※この記事は2019年9月26日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
東急東横店の閉店に思う
東京オリンピック・パラリンピックを来年に控え、都内は至る場所で工事をしています。中でも最も変貌を遂げているのが渋谷です。それまでなかった高層ビルが雨後の筍のように建設され、少し前の風景を思い出すことが困難になってきました。
私は渋谷に行くと、たまに「このあたりは東横線のカマボコ型の駅舎があったよな」とか、「五島プラネタリウムのドームってどこにあったんだっけ」と思い返したりしますが、もう昔の風景を重ねることができません。そうやって昭和だけでなく平成の記憶も遠くになっていくのでしょうね。
さて東急百貨店は、渋谷駅で運営する東急東横店の営業を2020年3月末で終了し、86年の歴史に幕を閉じると発表しました。もともと渋谷駅の再開発で建て替えられ、高層ビルの「渋谷スクランブルスクエア」に生まれ変わる計画は発表されていたので、関係者にとっては既定路線だと思います。11月1日に開業予定の渋谷スクランブルスクエア第1期棟は、13年に閉店した東急東横店の東館の跡地です。このほど閉店が発表された西館・南館も同様に取り壊され、跡地は27年に渋谷スクランブルスクエア第2期棟になります。
東急東横店は東京発のターミナル型百貨店として1934年に開業しました。東急グループの創業者である五島慶太(1882〜1959年)は、阪急グループの小林一三(1873〜1957年)にならい、沿線の住民の生活レベルの向上につながる百貨店を作り上げたと言われています。老朽化した今の姿からは想像できませんが、かつて渋谷のランドマーク的存在で、映画の舞台になったり、戦後の一時期は建物と建物の間にロープウェイが通っていたりしました。東急グループにとっても、日本の小売業の歴史にとってもエポックな店であることは間違いありません。現在、西館・南館での縮小営業をしている東急東横店ですが、東急百貨店の店舗の中では坂の上にある渋谷本店を上回り、売り上げ・利益の最大店舗のポジションにあるそうです。東急百貨店および東急グループにとって一番店を閉める決断は重かったはずです。
大手私鉄のターミナル駅には当たり前ように子会社の百貨店が営業しています。新宿駅の小田急百貨店新宿店と京王百貨店新宿店、池袋駅の西武池袋本店と東武池袋本店、名古屋駅の名鉄百貨店、梅田駅の阪急本店、阿倍野駅のあべのハルカス近鉄本店。おそらく大都市の大手私鉄ターミナル駅から百貨店が消えるのは今回が初めてだと思います。
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