1月に中国で電子商務法が施行され、これまで好調だったインバウンド需要が危ぶまれている。実際に売り上げを下げた企業も見られ、受け身でない新たな販路が求められている。中国の市場調査や越境EC支援を行うトレンドエクスプレスは5月18日、中国Ct oCコマースアプリ「微店」を運営する無線生活信息技術有限公司(以下、ppbuyer)と共同で、日本在住の中国人ソーシャルバイヤー向け展示会「ソーシャルバイヤーEXPO2019春」を開催。約1000人のソーシャルバイヤーが来場した。日本企業約20社が出展し、美容カテゴリーはファンケルや「アテニア」「オルビス」「マンダム」などが製品をアピール。各社はなぜ、中国CtoC市場に乗り出すのだろうか。(この記事はWWDビューティ2019年5月30日号からの抜粋です)
ソーシャルバイヤーとは、いわゆる転売(代購)を行う個人バイヤーだ。電子商務法はこのソーシャルバイヤーに対し、企業と同様の登録をし、責任と納税義務を課すもの。粗悪品や偽物を販売すると最大200万元(約3000万円)の罰金が科される。このようなリスクに対し、ソーシャルバイヤーの数は減少傾向にある。
ファンケルのブランド「ビューティ ブーケ」「アンドミライ」のスキンケア製品を出展。同社は以前から中国客に人気が高く、健康食品事業では「Tモール国際」などの越境ECおよび中国内でサプリメントの販売を行い、好調に推移しているという。
同グループブランド「アテニア」も7月以降、ソーシャルEC「小紅書(RED)」や越境EC「Tモール国際」「コアラ」に旗艦店を出店するなど中国への越境ECに積極的な動きを見せる中、今回の出展となった。堂下亮アテニア事業戦略本部本部長兼事業企画部部長は「ブランドの認知向上と人気感醸成をするためにはCtoCが非常に重要と捉えている」と出展意図を語る。ソーシャルバイヤーは単に転売を行うだけでなく、顧客から信頼を得ており、新しい商品の紹介も行う。日本語の説明のみの商品であっても彼らの宣伝により中国で知名度が上がることも多く、インバウンド需要にまで影響する存在だ。「アテニア」は同時にBtoCの越境ECも強化することで新規客獲得とリピート購入の循環を高めるといい、インバウンドの多いエリアへの出店(4月京王百貨店新宿店、5月京都大丸店など)も強化している。
「オルビス」は“美肌トクホ”の「オルビスディフェンセラ」を2月20日から「Tモール国際」の旗艦店で発売。並行して3月中旬からトレンドエクスプレスのCtoC型越境ECサービス「越境EC X(クロス)」での取り扱いもスタート。すでにソーシャルバイヤーを活用した展開を行っている。中村聡子オルビス営業部海外管理グループ グループマネージャーは「ソーシャルバイヤーによる商品の使用評価、効果効能の口コミは着実に増え、売り上げも徐々に伸びている」と影響の大きさを語る。今回の出展でも同社は注目を浴びたが「比較的多くの方に『オルビス』は認知されているが、ポーラ・オルビスホールディングスのブランドであり、ポーラ化成工業の高い技術力で開発された事実は知られていなかった」とバイヤーの反応を振り返る。開発ストーリーや背景を広めるにはソーシャルバイヤーの理解を深めることも重要で、3月にはソーシャルバイヤー向けセミナーを開催した。
ネガティブな予想が大きかった電子商務法の影響だが、会場からは前向きな声が多く聞こえる。当のソーシャルバイヤーたちも「法整備が整うことで扱う商品が本物であるとしっかり伝えられる」「むしろソーシャルバイヤーの数が増えて競争が激化する方が心配だ」と語る。法人化するソーシャルバイヤーもみられ、中国政府が狙った“市場の正常化”という課題はいい方向に進んでいるようすだ。
この流れを後押しするように、トレンドエクスプレスとppbuyerは新たにソーシャルバイヤー支援アプリ「ワールド X」をローンチ。中国語での商品情報の提供、市場競争力のある仕入れ価格の提示、企業関係者との直接交流機会の提供などを行うサービスで、より企業がソーシャルバイヤーと結びつきやすくなる。中国内の需要は伸び続けているだけに、新たな販売手段として注目を浴びそうだ。