15歳で楽曲制作をスタートし、19歳でデビューした新世代シンガーソングライターeill(エイル)。艶やかな歌声がジャズやR & B、ポップスなどさまざまなジャンルの要素をまとめ上げて楽曲へと昇華させる。彼女の音楽だけでなくファッションも同年代の女性から高い支持を得ている。11月6日には、若手ラッパーや気鋭のアーティストを迎えて製作した自身初のフルアルバム「SPOTLIGHT(スポットライト)」を発売するなど、今後の活躍が期待される存在だ。そんな彼女に、アルバムに込めた思いや、自身音楽のルーツ、デビューまでの苦悩など現在の“eill”に至るまでを語ってもらった。
WWD:音楽を始めたきっかけは?
eill:もともとは小学生の時にK-POPを好きになって、韓国のアイドルに憧れを抱くようになったのがきっかけです。それから私も踊って歌えるアーティストになりたいと思うようになりました。K-POPが好きすぎて、中学生までは本気で韓国でアーティストになりたいと思っていました。
WWD:K-POP以外に影響を受けた音楽は?
eill:K-POPから入ってだんだんと洋楽、ブラックミュージックも聴くようになりました。中でもビヨンセ(Beyonce)の出演している映画「ドリームガールズ(Dream Girls)」を観て、劇中歌の「LISTEN」にすごく衝撃を受けました。音楽ってこんなにパワーを持っているんだとその時に魅了されて、本格的に歌を歌いたいという気持ちになりました。また、母がモータウン(米国・デトロイト発祥のレコードレーベル。ニーヨ(NE-YO)やミーゴス(MIGOS)、エリカ・バドゥ(ERYKAH BADU)など多くの黒人アーティストが所属する)や1970~80年代のポップス、R & Bなどが好きで、私も聞いているうちにどんどんハマっていきました。K-POPやR & B、SOULなどの音楽が今の自分のルーツになっています。
WWD:歌を本格的に始めたとき、レッスンに通った?
eill:韓国人の先生のもとでスパルタレッスンを受けました。もともと、私自身とても音痴だったのですが、その先生が徹底的にきたえてくれました。ほとんど毎日通って「この子はやる」と思ってもらえたのか、夜10時くらいまでレッスンを受けて帰宅するというのを繰り返していました。レッスンは本当に怖くて、毎日怒られて泣きながら練習していました。
WWD:もともと音痴だと歌いたいという気持ちにならないような気がするが?
eill:K-POPから入ったので、アーティストという存在自体に憧れていて、音痴を気にするよりも、そういう存在になりたいという思いの方が強かったです。
WWD:本気でアーティストでやっていこうと決めたのはいつ?
eill:中学3年生です。毎日レッスンに通っていて寝る時間もあまりありませんでしたが、それだけ音楽が好きだったんです。だから音楽以外の道に進むことは考えていませんでした。ちょうどその頃に、両親に楽曲制作に必要な機材を一式買ってもらいました。それから独学で曲を作るようになりました。
自らの力で切り開いたアーティストとしての“MAKUAKE”
デビュー曲「MAKUAKE」のMV
WWD:もともと20歳までにデビューしたいという目標があったそうだが?
eill:高校一年生の時からジャズバーとかでライブ活動をしていたんですが、当時のライブはピアノの弾き語りで今とは異なるスタイルでした。それとは別に自分のやりたい曲があったので、デモ音源はずっと制作していました。ただ私自身や周りの人達が納得するようなものができずに、約2年間ずっとデビューにむけて準備していたけど、なかなか出せなくって……。曲を書いてはボツになっての繰り返しでした。それでこのままだと20歳までにデビューできないとすごく焦りました。それまで他の人と一緒に楽曲づくりをしていたんですが、誰かがいいじゃなく、自分がいいと思う曲を作ろうと思い、自分の人生を切り開くという意味を込めた「MAKUAKE」という曲を一人で作りました。その曲で2018年6月13日にデビューできました。私の誕生日が6月17日なので、ぎりぎり20歳までにデビューという目標がかなえられて本当によかったです。
WWD:デビューから1年が経過したが、変わったことは?
eill:正直変わったことだらけです。もちろん自分のCDが店頭に並ぶことも初めてですし、ワンマンライブも初めて。音楽に対する姿勢にも変化がありました。デビューするまで自分が歌う目的が正直まだ曖昧だったんです。例えば大きな会場でやりたいとか具体的なイメージがまったくなくて、ただ歌えればいいって気持ちでした。でもサポートメンバーや支えてくれるチームと一緒に音楽を作っていくうちに、自分の中で明確なビジョンや目標について考えるようになりました。本当に初めての体験が多かった1年間でした。
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WWD:eillという名前の由来は?
