「WWDビューティ」10月17日号“メンズメイク特集”の取材で印象的だったのは、どの取材先でもインタビュー中に「シャネル(CHANEL)」と「ファイブイズム バイ スリー(FIVEISM × THREE)」の名前が出たことだ。前者は著名なラグジュアリーブランドが参入したことに、後者は色展開だけで100SKUという“本気度”にインパクトがあったからだろう。
また、メンズメイクの新製品は最近多く発売され始めているものの、販売戦略においてはまだまだ“手探り状態”であることも分かり、だからこそ先行する上記2つのブランドに注目が集まったともいえる。取材先で「〇〇の新製品を試してみました」とか「〇〇のサロンに行ったことあります」など、他のメンズメイクブランドの製品やサービスをリサーチしているという話題になることが多かったからだ。もちろん、同業他社をリサーチするのは当たり前だが、今回ほど熱心に語られたことはこれまでになく、各社が他社の動向から何かを得ようとしていることが判明した。
同カテゴリーのトップランナーの1つである「ファイブイズム バイ スリー」に至っても「パイオニアであるだけに、どんなプロモーションが良いのか本当に手探り状態。でもメンズビューティはスピード感が命なので、今は走り続けるつもり」(森田由美「ファイブイズム バイ スリー」ゼネラルマネージャー)と話している。
“タッチアップ”を中心としたプロモーション
実際に取材をしてみると、販売戦略に関して2つのメソッドが主流になりつつあることが分かった。1つは“タッチアップ戦略”だ。“男性は女性以上に体験から学ぶ”ということを理解し、販売戦略の最優先事項に“タッチアップの機会を作る”ことを挙げる取材先が目立った。女性は中学生くらいからメイクに触れるが、男性は今初めてという30~40代も多いだろう。だから女性以上に、というのには納得する。特に「ファイブイズム バイ スリー」はイベントの規模の大小にかかわらず、“アーティストがレクチャーした上でのタッチアップ”にこだわり、ブランドのローンチから1年間継続してきたという。男性でもタッチアップしてもらうと気分がアガる。これは筆者も同感だ。
もう1つは、いわゆる“スーパーナチュラルメイク戦略”だ。「メンズには“やりました感”のするメイクはNG」というのが各社の共通認識となっているようだ。ある意味当然とも思うが、長く業界にいる筆者でもさすがにバッチリメイクはしたいと思わず……。「しっかりカバーしているのに何もしていないように見えるメイク」、つまりスーパーナチュラルメイクが主流で、それならばスキンケアも知らない男性もメイクからスタートできるだろう。
「ファイブイズム バイ スリー」は“ステルスメイク”や、イケメン製作所は“ロジカルメイク”という言葉を発信しており、スーパーナチュラルメイクに独自の色を加え、分かりやすくネーミングしたのも面白い。しかし実はスーパーナチュラルメイクは、通常のメイク以上に高度なテクニックを必要とするもの。それを手軽に提供できるメソッドの確立に、各社が試行錯誤を繰り返しているのもうなずける。
まずはスキンケアのステップアップを訴求
一方、販売戦略以外にもう1つ、各社で認識が共通していたことがある。それはメイクも大事だがその前の“スキンケアの普及も重要”ということだ。「イベントで20人近くの男性を集めたところ、その全員がローションを使っていた、ということがあった。既にローションはそこまで浸透しているが、2ステップ目の“乳液”の使用率となるとガクンと下がる。乳液まで使ってくれれば『次はメイク』となるので、当ブランドでは乳液の訴求にも注力していきたい」(森田「ファイブイズム バイ スリー」ゼネラルマネージャー)。実は保湿が大事というのを、この業界に入り学んだ。今まさに男性が化粧を勉強しているのだろう。
化粧品を何も使っていない状態から、1品使ってもらう状態まで持っていくには大きな壁があるというが、1品使いから複数使いに持っていくにも実は同様に大きな壁がある。しかし、2ステップまで持っていければ、メイクに手を出すまでの壁は低いという心理は十分に理解できる。“2ステップ目のスキンケアの普及”が、メンズメイクカテゴリー伸長の鍵にもなっているようだ。