ファッション

マーティン・ローズの“ちょっと変な日常着” 「バレンシアガ」でデムナを支えたクリエイションのルーツ

 英ロンドン発の「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」は、誰のクローゼットにでもあるような日常着をベースに、ディテールを誇張したり、シルエットを膨らませたりひねったりする違和感のあるクリエイションが人気だ。デザイナーのマーティン・ローズの一風変わったクリエイションに「バレンシアガ(BALENCIAGA)」を率いるデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が惚れ込み、同ブランドのメンズのディレクションを担っていた経歴もある。「ナイキ(NIKE)」や「ナパピリ(NAPAPIJRI)」といった歴史あるブランドとの協業も成功させ、昨今は知名度をさらに上げている。現在の卸先は約100アカウント。日本でもアディッション アデライデ(ADDITION ADELAIDE)やリステア(RESTIR)などの有力店を含む約20アカウントで取り扱われている。そんな彼女が、初めて日本を訪れた。何がきっかけでメンズウエアを作り、現在の“ちょっと変な日常着”のスタイルを確立したのか。目まぐるしく変わる街、渋谷で話を聞いた。

WWDジャパン(以下、WWD):「マーティン ローズ」を立ち上げた経緯は?

マーティン・ローズ(以下、ローズ):ミドルセックスユニバーシティー(Middlesex University、ロンドン北部に位置する国立大学)で服づくりを学んだ後、友人と一緒にTシャツ専門の小さなレーベル「エルエムエヌオーピー(LMNOP)」を立ち上げました。そこで服をつくるうちに自分が表現したいスタイルが明確になり、2007年に「マーティン ローズ」を立ち上げました。当初はメンズのTシャツとシャツのみの小さなコレクションでしたが、徐々に拡大してジャケットやパンツなども手掛けるようになりました。

WWD:メンズウエアをデザインする理由は?

ローズ:小さなころから兄弟や親戚のスタイルを見ていたから、メンズウエアは私にとってすごく身近な存在だったんです。男性の服を着たり、男の子っぽく着こなしたりするのがずっと好きで、大学ではメンズの服を着ながらウィメンズの服づくりを学んでいました(笑)。

WWD:あなたのデザインは、肩が張り出したジャケットや極端なバギーシルエットのパンツなど“違和感のある日常着”がベースとなっているが、このルーツは?。

ローズ:当たり前のように見慣れた服を、いかに新鮮に見せるかを常に意識してデザインしています。服の新しいアイデアは、古着屋で買ったアイテムを切り貼りして遊んでいるときに思いつくことが多いですね。この遊びは学生のころからやっていて、それが今のクリエイションに通じています。

WWD:今のブランドスタイルはいつから確立した?

ローズ: 2013-14年秋冬コレクションと14-15年秋冬コレクションだと思います。このころは、見慣れたもの同士を組み合わせて服を新鮮に見せることに挑戦していました。14-15年秋冬コレクションは、アーティストのスティーブ・テリー(Steve Terry)と一緒に制作したクラブのフライヤー風プリントをジャケットなどに施し、パンクカルチャーに着想を得て、ビールの銘柄がプリントされたタオル(英のパブでよく扱われる)をジーンズにパッチワークすることにもトライしました。

コラボで知名度拡大
「クリエイションにもポジティブに作用」

WWD:「ナイキ」や「ナパピリ」との協業は自身のブランドに役立ったか?

ローズ:両ブランドとのコラボレーションによって、ブランドの認知度が向上しました。「ナイキ」では靴、「ナパピリ」ではスキーウエアなど、自分が踏み込んでいなかった領域の知識と経験が得られたので、「マーティン ローズ」のクリエイションにもポジティブに作用していますね。

WWD:「ナパピリ」とのコラボで意識した点は?

ローズ:「ナパピリ」は「マーティン ローズ」とは絶対的に異なるブランド。色使いや形に対する考え方はかなり違うし、「ナパピリ」のアイテムにはどこか“楽しさ”があります。コラボレーションでは、その“楽しさ”を自分なりに表現することを強く意識し、ビビットなカラーリングで表現しました。

WWD:ビジュアルメイキングも特徴的だが?

ローズ:ファーストコレクションでキャンペーンビジュアルを発表したときに大きな反響を得たので、それ以降も継続しています。初期段階からビジュアルメイキングの案があったわけではなく、コラボレーションで何を行うべきかを模索する中で、コミュニケーションの一つとして考案されました。

WWD:「マーティン ローズ」の20年春夏のビジュアルもユニークだったが、その経験を発展させたもの?

ローズ:ビジュアルづくりはもともと好きでしたが、「ナパピリ」とのコラボを経て、より一層注力するようになりました。「マーティン ローズ」の20年春夏のマッチョな男性をそろえたビジュアルは、フォトグラファーのディック・ジュエル(Dick Jewell)のアイデアです。彼は撮影が決まった当初から「アマチュアのボディビルダーを使いたい!」と言っていました。モデルたちには撮影内容を知らせていなかったようで、現場に来た彼らは「女の子を持ち上げるなんて聞いてねえよ!」と驚いていた様子でした(笑)。椅子が壊れるアクシデントにも見舞われてなかなか大変な撮影でしたが、素晴らしいイメージが出来上がりました。

デムナとの交友、
ブランドのこれから

WWD:デムナ・ヴァザリアと親交が深いと聞いているが?

ローズ:彼が「ヴェトモン(VETEMENTS)」を始める前から付き合いがあります。ある日、「あなたのブランドの大ファンです」という一通のメールが届き、それがデムナでした。フォトグラファーとして活動する共通の知り合いがいて、彼が私の連絡先をデムナに教えたそうです。

WWD:「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のクリエイションに参加した経緯は?

ローズ:デムナが「バレンシアガ」のクリエイティブ・ディレクターに就いたとき、「メンズウエアをもっと拡大したい。パリに来て、僕たちと一緒に仕事をしないか?」と声をかけられました。当時の「バレンシアガ」はメンズの規模が小さくショーすら開催していなかった。でも、「デムナのような才能ある人と一緒にできるなら」と、快諾しました。デムナのデビューコレクションから、5シーズンほどメンズチームのディレクションを担当しました。

WWD:今後また、歴史あるメゾンで仕事をしたいと思うか?

ローズ:特に望んではいません。「バレンシアガ」に参画したのは、デムナとの素晴らしい関係があったから。彼のように昔から付き合いのある人に誘われたら考えるかもしれませんが、大きなブランドはいろいろとスゴいですからね(笑)

WWD:最後に、これから挑戦したいことを教えてください。

ローズ:デザイナーにとって最も重要なことは、純粋な姿勢を保つことです。チームが大きくなると、クリエイションの背後にビジネスがちらついて、自分たちが本当に好きなことにフォーカスするのが難しくなります。「マーティン ローズ」は今、8人のチームで運営しています。今後チームがどれだけ大きくなっても、自分たちが愛するモノ・コトを愛し続けて、純粋にクリエイションを楽しみたいです。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

リーダーたちに聞く「最強のファッション ✕ DX」

「WWDJAPAN」11月18日号の特集は、毎年恒例の「DX特集」です。今回はDXの先進企業&キーパーソンたちに「リテール」「サプライチェーン」「AI」そして「中国」の4つのテーマで迫ります。「シーイン」「TEMU」などメガ越境EC企業の台頭する一方、1992年には世界一だった日本企業の競争力は直近では38位にまで後退。その理由は生産性の低さです。DXは多くの日本企業の経営者にとって待ったなしの課…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。