ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)は、製品タグに独自の2次元コード「デジタル・プロダクト・アイデンティー(Digital Product Identities以下、DPID)」を付け、消費者に生産工程や真贋に関する情報を提供すると発表した。
スマートフォンでDPIDを読み取ると、原材料や素材の詳細、生産工程における労働条件、工場の場所などの情報に加えて、製品が本物であることの証明、スタイリングのコツ、おすすめ商品などの情報が提供される。まず「ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)」に導入し、段階的に全ての傘下ブランドに導入していくという。同社は2018年に企業の社会的責任に関する取り組みの一環として「持続可能な素材に関するロードマップ(計画表)」を策定しており、DPIPの導入はその動きに沿ったものだ。製品情報のデジタル化やクラウド上での管理は“モノのインターネット化(Internet of Things以下、IoT)”を専門とするソフトウェア会社エブリシング(EVRYTHNG)が行い、DPIDタグの生産と印刷は識別ラベルの製造開発会社エイブリィ・デニソン(AVERY DENNISON)が担当する。
デイビッド・ローレン(David Lauren)=ラルフ ローレン チーフ・イノベーション・オフィサーは、「DPIDは製品の真贋なども含めてさまざまな情報を提供できるため、消費者はいつでも安心して購入することができる。まず『ポロ ラルフ ローレン』で導入するが、同ブランドの製品はいわば“生まれつきデジタル”ということになる。ファッション業界における最新のデジタルデータ革命だと言えるだろう」と語った。
今回の取り組みは口で言うほど簡単なことではない。ラルフ ローレンほどの事業規模になると、傘下ブランドのサプライチェーンでは何百もの素材メーカーや生産業者との取引があり、年間で生産される製品数はおよそ2億点にも上るため、導入には多大な費用と手間がかかる。実際、QRコードなどを利用した生産工程のトレーサビリティーに取り組んでいるブランドは増えているものの、これほど大規模に導入するのはラルフ ローレンが初めてだという。しかし一旦導入すれば、在庫管理が容易になることに加えて、これまで全く把握できなかったリセール(2次流通)市場での流通状況が分かるようになるなどブランド側にもメリットがある。消費者が製品を購入・売却した際のデータに関する使用許可など、情報保護に関する配慮が必要であることは言うまでもない。
ここ数年はサステナビリティに敏感な若い世代を中心にリセール市場が盛り上がりを見せており、ブランド品の米委託販売サイト「ザ・リアルリアル(THE REAL REAL)」が上場するなど、リセールはもはや消費行動の一部として定着したと言っていいだろう。例えば、H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)は19年10月にリセールプラットフォームのセルピー(SELLPY)を買収して自社ブランドの中古品販売に乗り出している。パトリス・ルーヴェ(Patrice Louvet)=ラルフ ローレン社長兼最高経営責任者(CEO)は、「リセールは事業モデルとしてもいい考えだと思う。ラルフ ローレンは時代に左右されないタイムレスで品質の高い製品を扱っているので、リセール市場に向いている」と、米「WWD」が10月29、30日に開催した「アパレル&リテールCEOサミット(Apparel & Retail CEO Summit)」で述べた。
トレーサビリティーに関するほかの取り組みとしては、米IoT企業イオン(EON)が中心となって立ち上げられた「コネクト・ファッション・グローバル・イニシアチブ(The Connect Fashion Global Initiative)」がある。これは同社が開発したマイクロチップ「サーキュラーID(CircularID)」を衣類に織り込み、製品にトレーサビリティーを持たせることで、ファッション業界における循環型経済の実現を目指すというものだ。チップの商用化は11月からだが、すでに「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」や「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」を擁するPVHコープ(PVH CORP)、H&M、米スーパーマーケットチェーンのターゲット(TARGET)、マイクロソフト(MICROSOFT)などが参加を表明している。