。13年度の売上高は110.3%。開業3年で黒字を達成する見通しだ。MDを見直した地下1階の服飾雑貨がけん引する。1階や2階の高級ブランドの男性客の買い回りを促すため、こだわりの強いインポート革靴を強化した。当初は3万円台が中心だったが、今は4万~5万円以上がよく動く。今秋には「ジョンロブ」も導入し、「サントーニ」「コルテ」など高級靴のニーズに応える。「阪急うめだ本店や阪急メンズ東京を通じ、店舗が独自性を持つことの大切さを痛感した。独自性のためには、我々自身がMDや売り場の設計をすることが欠かせない。建て替えに入る阪神梅田本店も同様だ」。
阪急がレクサスならば、阪神は……
阪急うめだ本店の全面開業の次には、隣接する阪神梅田本店の建て替えという巨大プロジェクトが控えている。21年秋の開業に向けて、今期から一部で工事に入る。阪急うめだ本店の時と同じく、縮小営業をしながら7年間かけて建て替え工事を進める予定だ。百貨店の王道を行く阪急とは異なるカラーを出しつつ、両店の買い回りを促せるかがポイントになるだろう。「阪神らしさといえば、一般的にはエレガンスよりもカジュアル、ハイエンドではなく庶民的、フレンドリーで親しみやすく中高年やシニアに愛されている、そして何より大阪随一のデパ地下というイメージだろう。その財産を継承しながらも、新しいメッセージを打ち出したい。たとえば阪急がレクサスであれば、阪神はクオリティの高い大衆車かもしれない――などと色々考えてる」。増加することが予想される近隣の都市住民を念頭に、どんなメッセージを届けるか。さまざまな選択肢を用意する考えだ。
エイチ・ツー・オー リテイリングが発表した24年度を最終年度とする長期計画「GP24」において、阪急うめだ本店と阪神梅田本店の「梅田事業」が重点戦略の一番手になっている。現在、大阪商圏における両店のシェアは36%(同社調べ)。この基盤をさらに強くするために欠かせないのが広域からの集客だ。特に阪急うめだ本店は外国人観光客を積極的に誘致する。「阪急うめだ本店は団体客よりも個人のリピート客が多い。個人客に向けて中国ではSNSによる発信、ASEANでは旅行代理店との連携やメディアへの広告など、積極的に手を打つ。海外のお客さまの関心事に合わせた販売計画も策定する予定だ」。今期の免税売上高は前期の2倍に相当する45億円を計画する。