美容誌やウェブメディアへの寄稿、ビューティイベントへの出演、マンツーマンのメイクレッスンなど多岐にわたる活躍を見せる美容家の松下侑衣花。美容ライターからキャリアをスタートさせた彼女は、今や20代の若手美容家として取材を受けることも多く「WWDビューティ」紙面にもしばしば登場する。そんな注目の美容家が、10月12日発売の「週刊プレイボーイ(PLAYBOY)」で、“脱げる美容家”として袋とじのグラビアを披露した。美容家としてキャリアを重ねる彼女が、センセーショナルな挑戦をするに至った本音に迫る。
WWD:美容を仕事にしたきっかけは?
松下侑衣花(以下、松下):幼い頃からコスメに興味を持っていて、大学に進学してからも漠然と美容業界で働きたいと考えていました。化粧品会社への入社を夢見て就職活動をしましたが、「会社に入り一社の製品に深く関わることは、いろいろなブランドのコスメが好きな私には向いていない」と感じたんです。ある化粧品会社の面接では、「新卒は皆、販売員として売り場で数年経験を積みます。その後、何人かは本社に異動となることもありますよ」と説明を受けました。美容の楽しさを自分の言葉でいち早く広く伝えたい、という気持ちが強過ぎた私には、このステップを待つことができないと確信しました(笑)。ちょうどその頃にフェイスブックでたまたま見かけた、“美容ライターのアシスタント募集”という投稿を見て、すぐに応募をしたんです。
就職活動はやめて、大学4年の6月から美容ライターのアシスタントとして活動し始めました。ありがたいことに、比較的すぐに自分の記事を書かせてもらえるようになりました。
SNSがくれたチャンス
WWD:フリーのライターとして軌道に乗るのは簡単なことではなさそうだが。
松下:そうですね。読書も苦手な方でしたし、文章の組み立て方も理解できていませんでした。ブランドから送っていただく新商品のプレスリリース(メディア向け資料)を読んでも、この成分がなぜ肌によくて、どんな悩みに作用するのか、といったことも分からなくて……。見かねた師匠からは、「月に5冊は本を読んで、感想文を送って」と言われていましたね(苦笑)。200字の文章を6時間もかけて書き上げて、師匠にチェックしてもらうと「はい、もう一度!」と。書き直しで5往復なんていうこともありました。
化粧品について勉強をしながら量をこなすという毎日で、1カ月で100記事ほど書くことで、なんとか食べていけるという生活でした。しんどかったけれど、記事を多く書くことで自信がつきましたし、タイトルの付け方や切り口でPV(ページビュー)数がこれだけ変わる、という“成績”が目に見えるのも楽しかった。やがて、「ヴォーチェ(VoCE)」や「アンアン(anan)」といった雑誌での仕事もいただくようになり、ツイッターとインスタグラムのアカウントも開設しました。SNSでコツコツとおすすめのコスメを紹介するうちに、「#美金」「#ゆいコス」というハッシュタグが拡散するように。すると、自分が取材を“する側”から“される側”になる機会が増えて、2〜3年前から「美容家」とメディアで紹介いただけるようになりました。
WWD:取材される側になり、活動の幅が広がっている。
松下:取材して書くということに加えて、イベント登壇やインタビューなど、美容について発信をする引き出しが加わったのはうれしかったですね。ただ、インターネットでの風当たりが強かった。「20代の美容家なんて信用できない」といった内容の掲示板ができていたり、SNSのコメント欄やダイレクトメッセージでの誹謗中傷もありました。正直、今も批判はゼロではありません。ただ、対処法は結果を出していくことしかないですから。純粋に「可愛くなりたい」「きれいになりたい」と思っている女性に向けて、少しでも有益な情報を発信したいと思います。
WWD:それほどまでに美容への思い入れを強くするきっかけがあったのか?
松下:実は中学生の頃、周囲となじめなかったんです。仲間外れにも遭いましたし、朝教室に入ると、私の机の上にだけ絵の具のチューブが散乱していたこともありました。相談できる友人もいませんでしたし、親にも話しませんでした。心配をかけたくなかったんですね。自分に自信がなく、落ち込みがちな毎日の中でふと、色付きのリップクリームをつけるだけで「頑張ってみるか!」と学校に向かえたことがあったんです。記憶をさかのぼると、幼稚園児の頃に、祖母のメイクボックスから口紅を取り出して見よう見まねで塗ってみたり、小学校低学年の頃にはマニキュアに凝ったり……。初めて彼氏ができたときや大学進学で上京したとき、お守りのように自信をくれたのが、私の場合コスメだったんです。
グラビアは美容の楽しさを男性にも伝える一つの手段
WWD:「週刊プレイボーイ」の話はどのように?
