「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS以下、ヴァン クリーフ)」のハイジュエリー発表受注会が9月第1週に都内ホテルで開催された。昨年7月にパリで発表されたグリム童話をテーマにした一点物からメゾンのシグニチャーであるハイジュエリーまでが約100点集結。日本市場におけるハイジュエリーの需要の高まりを感じさせるラインアップとなった。秋は多くのジュエラーがハイジュエリーの受注会を行うが、いち早く受注会を開催したアルバン・ベロワー(Alban Belloir)=ヴァン クリーフ&アーペル ジャパンプレジデントに話を聞いた。
WWD:今回日本に来ているハイジュエリーの数と内容は?このタイミングで受注会を行う理由は?
アルバン・ベロワー=ヴァン クリーフ&アーペル ジャパン プレジデント(以下、べロワー):約100点のハイジュエリーをそろえた。グリム童話の中から4つの話に着想を得た新ハイジュエリーコレクション“キャトル コントゥ ド グリム(以下、グリム)”は、メゾンのアイデンティティーを象徴するマスターピースぞろいだ。それ以外にも、クラシックなものから抽象的なデザインのものまで幅広いハイジュエリーをそろえた。「ヴァン クリーフ」は設立当時から、自然をはじめ女性らしさやポエティックなストーリーをインスピレーション源にしてきた。グリム童話をテーマにしたコレクションは、モザンビーク産ルビーやコロンビアやブラジル産のエメラルド、ミャンマーやスリランカ産のサファイアなど貴石の原産地や品質にこだわったものをそろえ、メゾンの知見と技術の全てを発揮したこまやかな作品になっている。“グリム”コレクションの一つ“12人の踊る王女”コレクションから3点の王女のクリップ(ブローチ)が来ているが、1940年代から製作しているバレリーナやフェアリーのクリップを新たな技巧を施して表現している。メゾンの過去、現在、未来を表現したアイテムだ。
WWD:このタイミングでハイジュエリーの発表を行う理由は?
ベロワー:インターナショナル、各地域、各国のイベントカレンダーとのバランスを見ながらスケジュールを組む。インターナショナルのスケジュールは今年2月にタイでルビーにフォーカスしたイベントを開催し、7月にはパリで新コレクション“ロメオとジュリエット”を発表した。グリム童話をテーマにしたコレクションは昨年6月のオーストリア・ウイーンと翌月パリでの発表を経て、世界各国を回って日本に来た。9月は(夏休みが終わり、ビジネスが再開するので)顧客が動きやすいということもあり、ハイジュエリーの受注会には理想的な時期。11月末から2月にかけてはクリスマスに向けてダイヤモンドにフォーカスしたジュエリー商材をプッシュするため、9月に色石にフォーカスしたコレクション受注会を行うのは正しいタイミングだ。
WWD:日本におけるハイジュエリー市場の商況は?
ベロワー:今年はハイジュエリーの新規顧客の取り込みに成功し、この分野におけるメゾンの認知度がアップしていると感じている。もちろん、メゾンのシグニチャーを知っている長年にわたる顧客はハイジュエリーのイベントを楽しみにしており、毎回来てくれる。全体的にハイジュエリーのイベントへの興味が高まっている。われわれは戦略的に数年前から、銀座本店をはじめ、各地のブティックでも年間を通して需要に応えるべくダイヤモンド中心のハイジュエリーの露出を増やしており、それが売り上げアップにつながっている。1000万~5000万円が中心価格帯。ハイジュエリーの価格には上限はないが、5000万円以上のものも動く。日本における売れ筋は、自然や花などメゾンの世界観表れたアイコニックなデザインやクラシックなもので、身に着けやすいダイヤモンドが人気だ。これらのハイジュエリーを常に露出することで新顧客の獲得につながり、ハイジュエリーを日常的に着ける傾向が生まれてきている。一方で、グリム童話をテーマにした一点物に関しては、「ヴァン クリーフ」の世界観をよく知っている昔からの固定客が特別な時に着用する目的で、または投資対象として購入するケースが多い。一点物は希少性の高い石を使用しているため、価値が下がることはまずない。
WWD:ブライダル市場に関しては?
ベロワー:エンゲージメントリングが好調だ。中心価格帯は100万~2000万円。日本におけるブライダル市場は成長しているとは思えないが、メゾンの認知度がアップしており、マーケットシェアが伸びていると感じている。エンゲージメントリングの用途が結婚だけでなく、日常的に使用する目的で購入する顧客もいる。その用途の広がりも伸長の理由だ。1カラット以上のユニークソリテールリングも堅調で、石にこだわった顧客による購入が見られる。価格帯は1000万~4000万円とハイジュエリーと同等の価格帯だ。
WWD:一般的に令和婚によるブライダルの需要の高まりが見られるようだが?
ベロワー:その影響があるかもしれないが、われわれの主要顧客とは違う顧客カテゴリーによる動きのように思われる。令和婚需要は一生に一度の買い物的なカップルによるもので、主力商品は低価格帯のものが中心だ。マリッジリングに関しては、デザインが似たり寄ったりで差別化しにくいため、ブランドの認知度と価格が決め手になる。エントリー価格帯の商材であり、緩やかな伸びは見られる。
WWD:インバウンド需要は?銀座は2店舗体制だが、どのような効果が出ているか?
ベロワー:ここ数年絶好調だ。8月半ばから円高の影響で鈍化しているが、それでも伸長している。訪日旅行客の多い銀座2店舗および大阪・心斎橋店の存在が認知度アップにつながり客数が伸びている。売れ筋は世界共通で“アルハンブラ”や“ぺルレ”。ハイジュエリーも好調だ。ブライダルは国内客が中心でインバウンド客による需要は少ない。ウオッチは“ミッドナイト プラネタリウム”などのポエティック コンプリケーション(複雑時計)がよく動く。国籍は中国がいまも多いが、韓国、香港、台湾などの近隣アジア圏以外に東南アジア、欧米、中東、ロシアと多様化が見られる。ショッピングモールであるギンザ シックスに出店して以来、ファッション好きの新規顧客や「ヴァン クリーフ」を知らなかった新客の獲得に成功している。銀座3丁目の本店に関しては、ジュエラーが軒を連ねるジュエリー通りということもあって昔からの顧客が多く、ギンザ シックス店とは客層が異なる。
WWD:百貨店の外商とはどのように連携を取って販売をしているか?
ベロワー:日本における百貨店の存在は極めて重要で、協業がよい結果を生んでいる。外商は顧客とコンタクトを密にとっているため、顧客のニーズに合った商材やサービスをきっちりと取り込める。
WWD:“アルハンブラ”がロングセラーであり続ける理由は?新規商材投入の予定は?
ベロワー:“アルハンブラ”は誕生して約50年経つ、「ヴァン クリーフ」のアイコンでありタイムレスなコレクションだ。メゾンのDNAである幸運、愛、富といった人生におけるプラスの要素を表現していると同時に、購買層も20~80代と年代を問わないデザインがロングセラーである理由だ。新商材は“アルハンブラ”“ペルレ”“フリヴォル”という3つを柱として投入していく。
WWD:日本国内で好調な地域は?
ベロワー:札幌、東京、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡に直営店があるが、全て好調。特に心斎橋店は関西の需要を取り込むのに成功している。