世界一“ハイプ”なストリートの祭典「コンプレックスコン(ComplexCon)」が11月2、3日にロサンゼルスのロングビーチにあるコンベンションセンターで開催された。ハイプとは熱狂を意味し、“ハイプビースト”と呼ばれるストリートファッションを好む若者らが限定アイテムを求めて来場。残念ながら今回、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)はアドバイザーを辞退してしまったが、村上隆が変わらずアートディレクターとして参加し、ファッションやアート、フード、音楽ライブなど多彩なコンテンツが集結した。前回の入場者数は6万人。詳細はこちらから。
熱狂に混乱や暴動はつきものだ。しかし、シカゴ開催を経て5回目を迎えた今回は、それらに真っ向からNOを突き立てた。会場の至る所に「ノーシガレット、ノーベイプ(電子タバコ)、ノーマリファナ(カリフォルニア州は合法)、その他あらゆる煙が出るモノ禁止」の看板を立て、外部のセキュリティー会社を導入するなど、これまで以上に安全面を強化した。開場前の行列もこれまでは4日前から並ぶ人がいたが、「当日の6時から」とルールを変更し、徹底的に混乱の芽を排除した。列の横入りやICリストバンド(チケットの代わりに入場者が着用するもので、エキジビターやメディア、ゲスト、ハンディキャップなどさまざまな種類がある)の不正売買を問題視したためか、VIP(648ドル、約7万円)の入場時間を一般よりも2時間早く、メディアやゲスト、一部のエキジビターなどよりも1時間早い9時からに設定。激しい争奪戦が繰り広げられていた前回までとは異なり、“ゆっくり”と買い物が楽しめる時間をつくった。混乱や暴動とはほど遠い、いつになくクリーンでヘルシーな「コンプレックスコン」に生まれ変わった。
だが、例年を知る人は物足りなさを感じたのも事実だ。原因の一つは、売り上げの半分を占めていた「ナイキ(NIKE)」と「アディダス(ADIDAS)」の不参加だろう(両ブランドが参加した2017年のイベント全体の商品売り上げは約22億~28億円だった)。日本限定のスニーカーを発売した「アトモス(ATMOS)」は例年通り健闘したが、成果としてはそれが唯一といっていい。「コンプレックスコン」のコアにあるスニーカーが激減し、レアものを求めるスニーカーヘッズの来場が減った。一方で、「24カラッツ(24KARATS)」や「オールウェイズ アウト オブ ストック(ALWAYS OUT OF STOCK)」「チェリー福岡(CHERRY FUKUOKA)」「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」「トウキョウビタミン(TOKYO VITAMIN)」「ウィンダンシー(WIND AND SEA)」「エックスガール(X-GIRL)」「エクストララージ(XLARGE)」などのほか、アニメ「ワンピース(ONE PIECE)」や「ゴジラ」といった日本ブランドや企業による出店ブースが増えたのも今回の特徴だ。だが、前回のように隅から隅までなんでも“食い尽くす”客層とは異なり、行列ができるまでとはならなかった。最低でも7000ドル(約75万6000円)と言われるブースの賃料(さらに内装費やスタッフの渡航費なども必要)を考えると、プロモーション費にしては少々高過ぎた印象だ。
しかし、新たな可能性も見えた。VERDYがキャラクターデザインを担当した初のキッズパーク「プチュウ(PUCHU!)」は、キッズやファミリーの憩いの場となっていたし、何よりもクリーンでヘルシーというポジティブな印象を芽生えさせた。「暴動を助長するような限定商品の発売が行われる場所には出店できない」と言って遠ざかってしまったナショナルブランドの再招致に、一役買ってくれるかも知れない。また、例年通り、村上隆のサイン会やフォトセッションは終始盛り上がっており、カイカイキキのブースも列が途切れなかった。カイカイキキに所属するMADSAKIやフューチュラ(Futura)、VERDY、河村康輔らアート要素も増えた。さらに今回のライブステージでメインアクトを飾ったキッド・カディ(Kid Kudi)が1時間半近くパフォーマンスするなど、観客の満足度は高かったはずだ。
主催側が行ったアンケートの集計によると、来場者が最も期待しているのはやはりマーケットプレースのようだ。今後も商品をどれだけこの2日間に合わせて仕込めるかが重要なポイントとなるが、「近年『ハイプフェスト(HYPE FEST)』など、さまざまなコンベンションが増え、商品を仕込むのが大変になってきている。オリンピックみたいに毎年一つだけと決まっていればいいのに」というジェフ・ステイプル(Jeff Staple)や「毎年出店するかしないかはギリギリになって決めるが、結果的に今年は商品が間に合わなかった」というクリス・ギブス(Chris Gibbs)「ユニオン(UNION)」オーナーらの難しさを嘆く声もある。
客層もガラリと代わった今、マーケット以外でいかにハイプを起こせるかが今後の鍵となるだろう。「コンプレックスコン」を主催するコンプレックスメディアのニール・ライト(Niel Wright)=ディレクターは、「このイベントは常に進化している。今後は社会問題に関わるような出展も積極的に増やしていくつもりだ。イベント後に大量に出るゴミの処理など、環境問題も考えていかなければならない」と話す。“ストリート”を超えて、「コンプレックスコン」を含むコンベンションの真価が問われるのはこれからだ。