eill:もともと別名義で活動していたんですが、新しく生まれ変わろうと決心してつけた名前が“eill(エイル)”です。北欧神話にエイルという体や心の傷、どんな病にも効く癒しの力を持つ女神がいて、そこに由来しています。その力が私にとっては音楽で、音楽で人を癒やしていきたいという思いからです。
ファーストアルバムのリード曲「SPOTLIGHT」MV
WWD:初のフルアルバムのタイトル「SPOTLIGHT」にはどういう意味が込められている?
eill:“舞台の上で光を浴びる”って意味ももちろんありますが、このタイトルの意味は、私自身に光を当てるという意味も込めました。周りの人だったり、舞台から出る光、演出のライトではなく、自分にとっての“スポットライト”の意味を表現したくてこのタイトルを付けました。
WWD:このアルバムを通して伝えたいことはある?
eill:私が作る曲に共通しているのは、“自分の人生の扉を少しずつ開けていくこと”で、女性の強さとかをテーマにして曲を書いています。この「SPOTLIGHT」というアルバムには私がデビューしてからの1年間がつまっています。自分を嫌いになったり、周りの人に助けてもらったり、葛藤だったり、本当にいろいろな出来事があった中で、最終的に自分が「何のために生きているのか」って明確にするために制作したものが「SPOTLIGHT」です。そして今までは自分のために歌っていたのですが、今回のアルバムでは誰かを励ましたり元気づけるために作った曲が多く、このアルバムを通して誰かに寄り添えたらいいなと思っています。
WWD:このアルバムではで気鋭の若手ラッパーKvi Baba(クヴィババ)や覆面アーティストのAmPm(アムパム)などのアーティストが参加しているが、その経緯は?
eill:Kvi Baba君は、曲を聞いて「かっこいいな」ってずっと気になっていました。ライブに足を運んで直接「お願いします!」って伝えたのがきっかけです。AmPmさんは、アルバムの2曲目に「この夜が明けるまで」という曲が収録されているんですが、この曲を全編英語でやったらかっこいいと思ったと同時にAmPmさんが思い浮かんだんです。それで完成したのがアルバム9曲目の「ONE LAST TIME(Prod.AmPm)」。制作に取り掛かる前から絶対いい曲が作れるって直感的に確信しました。
私の音楽が明日を生きる意味、頑張れる理由になれたら
WWD:11月に3都市(東京・名古屋・大阪)を周るツアーが始まるが、ツアータイトルの「BLUE ROSE」の意味は?
eill:昔、青いバラ(BLUE ROSE)は存在しておらず作れないものだと言われていました。だから花言葉も「Impossible(不可能)」。でも技術が進歩して青いバラも作れるようになり、花言葉も「Dream Come True(夢かなう)」に変わったんです。そういった背景がいいなと思って。私の夢とみんなの夢をかなえるツアーという意味で「BLUE ROSE」と名づけました。
WWD:ツアーへの意気込みは?
eill:私にとって初めてのツアーですし、ファーストアルバムの曲を始めて披露する貴重な場です。夢をかなえるって意味でも、ファーストフルアルバムを作ったことは自信につながりましたし、誰かに届けたいという気持ちが芽生えました。お客さんにとってライブに行く1秒前より、ライブに行った1秒後が明日を生きる意味、頑張れる理由になれたらいいなと思って、ツアーに臨みます。
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WWD:今後の目標は?
eill:出来ることは全部やりたいっていうのが率直な気持ち。やっとたくさんの人に自分の音楽を届けたいって気持ちが芽生えたから、その衝動を大切にしたいです。イヤホンの向こうにいる人にも悲しかったり、楽しかったり、生きている中でたくさんの感情が巡っていると思うんです。私はジャンルにこだわらずダンスミュージック、バラード、J-POP、R & Bといろいろ歌う。そんな器用貧乏で悩んだこともあったけど、だからこそ聴く人のいろんな感情に寄り添える。私の音楽が少しでも多くのシーンでそういう人のそばで、友達のような存在でいられたらなというのが一番の目標です。
WWD:最後にeillさんにとって音楽とは?
eill:生きる意味。音楽がないと生きていけないし、楽しいことも、悲しいことも辛いことも日々の生活のなかで起きていること。そういった感情を曲にしているので、衣食住のように生活に必要不可欠なもの。一生一緒に生きていくものだと思っています。