ヨーロッパ最大級のアイウエア国際展示会「シルモ(SILMO)」が9月27日から4日間、パリ・ノール見本市会場で開催された。1967年にスタートして52回目の今年は970社が出展し、約3万6000人が来場した。
ファッションブランドとのコラボが話題
今年の「シルモ」はパリ・ファッション・ウイークと同時期の開催で、それと呼応するかのようにファッションブランドとのコラボモデルが続々と登場した。例えば、ドイツの「マイキータ(MYKITA)」と「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」、アメリカの「ジャックマリーマージュ(JACQUESMARIEMAGE)」と「オリヴィエ・ティスケンス(OLIVIER THEYSKENS)」、日本の「ネイティブ サンズ(NATIVE SONS)」と「サカイ(SACAI)」などが挙げられる。
「ジャックマリーマージュ」は、ほかにも「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド (THE VELVET UNDERGROUND)」とのコラボモデルを発表。創造的で革新的な製品に贈られるアワード、「シルモドール(SILMO D’OR)」の審査員特別賞も受賞するなど、注目度が増している。また、「ネイティブサンズ」のデザイナーであるタミー・オガラ(Tommy O’Gara)は、9月30日に行われた「サカイ」のランウエイにも同席して最終のフィッテングなどを行なった。「今回のコラボは同じマインド、同じパッションの仲間とやっているので、すべてがスムーズに進んだ」と話した。
日本からは26社が出展
日本からは福井県の大手企業シャルマンをはじめ、海外企業との共同出展社を含む26社が出展。アイウエアメーカーのアイヴァン、増永眼鏡、ブランドの「イエローズプラス(YELLOWS PLUS)」「ユウイチトヤマ.(YUICHI TOYAMA.)」は昨年よりもブースを拡張し、ヨーロッパでの足場を着実に固めている。また、2018年に続いて「シルモドール」にノミネートされた「ファクトリーキュウヒャク(FACTORY900)」は、連日ブースに人だかりができる盛況ぶり。青山嘉道デザイナーは、「ビジネスとしては2日目で昨年の数字を超えて、これまでで一番手応えがあった。今年で14回目の出展になるが、長く続けてきたことが信頼につながった」と感想を述べた。今までは品質で良しあしを語られることが多かった日本ブランドだが、ここにきてデザインも高い評価を得ているようだ。
3Dプリンターやフレックスヒンジの新技術
トレンドの流れとしては、“クラシック”をベースにしつつ、より線の細いモダンなデザインに移行しつつある。だが、ウエリントンやラウンド、キャットアイ、コンビネーション、メタルフレームとあらゆるクラシックフレームのバリエーションが出そろった観があり、全体としては大きな変化はなかった。そんななか、3Dプリンター製やフレックスヒンジ、スクリューレス構造など、新素材や機能を打ち出した独立系ブランドの存在感が増している。例えば、ドイツの「ヴォ―ユー(VOYOU)」やフランスの「バーズ アイウエア(BAARS EYEWEAR)」、スペインの「ロウル アイウエア(LOOL EYEWEAR)」など。これらは大きな潮流とはいえないが、新しいものを積極的に取り入れるヨーロッパの物づくりの在り方が感じとることができる。
ARを活用したバーチャル眼鏡店?
今回は「シルモネクスト(SILMO NEXT)」と題した、アイウエアの未来を予測する新たなスペースが設けられ、専門家によるハッカソンやスタートアップ企業などによるプレゼンテーションも行われた。イギリスのFUEL3D社は、バーチャルショップのアプリ「FITSYOU」を発表。これは、顔の形や奥行きをスキャニングし、サイズを合わせた多彩なフレームから好きなものを選ぶと、AR(拡張現実)で眼鏡を掛けた顔が表示されるというもの。正面だけでなく、斜めや横向きと角度を変えてフレームが表示されるので、思いのほかリアルだ。ほかにも3Dプリンターを活用してビスポークで眼鏡を作る取り組みを発表する会社もあった。
「これから20〜30年後の眼鏡業界はどうなっていくのか、新しい製品や流通のサービスによってどんな改革が起こるのか。それをみなさんに体感してほしい」と「シルモ」のアメリー・モレル(Amelie Morel)会長は話す。
2019年の「シルモ」は最先端のデザインや革新的技術、未来のサービスなどが集結した刺激的な展示会となった。そこから見えるビジョンは、モレル会長が開会の挨拶で語った言葉に集約されている。
「アイウエア業界の未来は明るい」。
藤井たかの(ふじい・たかの)/メガネライター:1976年、大阪府生まれ。大学卒業後、出版社や編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。年間1000本以上のアイウエアに触れ、雑誌や広告、ウエブなどで企画・編集・執筆を担当する。最近はジンバル片手に眼鏡の現場を動画で取材