松下:知人を通じて、今年の6月に話があったんです。表参道にあるオーガニックカフェで同誌の編集担当の人から話を伺いました。まさか自分がグラビアに出る日が来るなんて想像はしていなかったけれど、「来月が撮影になりますが、どこまで脱げますか?」と聞かれ、とっさに「3点隠しならいけます!」と答えていました。もちろん、美容家がグラビアに?というような世間の目と、体作りへの不安はありました。けれど周りにどう思われるかよりも、自分がどうしたいかということを大切にしたいと思ったんですよね。美容家で今まで誰も挑戦していないことに挑戦できるんだ、という楽しみな気持ちの方が強かったんだと思います。賛否両論あって当然。コンディションも撮影までにどうにかすればいいか!と腹をくくりました。
WWD:女性向けのグラビアでなく、男性向けの本格的なグラビア誌に出たいと思えたのは?
松下:最近はコスメブランド各社がメンズ用コスメを発売していますよね。同世代の友人を見ていても、スキンケアだけでなく、コンシーラーやファンデーションといったメイクアップをしている男性が増えているという実感があります。「美容って楽しい」ということを、自分の体をもって男性にも伝えたかったんです。男性ファンを増やしたいというより、「美容家でこんな人がいるんだ」ということをきっかけにして、多くの人にもっと美容に興味を持ってほしいと考えています。私にとってのグラビアは、美容のよさを広げるための一つの手段だったんです。
美容って、肌やメイクの美しさにフォーカスされがちですが、「私が理想とするきれいな人って?」と考えたときに、頭のてっぺんから足のつま先まで美しい人だ、と気づきました。ボディーはお化粧をしない分、取り繕えないですしね。私自身、日々ボディーケアをすることで肌質やボディーラインの変化を実感してきました。お手入れをすることで、肌見せのファッションに挑戦したくなったり、パートナーとのスキンシップに自信を持てるかもしれない。モデルでもない私がケアを重ねて作った体だからこそ、こうしたメッセージをもっと発信できると思っています。
WWD:撮影にはどんな気持ちで臨んだのか。
松下:楽しかったですね。1泊2日で伊豆大島にロケということ自体、新鮮でした。美容ページの撮影はほぼスタジオで、外には出ませんから。キメ顔をしようとする前に、どんどんシャッターが切られるので自然と素の表情になりましたし、「レンズをレンズと思わない、これは彼氏だ」と自分に暗示をかけました(笑)。森の中で寝そべる私のすぐ横をアリやムカデがはっていたり、蚊に20カ所くらい刺されたことも含めて、いい思い出です。
WWD:活躍の場が広がり、美容家としての手応えを感じているか。
松下:手応えは、まだないですね。本当にまだまだです。でも、「美容を伝えたい」という気持ちはますます強くなっています。今春スタートしたマンツーマンのメイクレッスンと16タイプパーソナルカラー診断※を多い時は週10人以上に行っていて、すでに100を超える人に体験いただいています。レッスンの生徒さんやイベントで出会う女性から聞こえてくるのは、「誰かになりたい」ではなく「自分に似合うメイクを知りたい」「自分史上で一番かわいくなりたい」という声。一方的に情報を発信するのではなく、隣に寄り添って美容を伝えられるような存在になっていきたいです。
※生まれ持った色(髪・瞳・肌)と雰囲気が調和する似合う色を導き出すメソッド。16タイプパーソナルカラー診断は、春夏秋冬の4つの季節に分類するカラー診断に色のトーンを加え、4シーズンをそれぞれ4タイプ(計16タイプ)に細分化したカラーシステム
WWD:今後の目標は?
松下:美容は、仕事や恋愛に作用してその先の幸せにつながると信じています。美容を知ったら人生が変わる、ということをたくさんの人に知ってもらいたいですね。今回のグラビアで、美容の楽しさを届けられる層が広がるといいなと思っています。コスメの力で前向きになれた、中学時代の私が原点ですね。
もうすぐ28歳になりますが、30代を想像するのは楽しみです。年齢を重ねて、シワやたるみといったエイジングの悩みも自分が経験してゆくことで、発信する情報に説得力が増しますしね。いつか、美容メソッドをまとめた著書を出せたらいいですね。奥行きのある美容情報を発信できるように頑張ります。