スーパーモデルのケイト・モス(Kate Moss)やナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)、カーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)といった時代を彩るスーパーモデルを多く輩出してきたのがイギリスです。昨今は世界的に二世モデルの活躍が目立ちますが、2020年春夏シーズンのロンドンは少し違った傾向が見られました。ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)やジジ・ハディッド(Gigi Hadid)らセレブリティーを起用したのは「バーバリー(BURBERRY)」ぐらいで、メトロポリタンなロンドンという街を象徴するかのようにモデルの顔ぶれは多様性に満ちていたのです。そして、各ブランドの確立したいイメージやターゲット層などの狙いもモデル選びに現れていました。今回のバックステージを取材した4ブランドで見つけた、注目美女モデルをご紹介します!
SIMONE ROCHA
“今っぽい”人選に共感
私が最も共感し、現代らしいキャスティングだと思ったのは「シモーネ ロシャ」です。昨シーズンから幅広い年代の女性やプラスサイズモデルを起用しており、デザイナーのシモーネ・ロシャはかつてキャスティングについて「Anybody, Any body(全ての人、全ての体形)」とコメントしています。アイルランドの伝統行事をテーマに掲げた今季は、アイルランド出身の女性も数名起用していました。アイルランド人の女優兼映画監督オルウェン・フエレ(Olwen Fouere)は、長い芸能生活の中でランウエイを歩いたのは初めての経験だったそうです。2019年プレ・フォール・コレクションのキャンペーンに起用された南スーダン出身のアドゥ・アケチ(Adut Akech)をはじめ、2000年代初頭に活躍し現在は2児の母である39歳のカレン・エルソン(Karen Elson)や、今季がモデルデビューで初のランウエイだというサーラ(Xara)ら、キャリアや人種も多種多様なモデルをそろえていました。
JW ANDERSON
モデルの審美眼はピカイチのジョナサン
最もアップカミングなモデルを起用していたのは「ジェイ ダブリュー アンダーソン」です。旬のモデルとして華々しい活躍を見せているのは、昨シーズン41ブランドのランウエイを歩いた19歳のジゼル・ノーマン(Giselle Norman)です。イギリス人の彼女は、個性的な顔立ちというよりも変幻自在のカメレオン系。昨シーズンの彼女を見ると「シャネル(CHANEL)」ではエレガントに、「クロエ(CHLOE)」ではガーリッシュに、「サンローラン(SAINT LAUREN)」ではセクシーに、「ディオール(DIOR)」ではクールにと全く異なる印象を見せています。「ジェイ ダブリュー アンダーソン」のバックステージではモデル仲間と楽しくダンスをしたりスタッフと笑い合ったりと、お茶目で明るい性格が見て取れました。2018-19年秋冬シーズンにモデルデビューした彼女の初ランウエイは「ジェイ ダブリュー アンダーソン」だったそうで、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の審美眼はさすがと言うべきでしょう。
そんなアンダーソンが今季起用したモデルの中で目を引いたのは、各都市で大活躍中の17歳、モナ・トーガード(Mona Tougaard)です。デンマーク出身の彼女は、15歳の時に大手モデル事務所「エリート(Elite)」のコンペティションで優勝し、昨シーズンにランウエイデビューを果たしました。初シーズンで「ルイ・ヴィトン(LOUISE VUITTON)」「プラダ(PRADA)」「シャネル」などそうそうたるメゾンに起用され、今季も「シモーネ ロシャ」「バーバリー」、ミラノでは「ヴェルサーチェ(VERSACE)」「フェンディ(FENDI)」も歩いて大いそがし。20年春夏シーズンのパリ・メンズ・ファッション・ウイークで人気が出そうなメンズモデルとして紹介したジーヌ・マハデヴァン(Jeenu Mahadevan)と共通する、南アジアっぽいダークトーンの肌色にエキゾチックな顔つきが印象的です。ショーだけでなくキャンペーンモデルとしても、今後どんなブランドに起用されるのか要注目です。
REJINA PYO
175cm超の長身ぞろい
「レジーナ ピョウ」のコレクションは、クラシックなアイテムに色使いやシルエット、ボリューム感、素材感、スタイリングなどで少しひねりを加えた合理的なデザインが「北欧っぽいなぁ」といつも感じています。コペンハーゲン・ファッション・ウイークに参加したとき、実際に来場者の着用率が高かったブランドでした。今季のバックステージで見かけたモデルは、私のそんな印象をさらに強めるかのように北欧系美女が多く見られました。その代表格がオランダ出身の2人ヴェラ・ヴァン・エープ(Vera Van Erp)とドゥミ・デ・ヴリース(Demy de Vries)です。どちらもエラが張ったベース型の輪郭に頬骨が少し出ていて、彫りが深いわけではないのに目力がある顔つきです。そしてジャケッタ・ウィラー(Jacquetta Wheeler)とクレア・コリンズ(Claire Collins)の二人はイギリス出身ですが、系統的には同じ北欧系美女。可愛いというよりもクールでキレイ、そしてとにかく背が高い!175cm前後の美女に囲まれ、152cmの私はすっぽり埋もれてしまいました。ただし、北欧系美女が多かったというだけでランウエイにはほかにもアフリカ系やアジア系モデルも登場していて、“多様性”を主張しています。
TOGA
女子校でモテそうな“イケメン”美女
個性的なモデルが多かったのは「トーガ」です。肌色だけでなく、顔立ちも雰囲気もそれぞれ異なり、「トーガ」の衣服をまとってさらに個性が際立っていました。今季はショートヘア率が高く、やんちゃなトムボーイっぽい雰囲気のモデルに目を引かれました。天然パーマのカイラ(Kayla)とラクエル(Raquel)、前髪パッツンのメイジー・ダンロップ(Maisie Dunlop)とキアラ・ルナ(Chiara Luna)のほか、男前美女のアゴスティーナ・マーティネス(Agostina Martinez)とサラ・ブルサン(Sarah Boursin)は美しさとカッコよさを兼ね備えており、女子校にいたら絶対にモテそう。ファビエンヌ・ドーバ(Fabienne Dobbe)とポピー・マイルズ(Poppy Miles)は、そばかすがとってもキュート!美を再定義する個性派ビューティぞろいで、“みんな違って、みんないい”——そんなメッセージが感じられる顔ぶれでした。
ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける